第355話 シュガニス開店!

 王都に帰ってきたのが夜も更けた頃で、俺は転移で自室に入りピュリフィケイションで体を綺麗にして、そのまま眠りに落ちた。


「え……? だ、誰だ!?」


 そして次の日の朝、知らない男の人の叫び声で目が覚める。もううるさいな……俺はまだ眠いのに。


「どうかしましたか? 大声を出すのは従者として失格です」


 次にロジェのそんな声が聞こえてきた。


「べ、ベッドに誰かがいるみたいで……頭だけ見えているのですが」

「……それは、本当ですか?」


 もしかして昨日転移でここに帰ったから、不審者が入り込んでると思われてる? 俺はさすがにこの流れに目が覚めて、なんとか気力で起き上がった。そして声がする方を振り返る。


「レオン様、おはようございます。朝から騒がしくしてしまい申し訳ございません。何時ごろお帰りになられたのですか?」


 ロジェは起き上がった俺に全く動じることなく、いつものように声をかけてくれた。


「ロジェおはよう。昨日の夜中に帰ってきたから、ピュリフィケイションで体を綺麗にしてそのまま寝たんだ。この部屋には転移で入ったよ」

「そうでしたか。これからはどんな時間でも私を呼んでくださればすぐに参りますので」

「うん、ありがと。でも寝てるのを起こすのは悪いから。それでそっちの人は……?」


 ロジェの隣には、ロジェよりも少し年下かなって感じの男の人が一人いる。使用人の服装をしているけど見たことがない顔だ。


「ご挨拶が遅くなり申し訳ございません。それからレオン様だと気付けずに騒いでしまい大変申し訳ございませんでした。レオン様の従者として働かせていただく、エミールと申します」


 ああ、新しい従者が決まったのか! そういえば引っ越す前に従者だけは先に送って欲しいって言ったよね。これでロジェが楽になるな。


「俺はレオン、よろしくね。新しい従者が決まったんだ」

「はい。エミールの他に従者がもう一人、それから新しい護衛が二人おります。また後で紹介させていただきます」

「うん。よろしくね。ふわぁ……眠い」

「もう一度眠られますか?」

「ううん。今日もやりたいことがあるから起きるよ。朝ご飯の準備をお願いしても良い?」

「かしこまりました。ではエミール、朝食の準備を」


 朝食の準備にはエミールが行き、ロジェは俺が身支度を整える手伝いをしてくれるようだ。やっぱり従者が何人もいると便利だね。


「本日はどのようなご予定かお聞きしてもよろしいでしょうか?」

「うん。今日はシュガニスが開店する日なんだ。だから俺もその場に立ち会いたくて」

「かしこまりました。ではそれに相応しい服装にいたしましょう」


 ロジェが嬉々として豪華な服装を漁り始めた。いや、それは流石に派手すぎない? もうちょっと落ち着いたやつでも……


 結局はシンプルな服装に高い装飾品を品よくつけて、落ち着いた雰囲気ながらも高貴さを醸し出す感じで決まった。ロジェが満足そうなので問題はないだろう。

 それから朝食を食べて他の従者と護衛も紹介してもらい、シュガニスに向かった。



 シュガニスに着いて裏口から中に入ると、皆がとても忙しそうに、しかし優雅に働いていた。開店の時間まで後一時間を切っている。既に準備は終わっていて最終確認をしているところらしい。


「食器類の最終確認終わりました。全て傷や汚れなどはありませんでした」

「カトラリーもくすみなどはなく綺麗でした」

「分かりました。では次はカフェスペースの最終確認に参りましょう。塵一つあってはなりません」


 給仕担当は忙しくお店全体のチェックをしているみたいだ。厨房では料理人達が予約分は既に作り終え、これからカフェで売れるだろうスイーツを作っていた。

 警備の皆はどうしたんだろう……? そう思って辺りを見回していると、ロニーが俺に気づいて駆け寄ってきてくれる。


「レオン、間に合ったんだね!」

「ロニーおはよう。ファブリスのおかげで間に合ったよ」

「良かった。もう準備はほとんど完了してるんだ。後は開店時間を待つだけだよ。実は開店前からお店の前にお客さんが集まり始めてて、急遽整理券を配ったんだ。道路を混乱させちゃいそうだったから」

「そんなにお客さんが来てくれてるんだ」

「うん! 嬉しいよね」


 ロニーはそう言いながら心からの笑顔を浮かべている。その笑顔に釣られて俺も思わず顔が緩む。やっぱりたくさんの人に興味を持ってもらえるって嬉しいよね。


「あ、アルテュル。久しぶり」


 ちょうどアルテュルが裏にやってきたので声をかけると、アルテュルはしっかりと頭を下げてくれた。


「ついに開店だね。これからは予約だけの時よりもトラブルが起きて大変だと思うけど、アルテュルなら上手くお店を回せると信じてるよ」

「ありがとうございます。ご期待に応えられるよう最善を尽くします」



 それからは邪魔にならないように休憩室で待機をして、開店時間になったところで俺もカウンターに顔を出した。するとすぐに最初のお客さんが入ってくる。


「わぁ、とても素敵な店内ね」

「いらっしゃいませ。シュガニスへの御来店、ありがとうございます。スイーツを持ち帰られますか? それともカフェでお召し上がりになりますか?」

「カフェでいただくわ」

「かしこまりました。ではお席にご案内させていただきます」


 お客さんが店内を一通り見回した最適なタイミングで、給仕担当が声をかけて誘導していく。


「こちらがメニューでございます」

「ありがとう」


 そうこうしているうちに、次のお客さんが入ってきた。次のお客さんは品の良い年配の夫妻だ。その二人も給仕によって席に案内されていく。

 うん、凄く良い感じだ。皆も落ち着いて接客できてるし、店内の雰囲気と接客にとりあえず満足していただけてるみたい。


 俺はそこまでを確認すると一度裏に下がった。そしてロニーと休憩室に入る。


「ロニー、凄く良い感じだったね!」

「うん! とりあえず最初はうまくいったかな。これからはお持ち帰りの人も予約の人も来るだろうから、そこで混乱が起きなければ大丈夫だと思う」

「そうだね。後はカフェスペースが満席になった時も大変にはなるけど」

「そうなんだよね。でもその辺も色々と対策は考えてあるから大丈夫だと思う。……ついにシュガニスが開店できて嬉しいよ」


 ロニーは達成感を感じているのか、清々しい笑顔を浮かべている。お店をやろうって決めてから約半年間、ここまで相当頑張ったからね。俺もなんだか感慨深い。


「色々大変だったよね……上手くいきそうで良かった。でもここで終わりじゃなくて、ここから始まりだよ」

「これからはもっとたくさんのお店をやるんだよね」

「うん。楽しみだよね」

「これからは大公家の文官としてその手伝いをするよ。これからもよろしくね」

「こちらこそよろしく」


 俺とロニーは握手をしてお互いに笑い合った。これからもロニーと一緒に働けることが嬉しいし頼もしい。ロニーとなら凄いことが成し遂げられそうな気がする。



 それからは厨房や店内の様子をしばらく確認して、問題なくお店が開店できたと安心できたところで屋敷に戻った。でもこれからが本番だ。営業していくうちに様々な問題が生まれるのだろうし、頻繁にお店を訪れて様子を確認しようと思う。アルテュルのことも気になるし。

 

 今度は俺もお客さんとしてお店を訪れるのも良いかもしれない。その時はマルティーヌを誘おうかな。一緒に行けたら絶対に楽しいと思う。

 俺はマルティーヌと一緒にシュガニスでスイーツを楽しんでいるところを想像して、顔を緩めながら馬車に揺られた。





〜お知らせ〜

書籍二巻についての情報です。

6月30日に発売、既に表紙のイラストも公開されています。近況ノートの方に詳しい情報とイラストが載せてありますので、見に行っていただけたら嬉しいです。ちなみにイラストめちゃくちゃ可愛いです!


書籍二巻にはレオン達がお祭りを楽しむ話や、シェリフィー様の神界でのお話などオリジナルストーリーが盛りだくさんです。さらに番外編も収録されていて、マルティーヌ視点で王女様の一日を覗き見ることができます。


既に予約等も始まっていますので、気になる方はお手に取っていただけたらと思います。まだ一巻を読んでないよという方は、今なら二巻同時に楽しめるのでぜひ。もちろん一巻にも書籍のオリジナルストーリーや番外編が収録されています。



いつも読んでくださってありがとうございます。これからもよろしくお願いいたします!


蒼井美紗

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