第339話 孤児院改革とミルクレープ
「確かに孤児達は今回の屋台にちょうど良い人材だな」
「はい。孤児院の子供達は生活が苦しく必死に仕事を探して働いているようですから、屋台で働けて給金をもらえるとなれば喜ぶ子も多いかと。孤児達の生活改善にもつながる可能性があります」
「ふむ、確かにそれは一理ある。孤児院はいつか改善せねばと思っていたが、後回しになっていたからな……」
アレクシス様は悔しそうな表情でそう呟いた。悔しがるならもっと早く改善してあげれば良かったのに。そう言いたいけど言えない。この国の状態ではとても孤児院に構っている余裕はなかっただろうから。
内乱を起こしそうな貴族とか、国を飲み込みそうな魔物の森とか、本当に問題だらけだった。まだまだ問題は残ってるけどね。魔物の森も駆逐はこれからだし。
「ではこの機会に運営の方も健全にしましょう。孤児院の職員達は運営費を私的に流用したり、孤児を裏で売り渡したりもしていると噂で聞きました。ミシュリーヌ様の教会があるすぐそばの建物でそのようなことが行われているなど、今すぐに改善すべきかと」
「確かにそうだな。……この国はまだまだ多くの問題がある」
そう呟いたアレクシス様は、顎に手を当てて真剣に考え込み始めた。そしてたまにリシャール様に意見を求め、それをもとにまた考え込むこと十分ほど、遂にまとまったようだ。
「では王都の孤児院全てに王宮の文官を派遣し監査をする。孤児にも聞き取りをし悪質な職員は解雇の上罰を与えよう。そしてその上で新たな職員を雇い、これからは王宮の文官が各エリアごとの孤児院をまとめる立場に就くことにする。そしてその文官は二年ごとに入れ替えよう」
「かしこまりました」
リシャール様はアレクシス様が決めたことをサラサラっと紙に書いていく。有能な側近って感じでカッコいい。
「またクレープの屋台をする上での経費は、全て孤児院の運営費で賄う。もちろん運営費は増やそう。その上で利益も運営費とするが、利益の一部は孤児達に平等に分配されることとする。そして孤児達の個人資産は孤児院に預けることも可能とし、預けていたお金は孤児院を出る際に全額受け取れることとする。しっかりとお金については書面で記録を残すことにしよう」
「その預けたお金は、孤児院を出る時以外でも引き出し可能としますか?」
「もちろんだ」
「かしこまりました」
やっぱりアレクシス様とリシャール様って王と宰相なんだよね……そんな当たり前のことを二人のやりとりを聞きながら考えていた。凄く重大なことが、こうしてどんどん決まっていくのは凄い。
これで少しでも辛い思いをする孤児を減らせるだろうか。俺のやりたいことが一つ前に進んだかな。
後はこれが上手くいったら、今度は教会で平民のための学校とかやりたいよね。それはもう少し先になるだろうけど。
「ではレオン、先ほど述べたように孤児院の改革をし、その上で各地でクレープの屋台を孤児達に運営してもらう。そして降誕祭当日も教会で孤児達にクレープを売ってもらう。それで良いか?」
「はい。迅速な対応、感謝いたします」
「今まで後回しにしてきたのだから褒められるようなことではない。後は王都だけではなく、他の街でも対処を考えなければいけないな」
そうだよね、孤児院は王都だけじゃなくて国中にあるんだ。でもこういう時は焦りすぎると失敗する。
「王都で上手くいってから、それを他の領地にも広めていけば良いと思います」
「……そうだな。ではまずは王都から改善していく」
「よろしくお願いいたします」
これで大公家の使用人の話はしたし、ミシュリーヌ様についての話もした。さらに孤児院の運営改善までできるようになったし、今日の話し合いは十分だろう。
後はお二人に頑張ってもらって、俺も手助けできるところは側近として手助けしよう。
あっ、そういえばミルクレープについて話をしてなかった。……というか今思いついたけど、降誕祭の日にシュガニスで豪華なミルクレープを売ったら、貴族達に売れまくりそうじゃない?
これは来た、確実に商売チャンスだ。ミルクレープは持ち帰りの予約のみにして、カフェスペースではその場で焼いたおしゃれな盛り付けのクレープを出すっていうのもありかな。……またロニー、アルテュル、ヨアンと話し合いだ。
「アレクシス様、降誕祭の日のクレープについてなのですが、中心街でクレープを広める役目はシュガニスに任せていただけませんか? 中心街に孤児院はないですし」
「任せてしまっても良いのか?」
「はい! 他とは一線を画した豪華なミルクレープや、とてもおしゃれなクレープの盛り合わせなど考えたいと思います。貴族街では貴族街に適した祭りを楽しんでいただければと」
「ミルクレープとはこの前食べたな。あの不思議な食感が美味しかった。ただあれはクレープとは違うのではないか?」
アレクシス様も食べてくれたのか。あのなんともいえない食感が魅力だよね。
「あれはクレープを贅沢に何層も重ねたものなのです。したがって貴族街での降誕祭にぴったりなスイーツかと」
「そうだったのか。分かった、貴族街についてはレオンに任せよう」
「ありがとうございます!」
早く皆と話し合わないと。降誕祭当日まではさりげなくクレープを看板などで推して、早い段階から当日の予約を開始しよう。
宗教行事のことならまずは貴族に周知するだろうし、開店した頃からもう予約開始にしようかな。上にのせる果物やソースをカスタマイズできるのも良いかも。考えたら楽しくなってきた。
「本日は色々と相談に乗っていただき、ありがとうございました」
「またいつでも時間を作るので話がある時は言ってくれ。大公家の使用人についてはこのあとすぐに声をかけ始める。ミシュリーヌ様のことについても、色々と調整が済んだら速やかに公布する」
「よろしくお願いいたします」
そうして俺は王宮を後にして、ロジェとローランと共に馬車に乗った。
「ロジェ、大公家の使用人が何人も決まりそうだよ。執事としては、アルバンさんの息子さんのどちらかを紹介してくれるって」
俺のその言葉を聞いて、ロジェが少しだけ嬉しそうに表情を変える。ロジェがこの顔をするのなら問題なさそうだな。
「それは良かったです。お二方ともとても尊敬のできる方々ですので。ご家族もご一緒にでしょうか?」
「うん。奥さんはメイドとして来てくれるって。もちろんお子さんもね。……そういえば、お子さんっていくつぐらいなの?」
「一番大きい子が十歳だったはずです。既にいくつかの仕事はこなせるようになっていましたので」
十歳でもう仕事をこなせるのか。早いなと思っちゃうけど……この国では普通か。
「そうなんだね。これからは執事となってくれた人にいろんな仕事を任せていって、ロジェの負担を減らしていくから。とりあえず主要な使用人は紹介してもらうけど、それ以外の使用人を募集して雇ってもらう仕事から始めてもらおうと思ってるんだ」
「かしこまりました。では私はより一層レオン様の身の回りのことを完璧に整えましょう。それから何か雑務がございましたら、遠慮なくお申し付けください」
「うん。ありがとう」
その後も文官やそれ以外の使用人について、どんな人を紹介してもらえるのかを話しつつ馬車に揺られた。
これでやっと大公家が機能し始めるな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます