第365話 お米の美味しさ

「レオン様……どうでしたか?」


 俺が何も言葉を発さないからか、ロジェが心配そうに声をかけてくれた。


「ロジェ、これね、めっちゃくちゃ美味しい!! 俺が求めてたのこれだよ!! 待って、皆も食べてみて」


 俺はアイテムボックスからお皿を取り出してお米をよそい、皆にスプーンと共に手渡した。


「少し塩をかけた方が美味しいと思う。まずはそのまま食べて、次に塩をかけて食べてみて」


 そう伝えて塩を机の上に置いてから、俺はまた米を口に入れた。次は塩をかけたものだ。うわぁ〜、なにこれ、美味しすぎる! 塩めちゃくちゃ合う!

 塩ご飯ってこんなに美味しかったっけ? 味噌汁飲みたい、漬物食べたい、焼き魚食べたい。


「うん? ちょっと甘さもあるんだな。不思議な食感だ」

「初めて食べる食感ですね……」

「美味しい、とは思います。ただ食べ慣れてなくて違和感が大きいです」


 三人の反応はそんな感じだった。俺との温度差が凄い。でもまあそうだよね。一度もお米を食べたことがない人にお米と塩だけを渡したら、こんな反応だろう。


「これはパンみたいなものだから、本来は他のものと一緒に食べるんだ。例えばステーキとか」


 アイテムボックスにステーキがあった気がするな……そう思って中を探ると良い部位のステーキがあったので、それを取り出して切り分け、全員のお皿に乗せた。


「お米と一緒に食べてみて。多分合うよ」

「分かりました……おおっ、これは美味しいです!」

「分かってくれる!? 美味しいよね!」

「確かに合うな」

「パンよりもこれの方が合うかもしれません……」


 今度は皆の反応も良いみたい。やっぱりお米って美味しいよね。俺もステーキと一緒に口に運ぶ……うん、もう美味しすぎる。やっぱりステーキにはライスだよ。ずっとパンは何かが違うと思ってたんだ。


「本当に最高。美味しい」


 そこからは夢中でお米を食べ進めた。元々そこまで量が多くなかったので、すぐに四人で食べ切ってしまう。

 皆で鍋の中を覗き込み米粒一つ残っていないのを確認して、はぁ〜とため息を吐いた。


「もう少し食べたかったな。噛めば噛むほど美味しくなるから、ついついもう一口食べたくなる」


 そう言ったのはジェロムだ。その言葉にロジェとローランも頷いている。


「お米はどうだった。人気になると思う?」

「絶対になるな。こんなに育てるのが簡単で、しかもパンより楽に食べられるだろう? これが広まったらパンが売れなくなる」

「私もこのお米というものは凄い可能性を秘めていると思います。鍋で茹でるだけで美味しいというのが特に良いですね。パンはどうしても作るのに手間がかかりますから」


 やっぱりそうだよね……問題はどうやって広めるのかだな。後は価格設定も大切だ。二週間で収穫までできて季節関係なく育つってなったら相当安くできるだろうけど、それをしちゃったら小麦農家と小麦を売ってる商人、さらにパン屋などが大打撃だろう。

 やっぱりパンと同じぐらいの値段で売るのが一番かな。そして一気に広めるんじゃなくて、少しずつ浸透させていけばそこまで悪影響はないだろう……と思う。これは実際やってみないと分からない。


「ロジェはどう思う?」

「そうですね……とても画期的で今後人類を救う可能性を秘めた作物であると思います。ジェロムの話からして特別な世話は必要なく、ただ広い場所さえあれば育つようですので、この作物があれば飢饉とは無縁になるかと。しかしパンとお米、どちらが好きかと言われたら私はパンを選びます。このお米は少し独特な香りがしますので、それが苦手な者もいるかと思います」


 独特な香りか……やっぱり精米してないからだよね。精米できるようになったら玄米は少し安く売って、白米は高級品として売るのもありかな。


「このお米を売りに出しても大混乱はしないかな?」

「どの程度の価格で売られるのかによります。手間暇と収穫量を考えたら小麦の五分の一ほどの価格でも売れるかと思いますが、さすがにそれをしてしまえば大混乱になるかと。小麦と同程度の価格にするのでしたら、問題なく浸透していくのではと思います」


 やっぱり問題は価格か。最初は小麦と同じ値段にして、俺がお米専門店を作って米の美味しさを地道に広げていこうかな。

 そうなるとやっぱり、大公家の領地で採れる特産品にしたい。とりあえずアレクシス様に相談しよう。


「皆色々と意見をありがとう。皆の意見を参考にアレクシス様に相談してみるよ」

「それがよろしいかと思います」

「うん。……相談には実物があった方が良いよね。ジェロム、今度収穫できたお米はアレクシス様のところに持っていくから、綺麗な布袋にでも入れて保管しておいてくれる?」

「かしこまりました」

「ありがとう。よろしくね」


 そうして今後の予定を決めて、その日は畑を後にした。



 ――それから数週間後。俺は収穫したままの玄米であるお米となんとか手作業で精米した白米に近づいたもの、またその二つを炊いたものをアイテムボックスに仕舞って仕事に向かった。


 いつも通り執務室に入り、アレクシス様とリシャール様、それから文官の方々に挨拶をする。文官の人達は一緒に働いているうちに完全に俺に慣れて、今ではにこやかに挨拶をし雑談までできる関係性だ。


「アレクシス様、本日は少しお話ししたいことがありまして、お時間をいただけないでしょうか?」

「分かった。ここで話せる話か?」

「……いえ、一応人払いをお願いいたします」


 俺のその言葉にアレクシス様は立ち上がり、隣の応接室に移動することになった。前は執務室で人払いをしてたんだけど、あまりにも他の人に聞かれない方がいい話が多くて毎回文官達を退出させるのも大変で、最近は俺達が隣の応接室に向かうことが多いのだ。


 文官達に軽く指示を出して従者に監督を任せ、アレクシス様とリシャール様、俺の三人だけで隣へ移動する。そしていつもの定位置であるソファーに腰掛けると、早速アレクシス様が口を開いた。


「それで今回は何の話だろうか?」

「今回は稲についてです」

「……そういえばトリスタンが言っていたな。色々と忙しくて話を聞くのを忘ていた。主食になるのだったか?」


 魔物の森から帰るときに少し話をしただけなのに、トリスタン様はちゃんと報告してたんだ。


「はい。米という名前の主食になります。こちらが収穫したそのままのもの、そしてこちらがより美味しくなるように手を加えたものです。さらにこの鍋に入っているのが、先ほど説明した二つを食べられるようにしたものです」


 玄米、白米、そしてその二つを炊いたものをアイテムボックスから取り出す。炊いたものはすぐに仕舞ったので熱々の炊き立てだ。


「小麦と似たような形だが、これは粉にするのではなくそのまま食べるのか?」

「粉にしても使えますが、そのままでも十分に美味しく食べることができます。とりあえず試食していただけませんか?」

「そうだな」


 俺は白米と玄米をお皿によそって、おかずとしてステーキや牛肉の煮込み、野菜炒めなどを準備した。


「お米は主食ですので、おかずと共に食べるのがおすすめです」

「ふむ、ではいただこう。まずはそのままだな」

「私もいただいてみます」


 アレクシス様はスプーンを手に取りそっとお米を掬い取ろうとしたけれど、予想以上にもちもちしていたからか、スプーンがお米に触れたところで動きを止める。


「これは……予想以上に弾力があるな。不思議な感触だ。それに粘りもあるのか?」

「本当ですね……パンとは全く違うようです」


 二人はお米の不思議な感触を一通り確認し、やっと口にする決心がついたのか今度こそスプーンに一口分のお米を取った。そしてゆっくりと口に入れて咀嚼する。


「不思議な食感だが、ほのかに甘味があって美味しいな」

「そうですね……しかし独特な香りもあるかと」


 二人が最初に食べたのは玄米だったので、やっぱり香りは感じるみたいだ。

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