第369話 会議
長い机を挟むように、ラースラシア王国の重鎮とヴァロワ王国の重鎮が席に着く。一番上座にいるのはアレクシス様とフェリシアーノ第二王子殿下。そしてラースラシア王国サイドは、俺、リシャール様、軍務大臣であるコラフェイス前公爵と続く。ヴァロワ王国サイドは文官らしき人、騎士らしき人と数人が座っている。
「では早速会議を始めよう。まずは貴国を襲った強大な魔物についてレオンから話がある。レオンよろしく頼む」
「かしこまりました。先程の話を聞く限りですが、貴国を襲った魔物の見当がついております。名をファイヤーリザードと言う魔物です」
さっき少し特徴を聞いただけで魔物を特定した俺に、ヴァロワ王国側から驚愕の眼差しを向けられる。
「あの魔物は、ファイヤーリザードと言うのですね……」
「私は少し前に戦ったことがあるのですが、体表が硬化しているところや口から火を吹く点など、共通点が多くあります」
「た、戦われたのですか!?」
「はい。その時は少し苦戦しつつも倒すことができました」
ファイヤーリザードが何十体も一気に襲ってきたらさすがにやばいかもしれないけど、数体ぐらいなら問題なく勝てそうだった。
「使徒様は、本当にお強いのですね……」
「ミシュリーヌ様のおかげです。また私だけではなくファブリスと共に戦いましたから。ね、ファブリス」
『うむ、ファイヤーリザードは確かに硬くて厄介だが、倒せぬ敵ではないぞ』
ファブリスの声が会議室中に響いて、その後に静寂が訪れた。ファブリスの声を初めて聞いたヴァロワ王国の人達は、全員が驚愕に目を見開いている。
「あの、驚かせてしまったのならばすみません。ファブリスは人間の言葉を理解して話すこともできるので、ご理解ください」
「は、はい。神獣様のお声を聞くことができて、光栄でございます」
フェリシアーノ殿下は困惑している様子ながらも、何とかそう声を絞り出して頭を下げた。やっぱり見た目が獣だからか、人の言葉を操るのには驚くみたいだ。
「……それでは話を戻しますが、ファイヤーリザードならば倒すことができますので、貴国に助力をするにあたり必要な戦力は私とファブリスのみで問題ありません。しかし脅威はファイヤーリザードだけでなく、魔物の森自体も進行してきているとのことでした。それならば相応の戦力が必要です。私達は強大な一つの敵には強いですが、小さな複数の敵には手が足りませんので」
俺のその言葉を聞いてフェリシアーノ殿下が頷いてくれたところで、アレクシス様が話を引き継いでくれた。
「ということなので、貴国への助力には使徒であり大公のレオンと神獣様、それから第二第三騎士団から騎士を数十名派遣する。また他国に騎士が入ることに対して周辺国を刺激しないためにも、使節団という形を取りたい。そのためレオンの婚約者であり第一王女のマルティーヌと、騎士団の最高責任者である軍務大臣も同行させる。軍務大臣を同行させるのは、使節団の目的を魔物の森という脅威に立ち向かうための合同演習とするからだ。ここまでで異論はあるか?」
この会議室に集まるまでに二時間ほど休憩兼話し合いの時間が設けられたんだけど、全てそこで決まったことだ。
俺はマルティーヌが一緒に行くことに最初は反対したけど、結局はマルティーヌ本人に押し切られてしまった。レオンがいるなら心配いらないし他国に行ってみたい、そんなことを無邪気な笑みで言われたら頷くしかないよね……絶対にマルティーヌの安全は確保して、どうせ行くのなら最大限に楽しんでもらおうと思っている。
「ございません。周辺国との軋轢まで考えてくださり感謝申し上げます」
「そこは慎重にやらねばならぬからな。しかし一つだけ問題がある。貴国と我が国は接していないので、必ずどこか別の国を通って行かなければならない。何か案はあるのか?」
「はい。我が国と貴国との間にあるチェスプリオ公国ですが、実質的には我が国の属国ですので、こちらを通っていただければと思います」
そうだったのか……初めて知った情報だ。隣をチラッと見てみるとアレクシス様も驚いてるみたい。まだ情報が出回ってないのかもしれないな。
「それは……どのような経緯で属国としたのか聞いても良いか? 確か数年前はそのようなことになっていなかったはずだが」
「事の発端は、昨年起きた作物の不作による飢饉です。我が国とその周辺国では日照り続きで深刻な水不足に陥り、特にひどかったのがチェスプリオ公国でした。元々我が国とチェスプリオ公国は往来も活発で良好な関係を保っていたため、隣国の危機に支援を申し入れ、その見返りとして実質的な属国状態となっております」
去年そんなことがあったんだ……この国では普通に雨が降ってたし知らなかった。やっぱり作物の不作って怖いことだよね。稲が日照り続きの畑でも関係なく育つのだとしたら、間違いなくこの世界の救世主となる。
「そのような経緯が…… あまり関わりがないとはいえ、助力できずに申し訳ない。チェスプリオ公国へは、我が国から備蓄してある食料を届けよう」
アレクシス様のその言葉にフェリシアーノ殿下の貴族の仮面が一瞬崩れ、優しげな笑みを浮かべた。
「ありがとうございます。チェスプリオ公爵閣下もお喜びになるかと」
「我が国はチェスプリオ公国と深い繋がりはないが、これを機会に親交を深められたらと思っている。仲介を頼む」
「お任せください」
そうしてヴァロワ王国にラースラシア王国の使節団が向かう道筋ができたところで、アレクシス様が話題を変えた。
「次は貴国から我が国への報酬の件に移っても良いか?」
「もちろんでございます」
「我が国から要求したいのは大きく分けて三つだ。一つ目は貴国の品を優先的に輸入できる権利。特に香辛料の類とカカオを定期的に輸入させてもらいたい。そして二つ目は貴国の特産品を我が国で栽培する権利。これも先ほどと同様の品だ。そして三つ目は同盟を結びたい。これは一方的なものではなく、互いに危機の時は助け合う事、また互いに剣を向けない事を定めたい」
実はこの要求を決めたのはほとんど俺だったりする。アレクシス様がヴァロワ王国に求めたいのは友好関係と同盟ぐらいだって言ってたから、他は俺に決めさせてもらったのだ。
これから香辛料を使っていろんな料理を開発する予定だし、カカオはチョコレートを作るのなら今までのように少し輸入してるぐらいじゃ足りないだろうから。カカオを輸入してる商家に頼んでたくさん輸入をしてもらおうかとも思ったんだけど、王子に頼めるのならこれ以上はないだろう。
「それは……我が国にとっても利益のあることばかりですが、本当に良いのでしょうか?」
フェリシアーノ殿下は困惑顔で、思わずと言った様子でそう口にした。
「我が国の特産品を輸入していただけるのは嬉しい事ですし、同盟もこちらからお願いしたいほどです。特産品を生産する権利は一見我が国が損失を被るように見えますが……気候の問題でラースラシア王国では育たないかと」
「それでも問題ない。我が国でも育つようにレオンが研究したいのだそうだ」
「使徒様が……」
「はい。もし栽培に成功した暁には、我が国でも好きなだけ作っても良いですか?」
俺が研究するというところで少しだけ躊躇ったようだけど、結局フェリシアーノ殿下は頷いてくれた。他に厳しい要求がなかったのも幸いしたのだろう。
これで俺の領地でも大々的にカカオが作れる! 基本的には輸入で済まそうとは思ってるんだけど、色々と生育環境を変えたりして品種改良をしてみたいのだ。美味しいチョコレートのためには美味しいカカオからだよね。
「では書面にて契約しよう。リシャール」
そうしてラースラシア王国とヴァロワ王国の間で、正式に契約が交わされた。これから先、この二国は同盟国だ。
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