第327話 再会と慶事
「ではレオン、レオン達が帰還したとの報告を聞きステファンとマルティーヌが会いたいと言っているのだが、ここに呼んでも良いか?」
「ステファンとマルティーヌが! 勿論です」
やっと会える! 魔物の森に行く前にはマルティーヌを泣かせちゃったし、早く無事な姿を見せたかったんだ。というよりも、俺がマルティーヌと会いたいだけかもしれない。
「神獣様も良いでしょうか? 私の息子と娘なのですが……」
『勿論構わんぞ。我のことは気にせんで良い』
「ありがとうございます」
それからアレクシス様が従者に二人を呼んでくるように伝えて、数分後に二人は部屋の中に入ってきた。しかしさすが王子殿下と王女殿下、まずはファブリスに対してしっかりと挨拶をしている。
周りも見ずに俺のところに駆け寄ってきてくれないのはちょっと寂しいけど、王女様だから仕方ないよね。俺はマルティーヌのこういうしっかりとしたところも好きなんだ。
それから二人はファブリスと話をして、話が終わると俺の方に視線を向けた。
「レオンっ! 本当に良かったわ。無事で良かった……」
マルティーヌは俺と視線が合った途端に顔を泣きそうに緩め、すぐに駆け寄ってきて抱きついてくれる。その腕が少しだけ震えていたのが分かり、俺は優しくマルティーヌを抱きしめ返した。
「マルティーヌただいま。一つも怪我してないし大丈夫だよ」
「……うん、本当に良かった」
「心配かけてごめんね」
「ううん。無事に帰って来てくれたのなら良いわ。約束のお茶会をしましょう」
「そうだね。ちゃんと時間を作るよ」
マルティーヌは少し落ち着いたのか俺から体を離した。そして至近距離で綺麗に微笑む。その瞳はまだ涙に濡れていて……光を反射してキラキラと光り輝いていた。その光がマルティーヌの美しさをより一層際立たせているようだ。……本当に何度見ても綺麗だな。
それからしばらくマルティーヌに見惚れて二人で見つめ合っていると、苦笑しつつステファンが声をかけてくれた。
「レオン、無事に帰って来てくれて良かった」
「ステファン……心配してくれてありがとう。また皆と会えて嬉しいよ」
「リュシアンもかなり心配していたから早めに会いに行ってやってくれ」
「うん。皆にすぐ会いに行く」
「それにしても神獣様とお会いできるとは……レオンといると驚くことばかりだな」
ステファンはファブリスを見る時の瞳が輝いているので、動物が好きなのかもしれない。
「ファブリスを撫でてみる? 毛並みがふわふわのサラサラで凄く気持ち良いんだ」
「え……良いのか?」
「ファブリス良いよね?」
『別に構わんぞ。痛くするなよ』
「だってよ。マルティーヌも撫でてみる?」
「ええ、では少しだけ」
「神獣様、失礼致します」
まずはステファンが恐る恐る手を伸ばした。そしてファブリスの毛並みをひと撫ですると……顔を輝かせる。
「素晴らしい毛並みです……」
「本当ね。とても綺麗ですわ」
マルティーヌも気に入ったようだ。二人とも撫でる手が止まらない。
「ファブリス良かったね」
『まあ、我の毛並みは極上だからな。当然だ』
「ふふっ、そうだね」
ファブリスの尻尾が揺れているのを見て思わず笑ってしまう。尻尾が揺れてるのは完全に無意識みたいなんだよね。他の皆も視線が尻尾の動きを追ってるみたいだ。
「そういえば、エリザベート様はいらっしゃらないのかな?」
エリザベート様にも帰還の挨拶をしたいなと思って何気なくその言葉を口にしたら、何とも微妙な雰囲気が応接室に流れた。もしかして聞いちゃいけなかった……?
「あの、もし今はお会いできないとのことでしたら、またご都合の良い時で構わないのですが……帰還のご挨拶をしたいと思っただけですので」
「……そうだな。ここにいるメンバーならば話しても良いだろう。実はエリザベートは子を身籠っていてな、体調が悪くここへは来れなかったのだ。もう少しして落ち着いた頃に会ってやってくれるか」
アレクシス様が嬉しそうな表情でそう教えてくれた。子を身籠ってるってことは……ステファンとマルティーヌの弟妹ってことだよね。それはおめでたい!
「それはおめでとうございます。無事に生まれて来るのが楽しみですね」
「そうなんだ」
「ステファンとマルティーヌも良かったね。弟妹、絶対に可愛いよ。うちのマリーは天使だから」
「生まれてくるのが楽しみだ」
「絶対に可愛がるわ」
応接室の雰囲気が心地よい明るさになる。赤ちゃんって凄いよね。まだ生まれてもいないのに存在しているだけで皆を笑顔にできるんだから。
「レオンも義弟か義妹になる。仲良くしてやってくれ」
確かにそうか……なんか良いな。この世界でこうして家族がどんどん増えていくのは本当に嬉しい。
「勿論です。凄く可愛がります」
「ははっ、ほどほどにな」
そうして皆で幸せを感じながら話をして、今日は解散となった。俺はファブリスに乗って公爵家に帰ることにする。国内ならどこでもこうして移動して良いそうだ。
「ファブリス、改めてこれからよろしくね。この国はどうだった?」
『我はこの国が好きだな。先程会った者達は皆良い人間だった』
「うん。勿論この国にも悪い人はいるんだけど、さっきいた人達みたいにこの国を良くしようと頑張ってる人もたくさんいるんだ」
『我も手助けをしよう』
「ファブリスありがとう!」
俺はファブリスの背中にぎゅっと抱きついた。やばい、ふわふわで温かくて適度に揺れる、ここで寝れるよ……
……あっ、そうだ。寝る前にミシュリーヌ様に確認したいことがあったんだ。
「ファブリス、俺の声が周りに聞こえないようにしてくれない?」
『了解した。……これで良いぞ』
「ありがと。ちょっとミシュリーヌ様と話すね」
風魔法を上手く使うことで周りからの音や周りへの音を遮断できるらしいんだけど、まだ俺は上手くできないのでファブリスにやってもらっている。
周りの音が聞こえなくなったのを確認して、本を取り出しミシュリーヌ様に話しかけた。
「ミシュリーヌ様」
『ふぁに? ふぁたひしょっほいほはしいふあへと』
「ちょっと何言ってるか分かりません」
『しょっほはっえ――ふぅ、それで何かしら? もう、せっかく穴を塞げたお祝いパーティーをやってたのに』
「一人でですか……?」
『違うわよ! ちゃんとシェリフィーがいたわ。まあもう帰っちゃったけど……』
「じゃあ今はただスイーツを食べる会ですね」
『……まあ、そうとも言うわね』
今回はミシュリーヌ様もかなり頑張ってくれたし、ご褒美でスイーツを食べるぐらいは良いけどね。でも食べ過ぎていざという時に神力がないなんてことになったら困るから、やっぱり自重はしてもらおう。
「ちゃんとこれからも自重してくださいね。神力は何かあった時のためにも貯めておくべきです」
『分かってるわ。ちゃんと貯めて神界も充実させるんだから』
「そういえば、俺が使徒としてお披露目されたことで神力の回復速度は変わりましたか?」
『うーん、多分ちょっとは増えてると思うんだけど、そこまで変わらないっていうのが正直なところね』
そうなのか……俺の存在をしっかりと知らせたのは王都といくつかの街だけだし、使徒イコール女神様ってならないのかな? やっぱり俺ももっとミシュリーヌ様の宣伝をしないとダメかな。……ファブリスを見習おう。
ミシュリーヌ様への信仰心が高まるほど、必然的に俺の地位も確固たるものになるだろうし、そこは手を抜かない方が良いよね。
「ではミシュリーヌ様への信仰心がもっと増えるように頑張りますね。なので、ミシュリーヌ様ももっと信仰されるような神らしさを身に付けてください」
『神らしさって、どういうのが神らしいの?』
「え、それは……厳かな感じというか、ありがたいお言葉を賜われるとか、人間とは違う、凄い力がありそうな雰囲気とか?」
『……漠然としてるわね。今の私じゃダメなの? 神は私なんだから、私らしさが神らしさじゃない?』
……確かに。そう言われると神らしさだってミシュリーヌ様が好きに決められるのか。それに何が神らしいかなんて俺の何となくのイメージでしかないし。
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