第328話 ミシュリーヌ様と作戦会議

 目から鱗の考え方だ。そうなると、親しみやすい神様がミシュリーヌ様の目指す路線で良いのかな? 確かにそっちの方が上手く行く気がする。


「今のミシュリーヌ様の良いところって、親しみやすさだと思うんです。なのでそれを全面に出していくのが良いのかもしれませんね……」

『例えば何をすれば良いの?』

「そうですね……週に一回、例えば回復の日にミシュリーヌ様が王都の中心街にある教会に顔を出すっていうのはどうですか? ちゃんとお祈りにくる人の話を聞くんです。あっ、お祈りしてる内容って聞けますか?」

『王都の中心街にある教会は神域だから聞こうと思えば聞けるわね』

「じゃあミシュリーヌ様が気になった人のお祈りを聞いて、その中で助けてあげたいと思った人にランダムで助言を与えるとか。そういうのはどうですか? あんまりやりすぎるとありがたみが減るので、年に四回、一月に一度ほど助言をしたり助けてあげたりするんです」


 我ながら名案な気がする。ミシュリーヌ様も神界で退屈だからこそスイーツに逃げるんだし、仕事があれば良いんだよね。それに熱心に祈ってれば願いを叶えてもらえるかもとなれば、皆が祈りに来てミシュリーヌ様を信仰するだろう。


『確かに最近は神力も増えてるし、神域の中への神託ならそこまで神力も必要ないし楽しそうね! それやってみるわ!』

「ありがとうございます」


 俺は思わず苦笑しつつ答えた。ミシュリーヌ様は人間がどういう神様を信仰したがるのかっていうのがよく分かってないんだろうな。ミシュリーヌ様って神の中ではまだまだ若い方なのだろうか。


「じゃあ毎週回復の日、六時の朝の鐘から十八時の夜の鐘までで良いですか?」

『分かったわ!』


 後は俺がアレクシス様にこの事実を伝えて、国中に公布してもらおう。そうすれば王都に旅行に来る人も増えて、経済も回るんじゃないかな。

 ただ王都に人が集中しすぎないように気をつけたり、礼拝客が集まりすぎることによって引き起こされるトラブルへの対処とか、色々と考えないといけないことも多そうだけど。


「そういえばミシュリーヌ様、他国はどうなってるのですか? ミシュリーヌ様が信仰されているのですか?」

『他国ね……私への信仰が少しあるところはあるけど、ほとんど信仰されてないわ。もう完全に別の神を信じてる国もあるし、そもそも信仰がない国もあるし』

「神物である教会はこの国の王都にしかないのですか?」

『違うわ。後いくつかあるのよ。でも森の中で忘れ去られてるものとか、劣化しないのを良いことにスラムのような場所で人の住処になってたりとか、まあそんな感じね。この国の王都にある教会は前の使徒の子がちゃんと整備してくれたから。それに使徒が作った国だから、今でもここまで信仰心が残っていたのよ』


 そうなのか……この国がいくら大国とはいえやっぱり一つの国だから、できれば他の国でも信仰してもらいたいよね。信仰がない国はそこまで忌避感なく受け入れてくれるだろう。だけど問題は他を信仰してる人達だ。

 うーん、無理に広めなくてもまずはこの国からにしようかな。段々と他国にも広がっていくかもしれないし。


「では他国についてはまた後で考えることにします。まずはこの国からですね。ミシュリーヌ様にとってはこの国が総本山? みたいなものでしょうし」

『そうね! まずは回復の日に頑張るわ』

「お願いします。それから何かしらのイベントもやりたいですね」

『お祭りみたいなことかしら?』

「そうです。日本でも宗教イベントは結構ありましたよ。この国でもそういう日を作れば、その時はたくさんの人がミシュリーヌ様への信仰心を持ってくれると思いますし、何よりたくさんの人に知ってもらうことができます」


 日本でも初詣や七五三、クリスマスとか色々イベントがあった。まあ日本はいろんな宗教のイベントがごちゃごちゃだったけど……


『それ良いわね! じゃあ私の宗教イベントはスイーツを食べる日にしましょう!』


 あっ、やっぱりそうなった。絶対そう言うと思った。でもクリスマスだってクリスマスケーキを食べてたし、スイーツを食べるイベントは悪くないかな。


「じゃあそれでいきましょう。時期はいつ頃で、どんな理由のイベントにしますか? ミシュリーヌ様の誕生日とか?」

『私の誕生日なんて分からないわよ?』

「うーん、じゃあ適当に誕生日を決めちゃいます?」


 いや、さすがにそれは適当すぎるか。誕生日がダメなら使徒様が初めて降臨した日とか……


『それで良いわ! 楽しみね〜』


 え、良いの!? ……まあ、ミシュリーヌ様が良いって言うなら良いのかな? 誕生日って誰にでも分かりやすいし祝いやすいよね。それにミシュリーヌ様を直接祝うことになるのも、信仰心を高めるという点ではプラスだろう。


「では誕生日にしましょう。いつ頃が良いですか?」

『そうね〜レオンに任せるわ。別にこだわりはないもの』

「分かりました」


 祭りは外でやるんだから暑くもなく寒くもない季節が一番良いよね。後は雨があまり降らない季節にすべきだろう。それにこれから準備をするとして……春の月の終わり頃か夏の月の初めが良いかな。うーん、何となく夏の月にしよう。


「ではミシュリーヌ様、夏の月第一週、回復の日で良いですか?」

『分かったわ! その日がスイーツ食べ放題の日ね!』

「まあ、その日ぐらいはミシュリーヌ様も好きなだけ食べて良いと思いますよ」

『最高の日ね!! 早くその日にならないかしら』


 まだ冬の月なのに気が早すぎるよ。


「まだ先ですよ。それでどんなイベントにしますか? どんなスイーツを食べるとか、色々と決めた方が良いと思うんです」


 平民も参加できるイベントじゃないと意味ないから、その日だけ特別に食べられる程度の金額のもの……やっぱりクレープが良いかな。屋台で売るのも簡単だし、クレープなら甘いものの他にもおかずクレープを作れるし。


「ミシュリーヌ様、クレープを食べる日というのはどうですか? それならば平民でも楽しめると思います」

『そうね……それも良いんだけど、クレープだけはちょっと寂しいわ。後ショートケーキとクッキーも食べる日にしましょう!』


 いや、それは欲張りすぎだから! うん、ミシュリーヌ様に聞いたのが間違いだった。俺が勝手に決めることにしよう。

 でも確かにクレープだけだと寂しいっていうのも分かる。そうだな……貴族にはミルクレープを食べてもらうことにしようかな。ミルクレープをその日だけの特別で盛りに盛って、かなり豪華に仕上げればイベント感も出るよね。


「ではミシュリーヌ様、平民は基本的にクレープで、貴族の間ではミルクレープを食べてもらうことにしましょう。そしてそのミルクレープをそれぞれ好きなように飾って貰えば、たくさんの種類のミルクレープが作れますよ」

『それ良いわね! 楽しそうだわ!』

「じゃあスイーツはそんな感じで、後は礼拝をしてもらえるように何か考えないとですね」


 せっかく宗教イベントをやっても、クレープの屋台がたくさん出て楽しくて美味しい日! みたいな認識になっちゃったら意味がない。やっぱり教会で何かを販売するとかが一番かな。


 ――そうだ、教会で何も巻かないクレープの皮のみを売って、それを食べると一年間幸せになれるよって感じで広めるのはどうだろう。そういうのって実際に幸せになれるかどうかは別として、なんとなく食べに行きたくなるものだよね。


「ミシュリーヌ様、教会でクレープの皮のみを売ることにします。それをイベントの日に食べると一年間幸せになれるかも、って感じで」

『そんなので教会に人が集まるの……?』

「実際にやってみないと分からないですが、こういうのって意外と集まるものだと思います。俺もそう言われたらとりあえず行っておこうってなりますし」


 それに今この国ではミシュリーヌ様が存在することは周知の事実になっているし、なおさら皆教会に行くと思う。


『そういうものなのね。まあレオンに任せるわ』

「ありがとうございます。では今決めたことをアレクシス様に相談して、まずは王都でやってみますね。上手くいったら段々と他の街にも広げましょう」

『分かったわ、よろしくね。……レオンが使徒として来てくれて本当に良かった』


 いつもよりも数段落ち着いた声音で、しみじみとそう呟くミシュリーヌ様の声が聞こえた。そんな雰囲気を出されたら調子狂うんだけど……やっぱりミシュリーヌ様は騒がしくてちょっと抜けてるぐらいがちょうど良い。


「ではミシュリーヌ様、今日はもうスイーツ禁止ですからね。これから色々に神力を使うんですから」

『……わ、分かったわ』

「本当に分かってます?」

『分かってるわ! 後一個、後一個だけ食べたら終わりにするから』

「ははっ……本当に後一個だけですからね」


 俺はいつもの調子に戻ったミシュリーヌ様に何だか安心して、思わず笑いが込み上げてきてしまった。なんだかんだこの駄目な感じのミシュリーヌ様のこと、嫌いじゃないんだよね。


『約束は守るわ』

「よろしくお願いします。……ではかなり話が逸れたんですけど、聞きたいことがあって質問良いですか?」

『なんだ、まだ本題じゃなかったの?』

「はい。ミシュリーヌ様がスイーツを食べてるから話が逸れました」

『私のせいじゃないわよ!』

「そうですね。ふふっ、じゃあまた話が逸れるので本題いきます」


 そう前置きして、俺は聞きたかったことを口にした。

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