第335話 お昼ご飯と兵士の面接
「二人ともごめんね。ここで一緒にご飯を食べようか。食べ物ならたくさん持ってるから」
「いえ、私達は一食抜いても問題ありませんので」
「ううん、ご飯はちゃんと食べた方が良いよ。遠慮しないで座って。やっぱり従者も護衛も交代要員が早急に必要だよね……」
この一週間のうちにリシャール様に相談に行こう。今までは俺が平民だったしロジェ一人だったから、従者が側にいない時間っていうのもあったんだけど、俺が大公となったからそういう訳にもいかないみたいなんだ。ロジェやローランの負担ばかりが増えている。
「では失礼致します」
ロジェは俺と一緒にご飯を食べることが何度かあり慣れたのか、素直に席に着いてくれた。そしてそんなロジェを見てローランも席に座る。
「失礼いたします」
「うん。何が食べたいかリクエストある? 基本的にはなんでもあるけど」
「レオン、わしはステーキが良いな」
「ステーキですね。あっ、そういえばファイヤーリザードって名前の魔物を倒したんですけど、この肉がとても美味しいんです。食べてみますか?」
ファイヤーリザードはかなり大きかったから、まだまだ肉が残ってる。
「魔物は食べたことがないんじゃが、美味いのか?」
「微妙なのも多いですが、ファイヤーリザードはかなり美味しいです。ファブリスのお墨付きです」
「神獣様の……ではいただこう」
マルセルさんのファブリスに対する信頼が高すぎる。こうしてマルセルさんを見てると、宗教って良い面もあるけどやっぱり怖い面もあるよね。
「ロジェとローランはどうする?」
「私も魔物肉を試してみたいです」
「私もです。どのような味なのか気になります」
「じゃあ皆でファイヤーリザードを食べようか」
俺は焼いた状態でアイテムボックスに保存しておいたファイヤーリザードの肉を取り出す。そして好みで味付けを変えられるように塩胡椒、各種ハーブなども机に並べた。後はスープとパンがあれば良いかな。そうだ、フルーツジュースも出そう。
よしっ、これで十分かな。
「じゃあ食べましょうか。足りなかったら言ってください。二人も足りなかったら遠慮しないでね」
「ありがとうございます」
「いただきます」
ファイヤーリザードの肉をフォークで固定して、ナイフでスッと一口サイズに切り分ける。本当に柔らかくてナイフが簡単に通るお肉だ。
……うん、やっぱりこの肉は絶品だ。牛の赤身ヒレ肉のような感じだけど、それよりも旨味が強くてより柔らかくて、でもしつこくない。美味いなぁ。
「なんと……魔物肉がこれほど美味いとは驚きじゃ」
「お口に合いましたか?」
「ああ、これは相当美味いぞ」
「やっぱりファイヤーリザード美味しいですよね。でも他の魔物肉は微妙なやつが多いので、これが特別なんです」
最初は恐る恐る肉を口に運んだマルセルさんが、かなりスピードアップしてステーキを食べ進めるのを横目に、俺は二人の様子も観察した。
ロジェは微かに口角が上がっているので相当美味しいと感じているみたいだ。ローランも肉を口に運ぶペースが早いから美味しいみたい。
「二人とも美味しい?」
「はい。このお肉は柔らかくてとても食べやすい食感ながらも、旨味が強くてとても美味しいです」
「今まで食べたステーキで一番かもしれません」
「ふふっ、そんなに?」
「これはそれほど美味しいです。ファイヤーリザードを畜産できないのでしょうか……?」
ファイヤーリザードを畜産、凄いパワーワードだ。あの大きさにあの強さだからね……
「多分それは難しいと思うな」
「やはりそうですか。では今味わっておきます」
そうして皆でファイヤーリザードを堪能して、俺はマルセルさんの工房を後にした。久しぶりに凄く楽しい時間だったな。
そして次の日、今日は兵士の面接の日だ。
「レオン様、公爵家の兵士詰所に五十人集まりました。屋敷の応接室に呼び寄せるか、レオン様が詰所に向かわれるかどちらになさいますか?」
「俺が詰所に行くよ。いちいち移動してもらうの大変だろうし。詰所にも応接室になるような個室はあるんだよね?」
「ございます」
「じゃあそこで一人ずつ話をしようかな」
「かしこまりました。では準備をして参りますので少々お待ちください」
公爵家の屋敷の隣には兵士が住む建物があるけど、俺はそっちに行ったことがないんだ。だから今日はちょっとだけワクワクしている。王都の屋敷だからそこまで常駐の兵士は多くないし詰所も大きくないけど、兵士詰所っていう場所に心惹かれるよね。
やっぱり男の子は騎士とか兵士とか憧れるんだよ。これはもうしょうがない。
「ローランは兵士詰所に行ったことある?」
「いえ、私はずっとレオンさまのお側におりますので、まだ行ったことはありません。しかしレオン様の護衛が増えましたら、一度兵士達とも有事の際の対応についてなど話し合いたいと思っております」
確かにそういう話し合いも必要なのか……俺の知らないところで色々と動いてくれてるんだな。
「ありがとう。早めに護衛を雇わないとね」
「よろしくお願いいたします」
「明日はリシャール様に時間を取ってもらってるから、大公家で雇う人達について色々と相談してくるよ」
そうしてローランと話していると、ロジェが準備ができたと呼びにきてくれた。
詰所の中に入ると、タウンゼント公爵家王都邸兵士団の団長さんが出迎えてくれる。
「レオン様、このような場所まで足をお運びくださりありがとうございます」
「ううん。逆にこんなところまで来ちゃってごめんね。今日は一部屋お借りします」
「一部屋と言わずに何部屋でもお使いください。こちらが応接室でございます」
詰所の中は特別珍しい作りをしているわけでもなく、ごく一般的な石造の建物で応接室も普通だった。もうちょっと剣が飾ってあるとか色々期待してたんだけど……まあ普通は剣なんか飾らないよね。よく考えたら剣を飾るのは屋敷の方だよ。
「案内ありがとう」
「では何かありましたらお声がけください」
団長さんが出ていくと部屋の中には俺とロジェ、ローランだけになる。早速面接をしていくかな。五十人って一人五分でも数時間かかるよね、早く始めないと。
「じゃあロジェ、最初の人を呼んできてくれる?」
「かしこまりました」
ロジェが部屋から出ていき、数十秒後に一人の男性を連れて部屋に戻ってきた。二十代前半ぐらいに見える人で、ガタイはかなり良さそうだ。でもやばいぐらい緊張しているようで、汗がダラダラと垂れている。
「し、失礼します!」
「いらっしゃい。そこに座ってくれるかな」
「は、はい!」
男性はカチコチとぎこちない動きを見せてソファーに腰を下ろした。服装はかなり貧そうだし、礼儀作法や敬語はこれからって感じかな。でもその辺は兵士なら雇ってから教えるのが普通だし、とにかく人柄と強さ重視だよね。
俺はそう考えて口を開いた。
「俺はレオン・ジャパーニス。ジャパーニス大公家の当主だよ。君は大公家の兵士になりたいってことで間違いはないかな?」
「はいっ!」
「そんなに緊張しなくても良いよ。別に礼儀がなってないとか敬語が使えてないとか、そういうので落とすつもりはないから。それはこれから覚えてくれれば良いよ」
「……はい」
「ふふっ、さっきから『はい』しか聞いてないよ」
男性が同じ言葉でバリエーション豊かな返事を聞かせてくれるのが面白くて思わず笑いながらそう言うと、途端に男性は顔を青くした。
「あ、あの、俺は敬語が使えないから。部屋に入る時の挨拶と返事だけは教えてもらったんだ。だからそれ以外は話せないと思って……」
あ、怖がらせちゃったかも。全然そんなつもりはなかったのに。
「そんなの気にしなくて良いよ。敬語が話せる人なんて平民にはほとんどいないことはわかってるから」
「……そ、そうか。ありがとな」
「うん、だから好きに話して。それで早速だけど、魔力量と魔力属性を聞いても良い?」
「ああ、俺は身体強化属性で魔力量は五だ。今まではそれを活かして荷運びの仕事をしてたから、魔法は使い慣れている。剣は王都の兵士になった友達にたまに教えてもらってたから、少しはできる」
おおっ、身体強化の魔力量五は上手くやればかなり強くなれる。もうこれだけで採用したい。話してる感じ絶対に良い人だし。というかこれ、ロジェが厳選したなら誰一人落とす必要なさそう……まあ、俺がちゃんと面接することに意味があるのだろうけど。
「なんで王都の兵士にならなかったの?」
「父ちゃんから荷運びの仕事を引き継ぐことになってたから諦めたんだ。俺は長男だし」
「そっか。じゃあなんで今回は応募してくれたのかな?」
「それが……王都の兵士になるって言った時は父ちゃんに反対されたんだけど、父さんが使徒様のことをかなり好きになったみたいで、使徒様を守る兵士になりたいって言ったら即答で頷いてくれたから……」
今までは兵士になんかならないで家業を継ぐのが長男だろ! って言われてたのが、お父さんが使徒様ファンになっちゃって、使徒様を守る兵士なら許す! ってなったってことか。こんなところにも使徒様のことを広めた恩恵があるなんて。
「そういうことね。お父さんに許してもらえて良かったね」
「俺はずっと兵士になりたかったから、今回は凄く嬉しいんだ。精一杯頑張るからぜひ雇ってくれ」
男性はそう言って少しだけ笑顔を見せた。うん、もうこの人は採用で良いかな。やる気十分だし性格良さそうだし、何よりも魔力量と魔力属性が完璧だし。
「色々と聞かせてくれてありがとう。じゃあ今日はこれでおしまい。結果は明日また聞きにきてね」
「わ、分かった。今日はありがとな」
男性は最初の頃よりは緊張感が薄れた様子で部屋から出て行った。
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