第356話 屋敷の完成

 今日はジャパーニス大公家にとって大切な日。そう、ついに屋敷が完成したのだ!


「お兄ちゃん! 新しいお家に行くんだよね!」

「そうだよ。すっごく広くて大きいから驚くよ」

「楽しみ!」


 今は家族皆と馬車に乗って、タウンゼント公爵家から移動しているところだ。公爵家の皆さんには今までのお礼をしっかりと伝えて屋敷を出た。一年間暮らした屋敷だから少し寂しかったけど、リシャール様がいつでも来て良いと言ってくれたから笑顔で屋敷を後にすることができた。


 馬車に揺られることほんの数分、すぐにジャパーニス大公家の屋敷に到着する。タウンゼント公爵家とはかなり近い場所にあるのだ。立派な新品の門には門番が二人立っていて、俺達を迎え入れてくれた。

 敷地内に入るとまずは右側に門番の詰所があり、目の前には馬車が余裕で通れるほどの整備された道が、屋敷までずっと続いているようだ。その道の両脇には綺麗に整備された庭が目に楽しい。


 その庭には馬車は通れないけれど、数人が横に並んで歩けるほどの散歩道が整備されているのが見える。さらに遠くには東家も見えるな。

 そんな庭を楽しみながら進んでいくと、屋敷がやっと見えてきた。屋敷の前には美しい噴水が設置されていて、その周りにはぐるりと馬車が通れるような道が整備されている。


 馬車は噴水の横を通ってゆっくりと進むと、屋敷の前にぴたりと止まった。


「お兄ちゃん……なんか、凄いね」


 マリーが屋敷の大きさと優美さに圧倒されて、逆にはしゃげなくなってるみたいだ。でもその気持ち凄く分かる。ちょっとやりすぎだよ……ここが俺の家だなんて信じられない。

 広さはあり得ないほどだし、この噴水だって必要? って感じだし……高位貴族の屋敷には噴水があることもあるから、まあ、必要なのかな?


 庭の植物だって芸術的なほど綺麗に整えられていた。何人の庭師が雇われてるんだろうか……ブラックな職場にならないように、足りないのなら人を増やしても良いって言っておこう。


「じゃあ皆、馬車から降りようか。ここは俺達の家なんだから緊張しなくて良いからね」

「でもレオン、屋敷の前にたくさんの人が並んでるわよ」

「あれって全員使用人、なのかい?」

「お兄ちゃん、人がたくさんだね……」


 馬車の窓からチラッと確認すると、総勢何十人、いや三桁いくか? ってほどの人数がずらっと何列かになって並んでいるのだ。自分の家なのに少し緊張する。


「皆使用人だね、後は兵士もいるかな。でも全員俺が雇ってる人達だから緊張する必要はないよ。あんまり気負いすぎずに行こう?」


 俺のその言葉に皆が頷いてくれたところで、俺達は馬車から降りた。すると別の馬車で先に来てくれていた従者や護衛がすぐ側まで来てくれる。馴染みの顔に安心するな。


「旦那様、ご家族様、おかえりなさいませ」


 ずらっと並んでいた使用人が完璧に声を揃えて挨拶をしてくれた。そうか、おかえりなさいって言われるんだね。ちょっと嬉しいかも。


「出迎えありがとう。皆の働きには期待してるよ。これからよろしくね」


 俺のその言葉に全員が一糸乱れぬ動きで頭を下げる。教育できる期間は二週間ほどしかなかったはずなのに、その期間でここまで仕上げてるのは凄いな。

 ロニーとルノーはちゃんといるし……アンヌもいた。エバンも、ヨアンもいるね。全員ちゃんと引っ越せたみたいで良かった。あっ、ニコラもいた。兵士の服装が予想以上に似合っている。やっぱり体格が良いのは羨ましいな……


「アルノル、短い期間でここまで屋敷を整えてくれてありがとう」


 俺は執事のアルノルに話しかけた。アルバンさんの息子なだけあって、やっぱり有能だ。


「勿体無いお言葉でございます」

「新しく雇った使用人の紹介を後でよろしくね」


 そんな話をしつつ屋敷の中に入る。エントランスは広くて開放的で、高級感はあるけど嫌味のないほどに洗練されていた。


「うわぁ、すっごく広い!」


 マリーがエントランスに入った途端に嬉しそうに声を上げた。そんなマリーの様子を見て顔を顰めてる使用人はいないかと見てみたけれど、誰もがマリーを微笑ましげに見守っているだけだった。アルノル、めっちゃ有能。


「まずは自室に案内してくれる? 少し休んでから屋敷を全部回ってみるよ」

「かしこまりました。こちらです」


 アルノルの先導で自室に向かうと、俺の部屋は当初決めていた通り二階に位置していた。家族皆の部屋も二階だ。


「ふわふわだね〜。お花も綺麗だね!」


 マリーは新しい家にテンションが上がって、淑女教育の内容は全て頭の外に追いやられたみたい。絨毯が敷かれてとても歩きやすい廊下を、あっちへこっちへ駆け回っている。


「じゃあ皆、いったん自分の部屋をそれぞれ確認しようか。従者や護衛の皆も部屋を確認したいだろうし」

「そうね。分かったわ」

「確認したらどうすれば良いんだい?」

「そうだね……三十分後に廊下に集まって、今度は屋敷を案内してもらおうか。それまでは少し休憩で」


 俺のその言葉に父さんと母さんが頷いてくれたところで、俺達はそれぞれ自室に入った。マリーもメイドさんに促されて自室に入っていく。


「レオン様どうぞ」

「ありがとう」


 部屋の中は予想以上に広かった。公爵家で借りていた客室も広いと思ってたけど、あの部屋よりも一回り以上大きい。それに公爵家の客室では衝立で遮られた同じ部屋の中にベッドがあったけど、この部屋では別で寝室もあるみたいだ。


 お風呂はかなり広くて綺麗だし、トイレも無駄に広い空間が広がっている。服や装飾品の収納スペースも沢山あるみたい。後は立派な執務机に、三人掛けのソファーが二つ並ぶ応接セットもある、さらに四人がけのテーブルセットもあるな。


 この部屋で何人暮らすんだろうって疑問になるほどの広さだ。でも全て質の良い家具で揃えられていて住み心地は良さそう。雰囲気も派手すぎずに落ち着いていて俺好み。やっぱりアルノルめっちゃ有能。


「レオン様いかがでしょうか? お気に召さないものなどがございましたら、すぐに変更いたしますのでお申し付けください」

「ううん、凄く素敵な部屋だよ。質は良いけど派手すぎずに落ち着くし、俺が好きなタイプの部屋だね。完璧に整えてくれてありがとう」

「勿体無いお言葉でございます」


 アルノルは口元を少しだけ綻ばせて頭を下げた。これからはアルノルともたくさん交流して仲良くなれるように頑張ろう。


「じゃあ俺はソファーで寛いでるから、ロジェ達とローラン達はそれぞれの待機部屋を確認してね」

「かしこまりました」


 従者はロジェを中心に、護衛はローランを中心に色々と確認を始めた。そこで俺はアルノルが淹れてくれたお茶を飲んで一息吐く。


 アルノルのお茶も美味しい。最近はロジェが淹れてくれたお茶ばかり飲んでたけど、淹れる人が違うと少し味が変わるみたいだ。ロジェのお茶が洗練されたすっきりとしたものだとしたら、アルノルのお茶は少しだけ柔らかさがある感じかな。


「アルノルのお茶も美味しいね」

「レオン様のお口に合ったのでしたら良かったです」

「うん。そうだ、アルノルって今時間ある?」

「もちろんございます」

「じゃあ今の時間で使用人の紹介をしてもらっても良い? 本人は連れて来なくて良いけど、役職と名前と特徴を」


 俺のその言葉に、アルノルは数枚の紙束を差し出してくれた。受け取り内容を確認してみると、それは使用人の一覧表だった。しかも役職と名前の他に顔の絵まで描かれている。

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