第345話 二つのパーティーについて
「レオン様、王立学校卒業試験の結果が送られてきたようです。こちらが結果でございます」
王立学校の卒業試験を受けた二日後、いつも通り仕事に向かおうとしていた俺を呼び止めてロジェにそう告げられた。
「早いね。もう来たんだ」
「高位貴族から採点をして結果を送っているようですので、レオン様の元に届くのが一番早いかと思われます」
「そうなんだ。じゃあ結果を見てみるよ」
俺は仕事に向かうのを少しだけ遅くすることに決めて、ロジェに手渡された封筒から一枚の紙を取り出した。そして内容を確認すると…………おおっ、卒業認定通知書って書いてある!
「ロジェ、卒業が認められたみたい!」
「レオン様、おめでとうございます」
「ありがとう!」
ふぅ……マジで安心した。あの試験内容だと絶対に安全とは言い切れなかったんだよね。とりあえずこれで使徒としての威厳は保てたかな。
「よしっ、じゃあ仕事に行こうか」
「かしこまりました」
俺は無事卒業できたことに安堵して、いつもより軽い足取りで執務室に向かった。そして仕事に入る前にアレクシス様とリシャール様に報告をする。
「アレクシス様、リシャール様、先程卒業認定通知書が届きました。無事卒業できるようです」
「そうか、それはめでたいな。レオンおめでとう」
「ありがとうございます」
「先程ステファンとマルティーヌも卒業が認められたと報告に来た」
「そうなのですね! それは良かったです」
あの試験に受かるなんて……前世チートがないのに本当に凄い。やっぱり周りの皆の方が圧倒的に頭が良い気がする。
「レオン君おめでとう。今日はお祝いで夕食を豪華にしなければいけないな。屋敷に使いを出そう」
「本当ですか! お心遣いありがとうございます。凄く楽しみです」
そうして二人に祝ってもらい、さらにはいつも一緒に仕事をしている文官達にも祝ってもらった。やっぱり無理してでも卒業試験を受けて良かったな。受けなくても卒業はできたけど、達成感が段違いだ。
「そういえばアレクシス様、卒業パーティーへの出席とはどうすれば良いでしょうか?」
卒業認定通知書の他に、卒業パーティーへのご案内という紙も封筒に入っていたのだ。王立学校の卒業パーティーはその年の卒業試験に合格した人だけが参加できるものなんだけど、ちょっと参加しようか悩んでいる。俺が行くと皆が楽しめないかなとも思うし……
「レオンが出席したければ出席すれば良いと思うが、何か心配事でもあるのか?」
「実は……」
そこで俺は卒業試験当日の様子についてをアレクシス様に伝えた。するとアレクシス様は苦笑しつつ心配いらないと言ってくれる。
「それはEクラスに大公がいればそうなるのも無理はない。卒業パーティーは元々AクラスからEクラスまで合同だから、特別気にする必要はないだろう。もちろんマルティーヌもステファンも参加する」
そう言われてみればそうか。もし俺が卒業試験の日にAクラスで試験を受けていたら、何も問題は起きなかったんだろう。
「確かにそうですね。では参加しようと思います」
「ああ、そうしてくれ。マルティーヌもダンスを踊る相手がいた方が楽しめるだろう」
「かしこまりました」
卒業パーティーは三日後だったはず。ダンスを復習しておこう……使徒としてのお披露目パーティー以来、一度も踊ってないよ。
「そうだレオン、春の月を祝うパーティーも一週間後に迫っているのだが、そちらの打ち合わせもついでにやってしまっても良いだろうか?」
「あ、もう一週間後なのですね」
色々あって忘れてた。卒業試験が終われば結構暇になると思ってたのに……もうちょっと頑張ろう。
「ではソファーに座ってくれるか?」
「かしこまりました」
俺がソファーに座ると、すぐにアレクシス様の従者の方が二人分のお茶を準備してくれる。アレクシス様はそれを一口飲んでから口を開いた。
「前にも説明したと思うが、春の月を祝うパーティーは毎年行われているもので、領地にいる貴族達も王都に集まりパーティーに参加する。レオンにもこれからは毎年参加してもらうのだが、今年は使徒としてのお披露目も行う予定だ。この前の披露目のパーティーには参加できなかった貴族も多いからな」
「かしこまりました。この前のお披露目のパーティーと同じ会場でしょうか?」
「ああ、あの会場に前よりも多くの者が集まる」
あの時もかなり人数が多いなと思ったのに、あれ以上集まるのか……今から胃が痛くなりそう。
「流れは前のパーティーとほとんど同じだ。私が春を寿ぐ言葉を述べ、その後でレオンのことを紹介する。レオンには前と同じように挨拶をしてもらえれば良い」
「かしこまりました。また威厳ある感じで話せば良いのですね」
久しぶりの使徒モード発動だ。前は全然威厳ないって言われたし、鏡の前で練習でもしようかな。
……ちょっと落ち込みそうだからやめておこう。
「よろしく頼む。しかし前のパーティーと違うところが一点ある。前はレオンの披露目のパーティーだったので皆の挨拶を順に受けたと思うが、今回はあくまでも春の月を祝うパーティーなのでそれはなくなる。その代わりにレオンとマルティーヌには大公家として、下に降りてパーティーに参加してもらいたい」
「ということは、最初は前と同じように舞台上から姿を現し、挨拶を済ませたら下に降りて他の貴族の方々と同じようにパーティーに参加すれば良いのですね」
前より目立たなそうで嬉しいな。でもいろんな人に話しかけられる可能性は上がったのかな……やっぱりちょっと憂鬱かも。
「その通りだ。基本的にパーティーでは身分が下の者が上の者に声をかけることはないので、レオンは自由にパーティーに参加できるだろう」
「そうなのですか!」
それ最高じゃん。大公位をもらっておいて良かったって初めて思った!
俺の大げさな反応にアレクシス様は苦笑している。
「ああ、しかし自分の爵位よりも二つ下まで、よってレオンにとっては侯爵家までは声をかけることが望ましいとされている。まあ下位貴族になると数が多いのでその辺は曖昧だが、レオンは侯爵家までは一言二言でも声掛けした方が良いだろう」
「……かしこまりました」
結局話さないといけないのか……テンションだだ下がりだ。まあ仕方ないよね。貴族になったのだから仕方ない。威厳ある使徒モードで頑張ろう。
「打ち合わせはそんなところだ。衣装については既に準備は終わっているのだったか?」
「はい。エリザベート様に準備していただきました」
「では当日はその衣装で頼む」
「かしこまりました。しっかりと役目を全ういたします」
そうしてアレクシス様との話し合いは終わり、それからは仕事に集中した。そして仕事を終えて帰宅すると、公爵家の屋敷にはリュシアンとロニーがいた。二人が話している応接室に案内される。
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