第368話 謁見
次の日の王宮。俺は謁見の間でアレクシス様の横に側近として並んでいる。使徒としての威厳を最大限に出すためにということで、ファブリスも一緒だ。
リシャール様もアレクシス様の横に並んでいて、それ以外の多くの貴族は謁見の間の左右に均等に並んでいる。皆がヴァロワ王国の第二王子という人物に興味津々だ。
先ほど優雅な動作で謁見の間に入ってきて跪いている男性は、二十歳ぐらいに見えるワイルド系の男性だった。少しクセのある黒髪に黒の瞳、肌は日に焼けているのか小麦色で、背はかなり高くてガタイも良いから毎日鍛えてる人だと思う。第二王子が騎士になるのかは分からないけど、騎士服が似合いそうな感じ。
「お初にお目にかかります。私はヴァロワ王国第二王子である、フェリシアーノ・ヴァロワと申します。この度は急な訪れにも関わらず謁見の機会を頂きまして、誠にありがとうございます」
「私はラースラシア王国国王である、アレクシス・ラースラシアだ。顔を上げてくれ」
アレクシス様のその声に従って顔を上げた第二王子は、王族らしい優雅な笑みをたたえていた。焦ってる様子は全く感じられない……さすが王族ってところなのかな。
「今回は先触れや書簡も届いていないが、貴殿はなぜ我が国へいらしたのだ?」
「事前にご連絡できなかったことにつきましては、心よりお詫びを申し上げます。誠に申し訳ございません。しかし事前連絡をできる時間的余裕がなかったのでございます。ご理解いただけたら幸いです」
「それは何故だ?」
「はい。……実は我が国は約三週間前に、巨大な魔物により甚大な被害を受けました。その魔物は人の背丈の数倍ほどもある大きさで、体表は硬い鱗に覆われており口から火を吹く魔物です。鱗がとても硬く物理攻撃は一切効かず、多くの民が犠牲になりました」
その話を聞いて謁見の間には一気に緊張感が漂った。そんな魔物がいるってことは、いつラースラシア王国の方に来るのかも分からない。未知の強大な魔物は怖いだろう。
でも話を聞く限り、その魔物ってファイヤーリザードな気がするんだけど……
「そのようなことがあったとは……、その魔物は倒せたのだろうか?」
「いえ、なんとか戦ってはいましたが倒しきれず、そのうちに魔物の森へ戻って行きました」
「ということは、その魔物は魔物の森から意図的に出てきたということか?」
「……そのようです。魔物の森から一キロほど離れた前線の街を襲いました」
魔物は魔物の森から出てこないっていうのが一般的な考え方なのに、そんなこともあるのか。
「ねぇファブリス、この話の魔物って多分ファイヤーリザードのことだよね? 魔物の森から出て人間の街を襲うなんてことあるの?」
俺は寝そべっていたファブリスの背中を叩いて耳を近づけてもらい、誰にも聞こえないような小声でそう問いかけた。
『この世界は、魔物の森以外の場所に魔力を有したものがほとんど存在しない。魔物は魔力を有したものを糧とするので、魔物の森を出てくることはほとんどないのだ。肉食であれ草食であれ。しかし例外が存在するだろう? それが人間だ。大方魔物の森に迷い込んだ人間と偶然遭遇し、味を占めたのではないか?』
「想像したくもない話だね……でもあり得るかも。ファイヤーリザードって今までは魔物の森の奥にいたけど、なんで今回はこんな浅いところに来たんだろ」
『別に魔物の森の奥にいると決まっているわけではないだろう? 奥の方が森となってからの年数が経っていることで、魔力を多く有している成長した魔植物が多いから、奥に強い魔物が多かっただけだろう』
確かにそうか……なんとなく強い魔物は奥にしかいないって思ってたけど、魔物だって自由に移動できるんだから例外もあるよね。
「今回はあの強大な魔物が気まぐれに森へ戻ってくれたことで、我が国は壊滅を免れたようなもの。もしもう一度襲われたら……今度は国を守れないかもしれません。また騎士団が壊滅的な被害を受けたことで、魔物の森の進行を止められなくなっております。……そこで使徒様がご降臨されたと噂の貴国に、ご助力を賜れないかと参りました。どうか、どうかよろしくお願いいたします」
俺がファブリスと話しているうちに話は佳境に入ったらしい。ヴァロワ王国の第二王子殿下は、深く頭を下げている。
「貴殿が我が国を訪れた経緯は理解した。してレオン、使徒としての考えを聞かせてほしい」
「かしこまりました。まずフェリシアーノ第二王子殿下、頭を上げてください。私が使徒であり、ラースラシア王国にて大公の位を授かっているレオン・ジャパーニスです。そしてこちらが神獣であるファブリスです」
フェリシアーノ第二王子殿下は俺のその言葉にさすがに驚きを隠せなかったのか、軽く目を見開いた。使徒がまだ子供だって情報は他国に渡ってないみたいだ。それにファブリスのことも。
その状態で謁見の間に入りアレクシス様の横に大きな獣が寝そべってるのを見て、全く動揺を表に出さなかったのは凄いな。俺もこのポーカーフェイスと貴族の笑み、それからカッコ良い威厳を身につけたい。
「御目通り叶いましたこと、光栄でございます」
「いえ、貴国の危機ですから。ミシュリーヌ様も魔物の森が広がっている現状を嘆いておられます。よって私は使徒として、貴国を助けたいと思っています」
俺のその言葉に、フェリシアーノ第二王子殿下は顔に喜色を浮かべる。
「ありがとうございますっ!」
この王子様は国を、そこに住む民を助けるために奔走できる良い人だ。こういう人は助けてあげたくなっちゃうよね。
「レオンもこう言っていることであるし、我が国としては貴国に助力するのもやぶさかではない。しかしそこは国家間の問題、無償で助力をするだけというわけにもいかない。レオンも我が国の貴族であるからな」
アレクシス様のその言葉に、フェリシアーノ殿下は再度表情を引き締めた。
「もちろんでございます。ご助力いただけた際には、相応のお礼はいたします」
「ほう、それは具体的にどのようなものだ?」
「我が国にとって無理のない範囲であるならば、できる限り貴国の望みを叶える形で」
その言葉に今度はアレクシス様が少し目を見開いた。多分予想以上に向こうが高い報酬を提示したからだろう。こっちの望みをできる限り叶えるなんて普通言わないよね。そうまでしても早くに助けてほしいってことなのか。
「……分かった。ではこの後会議室で具体的な契約について話し合おう。貴国の助けになることは約束する」
そうして謁見はスムーズに終わり、俺達は場所を会議室に移すことになった。
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