第347話 卒業パーティー 前編

 今日は卒業パーティーの日だ。俺は朝からロジェと他数人の手によって煌びやかに着飾られた。鏡を見ても自分だとは思えない豪華さだ。


 さすがにこの顔が自分ということには慣れたけど、正装をした時のキラキラ王子様みたいな見た目には慣れない。何のコスプレかって感じで、鏡を見てもテレビに映る別の人を見ている感覚に陥る。

 でもこの容姿だからこそマルティーヌと並んでも違和感がないんだから、それには感謝しないとだよね。


 そんなことを考えつつ準備が終わるまではマネキンに徹し、やっとロジェからの合格が出たところで王宮に向かった。卒業パーティーは王宮のホールで行われるのだ。

 馬車で王宮に着くとそのままパーティーが開かれる一画に案内され、馬車から降りると王宮の使用人の方が案内に来てくれた。


「ジャパーニス大公様、リュシアン・タウンゼント様、ロニー様でいらっしゃいますね。ようこそお越しくださいました。このまま会場までご案内いたしましょうか? もしお待ちの方がいらっしゃれば控え室もございますが」

「では控え室にお願いします」


 俺はマルティーヌをエスコートしないといけないので、控室で待って合流してから会場に行く予定だ。

 この卒業パーティーは卒業生しか出席できないから基本的にはエスコートなんてしないんだけど、婚約者がパーティーに参加してる場合のみエスコートをするのが通例らしい。


「かしこまりました」


 リュシアンとロニーと共に控室に案内してもらい、そこでソファーに腰を下ろした。ロニーは落ち着かないのか部屋の中を歩き回っている。


「はぁ、僕緊張して倒れそう。王宮ってこんなに煌びやかなんだ。王立学校で慣れたと思ってたのに……」

「特にこの辺りはパーティーが行われるから豪華な作りになってるんだよ」

「そうなんだ……レオンに一緒に連れてきてもらえて良かった。僕一人だったら怖くて入り口で回れ右してたかも」


 この会場には卒業認定書があれば入れるようになってるんだけど、確かに平民が歩きで来るにはかなりの勇気がいるよね。


「ロニー、ずっと立ってたら疲れるぞ。座ってた方が良い」

「は、はい。分かりました。あっ、そういえば僕は先に会場に行くべきなんじゃ……?」

「普通のパーティーでは身分が下の者から入場するのが決まりだが、卒業パーティーは自由だから私達と一緒で問題ないだろう。マルティーヌが来たら皆で会場に行こう」

「そうなのですね……では落ち着いて待ってます」


 ロニーはやっと歩き回るのをやめて俺の隣に腰を下ろした。でもやっぱり落ち着かないみたいだ。服装がいつもと違うのも緊張の原因かな。


「それにしてもロニーは見違えたな……その服装も髪型も似合っているぞ」

「本当ですか、ありがとうございます。でもかなり落ち着かないですが……」


 一緒に王宮に行くために公爵家を訪れたロニーの格好を見て、公爵家の使用人達がちょっと服装を変えて髪型を整えたのだ。別にロニーの元々の格好でも問題はなかったんだけど、それを少しだけパーティー仕様に豪華にして前髪を流したって感じかな。

 それだけで一気に高貴な雰囲気になったんだよね……貴族子息と言っても通る外見になった。


「ロニーは貴族の豪華な服装が似合うね。顔も整ってるし男にしては細身な方だからかな」

「立ち居振る舞いも洗練されているから違和感もない」

「ダンスの授業を受けてて姿勢も良いし、知らない人が見たら下位貴族の子息かなって思うよ」

「それって良いのかな……? 生意気だとか言われない?」

「ジャパーニス大公家の所属なんだから大丈夫。それにちゃんとロニーの立場で最大限の豪華さだから」


 ロニーの服装は基本的にシンプルで、ちょっとだけ装飾があったりボタンが豪華だったりといった程度だ。でもその少しの豪華さが上品で良い。

 俺もこういう服装の方が好きなんだけどな……大公はもっとキラキラさせないといけないらしい。


「それなら良かった。この服装に恥じないように堂々と頑張るよ」



 そうして三人で雑談を楽しんでいると部屋のドアがノックされ、ロジェがドアを開けるとステファンとマルティーヌが入ってきた。マルティーヌはまた新しいドレスを着ているみたいだ。今回のは配色が大人っぽくて、マルティーヌの美人さを際立たせている。


「レオンお待たせ」

「ほとんど待ってないよ。マルティーヌ、そのドレスもとても似合ってる」

「本当? ありがとう」


 マルティーヌはふわっと花が咲くように笑った。こんなに可愛いマルティーヌが俺と婚約してくれてるなんて……何度確認しても現実なのにいまだに夢じゃないかと疑ってしまう。


「リュシアンとロニーも待っていてくれてありがとう」

「ほとんど待っていないから大丈夫だぞ」

「待ち時間で緊張もほぐれましたので、僕の方こそ感謝しなければなりません」

「それなら良かったわ。では皆、パーティーへ行きましょうか」


 俺はマルティーヌのことをエスコートして、ステファンとリュシアン、ロニーと共に会場へ向かった。


 会場はこの前のお披露目パーティーの時とはまた違い、もう少しカジュアルな雰囲気が漂っていた。ホールの飾り付けも花が多く使われていて可愛い雰囲気だ。既にたくさんの食事もテーブルに載っている。どれも美味しそうだな。


 俺達が会場に入ると皆が一斉に動きを止めたけれど、ステファンの「そのまま楽しんでくれ」という言葉を合図にまた談笑が再開された。こんな緩い感じのパーティーだったらいくらでも参加したいかも。そう思うぐらい楽しい雰囲気だ。


「こんな感じのパーティーならいくらでも参加したいかも」

「本当ね……今日は目一杯楽しみましょう。まずは食事からかしら」

「うん。あのローストビーフ美味しそうじゃない?」

「では早速行きましょう」


 ローストビーフに何かのソースがかかってて美味しそうだ。それに隣にあるのはブルスケッタだよね。あれも美味しいんだよね〜。


 俺はパーティーの緩い雰囲気に緊張も忘れ、豪華な料理を前に鳴りそうなお腹をなんとか宥めてマルティーヌをエスコートした。優雅さを意識してゆっくりと歩いていく。


「マルティーヌは何枚食べる?」

「そうね、二枚お願い」

「分かった。じゃあ俺は五枚ぐらい食べようかな。ブルスケッタも食べる?」

「もちろん食べるわ」


 マルティーヌと顔を見合わせて笑い合いながら、お皿にたくさんの料理を盛り付けた。基本的にこのパーティーでは自分で食事を盛り付けるみたいで、俺にとっては一々使用人に頼まなくて良いから楽だ。


「ロニーも食べる? ステファンとリュシアンも」

「うん。でも自分で取るから大丈夫」

「私達も好きなものを取るから気にしなくて良いぞ」

「了解」



 ――それから俺達は時には食事を楽しみ、時には音楽に合わせてダンスを踊りと、パーティーを存分に楽しんだ。

 そしてパーティー参加から一時間ほど経ち、懸念してたような事態は起こらなかったなと安堵したところで、複数人の令嬢に話しかけられた。

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