第337話 リシャール様に相談

 兵士の面接をした次の日、俺はリシャール様と共に王宮の応接室に向かっていた。執務室の隣にある部屋で、いつも三人で昼食を食べている場所だ。


 リシャール様に大公家の使用人について相談があると持ちかけて時間を作ってもらったら、何故かアレクシス様も同席することに決まったのだ。大公家のことだし国としても重要事項なのだろう。

 それに俺としてもこれはラッキーだった。この前ミシュリーヌ様と話し合った宗教行事とミシュリーヌ様が人々の願いを聞くことについて、アレクシス様に相談したいと思ってたんだ。今日はその話までしようと思う。


 

 部屋に入ると中には、淹れたてのお茶の香りとクッキーの甘い香りが漂っていた。


「二人とも良く来たな。座ってくれ」

「失礼いたします」


 俺とリシャール様が席に着くと、アレクシス様の従者がすぐにお茶をカップに入れて出してくれる。


「今日はレオンの店から買ったクッキーを用意した。食べ慣れてるかもしれないが、是非楽しんでほしい。私は最近これがお気に入りなんだ」


 アレクシス様はそう言いつつ、微笑みながらクッキーを口に入れた。分かります、そのクッキー何枚でも食べられますよね。俺もついついアイテムボックスから取り出して食べちゃうんだ。


「ありがとうございます。いただきます」

「レオン君の店のスイーツは公爵家でも大人気です。カトリーヌが手に入れようと躍起になっていて大変です」


 リシャール様が苦笑しつつそう言った。カトリーヌ様は甘いもの好きだからね……この前スイーツを差し入れしたらかなり喜んでくれたし、また今度差し入れとしてホールケーキを一つ持っていこうかな。かなり力を入れて宣伝してくれてるみたいだし。


「たくさんの方にご購入いただけてありがたいです。この国全体にスイーツが広がれば良いなと思っております」

「それは素晴らしいな」


 それから少しだけ他愛もない雑談をした後、人払いをして本題に入る。


「ではレオン、本日はどんな相談があるんだ?」

「はい。本日は二つ相談したいことがございます。まずは大公家で雇う使用人についてです。まだほとんどの人員が決まっていなく、教会で広く募集をするつもりではあるのですが、数人は経験者を雇いたいと思っております。そこで良い人材をご紹介いただけたら嬉しいのですが……」


 兵士と同じように使用人もほとんどは教会での募集で雇おうと思っている。でもやっぱりまとめ役の人は経験者が必要だよね。全員初心者とか……絶対にまとまらない。


「確かに大公家の使用人について、まだ決めていなかったな」

「はい。今のところメイド長と兵士団団長、スイーツ開発部門の主任、文官一名は決まっております。それから教会で募集をして兵士四十五名も決まっております。よって早急にご紹介いただきたいのは、執事と文官経験者、それから経験のある従者とメイドを数人ずつ、さらに料理人、庭師、馬丁などです」


 俺のその言葉に二人はしばし考え込んだ。そしてまず口を開いたのはリシャール様だ。


「執事だが、アルバンの息子はどうだろうか?」

「アルバンさんの息子さんは……公爵家の執事を引き継ぐのではないのですか?」

「そうなのだが、実はアルバンの息子は二人いてな。どちらか一人は懇意にしている貴族家へ紹介しようと思っていたのだが、ちょうど良かった。どちらもアルバンに似てとても仕事熱心で忠誠心は高い。さらにレオンはアルバンの命を助けているから、どちらでもよく仕えてくれるだろう」


 それはかなりありがたい提案だよね。アルバンさんは文句なしの執事だなってずっと思ってたんだ。公爵家の屋敷が円滑に回ってるのは、明らかにアルバンさんのおかげだし。


「ぜひご紹介いただきたいです」

「分かった。ではすぐに本人へ話をしよう。それからアルバンの息子はどちらもメイドの妻を持つが、一緒に紹介しても構わないか? 幼い子供もいるので引き離すのは良心が痛む」


 もう結婚してお子さんまでいるのか。それは絶対に引き離しちゃダメだ。家族は一緒にいるべきだと俺は思っている。特に子供が幼いうちは尚更だ。


「もちろんです。経験のあるメイドさんはこちらからお願いしたいほどですので。あっ、大公家のメイド長はアンヌに頼む予定なのですが、アンヌの下につくことに問題はないでしょうか?」

「アンヌは公爵家でも上の立場だったので、問題ないだろう」

「それなら良かったです。では一緒に紹介をお願いいたします」


 よしっ、これで執事とメイドさんゲットだ。アルバンさんの息子さんご家族なら信頼できるし優秀だろうし、とてもありがたい。


「では文官だが、王家で働く文官から一人紹介しようか? 大公家で働きたい者を募ればかなりの人数が手を上げるとは思うが」


 次はアレクシス様がそう提案してくれた。


「ありがとうございます。しかし文官はロニーと一緒に働いてもらうことになるので、ロニーのことを下に見ない人、さらにロニーと俺が気安く話していても気にしない人が良いのですが……難しいでしょうか?」

「ふむ……それなら一人ぴったりの人材が思い当たる。もう三十代後半ほどの年齢だが、ロニーと同じように孤児院出身で王立学校に入学し王宮の文官になった者だ。礼儀作法も敬語も完璧にできるのだが、それを面倒くさいと思っているらしい。何年も前に敬語の廃止について、という文書を提出したことがある。あの提案書は私も読んだが、面白いと思ったものだ」


 アレクシス様は顔に苦笑を浮かべつつ、その人のことを説明してくれた。敬語の廃止についてをこの身分がある国で提案するのは勇気あるな……ちょっと会って話してみたい。面白そうな人だ。


「ではその方を紹介していただけますか? 公の場以外では礼儀作法、敬語に関して指摘しない職場だと伝えてください」

「分かった。そのように伝えておく」

「ありがとうございます」


 それからも二人から色んな人を紹介されて、本人に打診をしてみるということで話は終わった。これで遂に使用人も充実しそうだ。執事としてアルバンさんの息子さんを雇えたら、初仕事としてその他の使用人を教会で募集する仕事を任せようかな。ロジェの負担をどんどん減らしていかないとね。


「では大公家の使用人については一旦終わりにするか」

「たくさん紹介していただき、ありがとうございます」

「新しい貴族家、それも大公家を作るのだから当然だ。ではもう一つ相談があるのだったか?」

「はい。もう一つの相談というのは、ミシュリーヌ様からの提案のことです」


 俺がミシュリーヌ様という言葉を発した途端、少しだけ空気が引き締まって二人の顔が真剣になる。あんな感じでもさすが女神様。


「それはどのような提案だろうか」

「この国ではミシュリーヌ教の宗教行事というものが全くないのですが、それを始めたいとのことです。さらにミシュリーヌ様が人々の祈りの声を聞く時間を毎週設けてくださるそうです」


 この国の宗教ってミシュリーヌ様を信仰するから、ミシュリーヌ教って言うらしいんだ。あんまり宗教名を言う人がいなかったから今まで知らなかったんだけど、この前ついに知った。

 なんかちょっと、いやかなり微妙な気分になる宗教名なんだけど、まあ名前がそのまま宗教名になるのって結構スタンダードだし仕方ないよね。と自分に言い聞かせている。


「なんとそのような催しを……! それは素晴らしいお考えです。さらに祈りを聞いてくださるなど……」


 二人は今この場で祈り始めるんじゃないかというほどに感動している。ほとんど俺が考えた内容だってことは、絶対に内緒にしておこう……


「詳細を聞かせてもらえるか?」


 予想以上にこの提案に前のめりな二人を前に、俺はこの間話し合ったことを思い出しつつ口を開いた。

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