第340話 執事と文官
アレクシス様とリシャール様に相談をした次の日。早速執事と文官が決まったということで、公爵家で顔合わせをすることになった。
ロジェに準備が整ったと言われ応接室に向かうと、そこには三十歳ぐらいに見える男女と十歳に満たないほどに見える子供が二人、それから三十代後半に見える男性が一人いた。
男女の方がアルバンさんの息子さん夫婦だろうけど……全く記憶にない顔だ。俺の行動範囲とは別のところで働いてたのかな。
「初めまして、レオン・ジャパーニスです。早速だけど自己紹介をしてもらっても良いかな?」
「かしこまりました。では私から」
まず口を開いたのは、アルバンさんの息子さんだろう男性だ。目が細めでキリッとした顔つきをしている。黒髪黒目なので俺としては親しみが持てる容姿だ。
「お初にお目にかかります。アルノルと申します。タウンゼント公爵家の執事である、アルバンの息子でございます。……その節は父の命を救っていただき、誠にありがとうございました。御礼が遅くなってしまい大変申し訳ございません。ジャパーニス大公様に仕えられることは私にとって人生最大の喜びでございます。これからよろしくお願いいたします」
「アルノルだね。これからよろしく頼むよ」
アルバンさんを治した時はマルティーヌのこともあってバタバタしてたからね……
「治療した時は俺もご家族にまで意識が回らなかったし、謝らなくても良いよ。治せて本当に良かった」
今のアルバンさんの元気な様子を思い出して思わず顔を緩めると、アルノルもふっと顔を緩めてくれた。さっきまではキリッとした印象だったのに、笑みを浮かべると途端に優しい雰囲気になる。
「本当にありがとうございました」
「そうだ、俺のことは基本的にレオンって呼んでね。もちろんその場に合わせてジャパーニス大公の方で呼ぶべき時はしょうがないんだけど。旦那様とかは呼ばれ慣れないから」
「かしこまりました。ではレオン様と」
「うん。他の皆もそれでよろしくね」
俺が皆を見回してそう言うと、全員が頷いてくれた。
「では次に私の家族を紹介させていただきます。隣にいるのが妻のベレニスです」
「ベレニスと申します。タウンゼント公爵家ではメイドとして仕えておりました。夫と共に雇ってくださり感謝いたします。子供達も八歳を超えていますので、少しはお役に立てるかと思います。まだまだご迷惑をお掛けするかと思いますが、親子共々よろしくお願いいたします」
「ベレニスだね。これからよろしく。子供達はもちろん大公家で働きたいのならば雇うし、もし他の仕事をしたいのならその支援もするから言ってね。その場合でも成人までは屋敷にいてくれて良いから」
俺のその言葉を聞いて、アルノルとベレニスは同時に驚いたような表情を浮かべた。やっぱりこの国では使用人の子はそのまま使用人になるのが普通なのかな。
「寛大なお言葉感謝いたします。では子供達も紹介いたします」
それから十歳の長男と八歳の長女の紹介を受け、アルノルの家族との初顔合わせは円滑に終わった。次は文官として雇う男性だ。
「次は私の番ですね。私はルノーと申します。王宮で文官をやっておりました。この度は陛下から直々のご指名をいただきまして、ジャパーニス大公家へと参ることになりました。王宮での仕事は楽しかったのですが、身分差が煩わしくそろそろ辞めようかとも考えていましたので、今回雇っていただけてとても感謝しています。これからよろしくお願いいたします」
「ルノーだね。これからよろしく頼むよ。事前に伝えていたように俺は礼儀作法、敬語などは気にしないから好きなように仕事をしてくれれば良いよ。ルノーと一緒に働いてもらうもう一人の文官は俺の友達だから、普通に砕けて話したいんだ」
俺のその言葉にルノーは瞳を輝かせる。……最高の人選だったかも。
「それは私にとって最高の職場です。これからよろしくお願いいたします」
「うん、よろしくね。まあ公の場ではちゃんとしてもらわないとなんだけど。屋敷の中でなら基本は自由で良いかなと思う」
「かしこまりました。レオン様の下で働けて良かったです」
本当は使用人全員がこんな感じで砕けてくれたら嬉しいんだけど、ほとんどの人には逆にその方が落ち着かなくて難しいって言われるから、強制はしないようにしている。
でも敬語や礼儀はしっかりとしてても雰囲気が緩んでるような、俺に対しても話しかけやすいような、そんな屋敷の雰囲気にできたら良いなと思ってる。
「じゃあ皆これからよろしくね。それで早速アルノルに頼みたい仕事があるんだけど良いかな?」
「もちろんでございます」
「ありがとう。実は今皆を雇ってることからも分かるように、大公家はまだまだ使用人が足りないんだ。だから足りない分の使用人を教会などで募集して人選して、雇うところまでをやって欲しくて」
「かしこまりました。今現在どの役職が埋まっているのかなどは、資料をいただけますでしょうか?」
「うん。ロジェ」
ロジェを呼ぶとすぐにまとめた資料を持ってきてくれた。そしてアルノルはそれを受け取るとさっと目を通す。
「まだまだ足りない部分が多いですね……すぐに募集を始めます。いつ頃までに集めれば良いでしょうか?」
うーん、出来れば屋敷が出来上がったら早めに引っ越したいんだよね。公爵家にいつまでも間借りしてるのも悪いし。
「ロジェ、屋敷っていつ頃に完成するのか分かる?」
「はい。あと二週間ほどだと聞いております」
「もうそんなにすぐなんだ。じゃあアルノル、できれば二週間で集めてくれると嬉しい。もし難しかったらもう少し延びても良いよ」
「かしこまりました。では二週間でできる限り使用人を揃えましょう。ですがレオン様、二週間で使用人を集めたとして、できれば一週間は屋敷を整えるために時間をいただきたく思います。使用人の配置を考え、使用人達が屋敷の作りを覚える時間が必要です」
確かにそっか……それに家具なども最低限は注文したけど、まだまだ足りない部分はあるだろう。
「じゃあアルノルにとって、俺達が引っ越しても問題ないほど整ったら教えてほしい。多分家具や細かいものとか、色々と足りないものもあると思うから」
「かしこまりました。猶予をいただきありがとうございます」
「うん。あと俺達に付く従者やメイドなんだけど、その人達だけは屋敷の様子を確認したらこっちに送ってくれないかな? 今少ない人数で回してるから、できる限り早くに皆の負担を減らしてあげたくて」
アレクシス様達との話し合いで、護衛は騎士からそれぞれ二人ずつ紹介してもらえることになった。そして家族皆のメイドや従者は、今まで付いてくれていた公爵家の人達がそのまま付いてきてくれることになった。
でもそれでは一人ずつで大変だから、早めにもっと人数を増やさないといけないのだ。
「ではその者達を先に雇ってしまいます」
「ありがとう、よろしくね」
アルノルに頼みたいことは、とりあえずこのぐらいかな……とにかく今一番足りないのは人手だから、そこから着手してもらうのは間違いではないだろう。
これで俺の従者が増えるし護衛も二人増える。ロジェとローランも少しは楽になるかな。
「じゃあアルノル達は下がって良いよ。ルノーはもう少し残ってくれる? 一緒に働いてもらう文官を紹介したいから」
「かしこまりました。では下がらせていただきます」
「失礼いたします」
アルノル達が皆下がっていったところで、俺はロジェに頼んでロニーを呼んでもらった。ロニーにもこの屋敷で待機してもらっていたのだ。
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