第336話 ニコラの覚悟
「凄く緊張してたね。皆あんな感じなのかな?」
俺は男性が外に出てからポツリとそう呟く。最後は少しマシだったけど、終始動きはぎこちなかったし笑顔は強張ってたし、可哀想なほど緊張していた。
「やはり使徒様であり大公様であらせられるレオン様とお会いになるのですから、緊張は仕方がないかと思います」
「……確かにそうだよね。少しでも緊張を解してあげられたら良いんだけど」
客観的に考えると俺って凄い立場だよね……自分ではあまり実感がないから忘れそうになる。もしこの世界に転生してきた頃の俺が今の俺と会うってことになったら、さっきの人と似たような感じになるかも。しかも面接ってより緊張するし。
「先程の男性は途中から少しは体の力が抜けたようでしたので、先程のように声をかけていただければ問題ないかと思います」
「本当? それなら良かった。じゃあ次の人お願いしようかな。どんどんやらないとね」
「かしこまりました」
――それから数時間かけて面接を行った。基本的には最初の人と同じように、皆緊張してて礼儀作法や敬語は全く分からない人ばかりだった。
でもロジェが厳選しただけあってほとんどの人は人柄が良かったので、意外と楽しく面接できた気がする。
そしてついに最後の一人だ。
「では最後の応募者を連れて参ります」
「よろしくね」
やっと最後だ〜と緩みそうになる体に叱責をして、ソファーに姿勢よく、でもゆったりと座って待っていると、部屋に最後の一人が入ってきた。俺はその人を見て思わず目を見開く。
……ニコラだ。ニコラも応募って形にしたんだね。でも確かにそっちの方が平等だし軋轢を生まないか。
「いらっしゃい。そこに座って」
俺はニコラが真剣な表情で入ってきたので、ちゃんと大公として接しようと思って、他の受験者に対する対応と同じようにした。
「ありがとうございます。失礼いたします」
するとニコラはしっかりとそう返してソファーに座る。ニコラが学びたいって言ったから学べるように環境は整えたけど、かなり頑張ったのかな。動きも洗練されたし何より普通に敬語を使っている。
「俺はレオン・ジャパーニス。ジャパーニス大公家の当主だよ。君は大公家の兵士になりたいってことで間違いはないかな?」
「はい。間違いありません」
「ありがとう。じゃあ魔力量と魔力属性を教えてくれる?」
「かしこまりました。魔力量は五で、属性は火属性です」
本当に敬語の勉強相当頑張ったんだろうな。俺が魔物の森に行ってる期間で勉強したってことだから、半月……九週間ぐらいだよね。もしかしてニコラって相当頭良い?
……確かに俺が転生した時から、普通に同じレベルで会話をしていた。よく考えたらおかしい、だって俺は成人した記憶持ち、ニコラはただの八歳だったんだから。こんなところにも天才がいたなんて……
ロニーにしろヨアンにしろロジェにしろ、この世界って凄い人が多すぎて、俺は使徒なのに大したことないじゃんって思われそうで怖い。俺も努力しろってことかな……うん、頑張ります。
「剣を習った経験はある?」
「近所に住む兵士の先輩から習っていました」
「それは王都の兵士団だよね? そっちじゃなくて大公家の兵士団を選んだ理由は?」
「それは、大切な人達の近くで剣を振るうことができるからです」
――それって、俺達家族のことだよね。
うぅ……ニコラが知らないうちにカッコよくなってる。俺もこういうカッコ良さを身につけたいのに完全に負けてる! でも、凄く嬉しい。
「……ありがと」
俺は大公の仮面を脱ぎ捨ててレオンとしてそう呟いた。するとニコラはそれが分かったのか、いつものようにニッと明るい笑顔を浮かべてくれる。
なんかニコラが一気に大人になっちゃった気がするな。俺も負けないように頑張らないと。
「じゃあ今日は終わりだから帰って良いよ。結果はまた明日聞きにきてね」
「かしこまりました。では失礼いたします」
ニコラは最後まで完璧な作法で部屋を後にした。
「……先程の青年は素晴らしいですね。今すぐにでも兵士としてやっていけそうでした」
ニコラが部屋から出るとローランがそう呟く。まあ驚くよね、他の人と明らかにレベルが違った。
「実はニコラは俺の幼馴染なんだ。兵士を目指してたんだけど俺が大公ってことを知って、大公家の兵士として雇ってもらえないかって言われたんだよね。そしてその時に今から礼儀作法や剣術を学んでおきたいって頼まれて、公爵家の兵士の方に教えてもらえるように場を整えたんだ」
「そのような経緯があったのですね。それならば納得です」
「うん。でも学べた期間は半月ぐらいだと思うから、俺もかなり驚いたよ」
ローランが俺のその言葉に目を見開く。
「半月は凄いですね……」
やっぱり半月であそこまでって凄いことだよね。相当頑張らないと無理だろう。ニコラには感謝しないと。最初から絶対に信頼できる兵士がいるっていうのは本当にありがたい。
「よしっ、じゃあ屋敷に戻ろうか。いつまでもここを占領してたら申し訳ないし」
「かしこまりました。では団長殿に伝えて参ります」
それからロジェが団長さんを連れてきてくれて、今日の感謝を伝え俺は屋敷に戻った。そして自分の部屋で面接者の情報が書かれている紙を眺める。
「ロジェ、兵士って何人必要なの?」
「基本的に王都の屋敷に常駐する兵士はそこまで多くありません。下位貴族は護衛以外はいない場合もあります。高位貴族は二十名程度が普通です」
「じゃあ俺は多くても三十人ぐらいにした方が良いのかな?」
「そうですね……しかしレオン様は領地をお持ちではありませんので、もう少し増やしても良いかと思います。他の貴族家は領地に大きな兵士団を抱えておりますので」
そっか……じゃあ四十五人を雇っても良いかな? 今日面接した感じ、五人だけちょっと俺と合わなそうだなって思った人がいたんだ。でもそれ以外は皆文句なしに雇いたいって感じだったから、さらに絞るのは難しい。
「じゃあロジェ、この五人以外の四十五人を雇うのでも良い?」
「そうですね……問題ないとは思いますが、一応陛下とタウンゼント前公爵様に話は通しておいた方が良いかと思います。その人数にさらに兵士や騎士から引き抜く経験者もプラスされますので」
「確かにそっか。じゃあ話をしてこようかな」
今の時間は午後の執務の時間だし、ちょっと執務室にお邪魔して了承を得るぐらいなら迷惑じゃないだろう。
「じゃあロジェ、ちょっとだけ出かけてくるね。転移で行くからここにすぐ帰ってくるよ」
「かしこまりました。ではお茶を淹れてお待ちしております」
「よろしくね」
そうして執務室に飛んでアレクシス様とリシャール様に確認をしたところ、四十五人を雇っても全く問題はないということだった。むしろ使徒の威厳を示すためにもう少し増やしても良いらしい。
そういうことなら今回雇った皆が慣れた頃に、また少し増やすことも考えようかな。
二人から了承を得て屋敷に戻った俺は、ロジェの淹れてくれたお茶で疲れを癒しながら、雇うことになった兵士四十五人の名前を覚えるために奮闘した。
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