第326話 王宮へ
王宮に辿り着くとすぐに広い応接室に案内された。中に入るとアレクシス様とリシャール様が跪いて待っている。この二人に跪かれてるのは本当に居心地が悪いな。
トリスタン様達三人も、部屋の中に入ると端に移動してその場で跪いた。
「ファブリス、この方がこの国の国王であるアレクシス・ラースラシア様。そして隣にいるのが宰相であるリシャール・タウンゼント様だよ」
『この国の長ということだな。我はファブリス、ミシュリーヌ様の神獣である。これからはレオンの手助けをすることになったのでよろしく頼む』
「神獣様、お初にお目にかかります。私はラースラシア王国国王、アレクシス・ラースラシアでございます。神獣様にお会いできましたこと、とても嬉しく存じます」
「私はリシャール・タウンゼントでございます。この国の宰相をしております。神獣様にお目見えできるなど、大変光栄でございます」
二人は少し顔を上げてそう挨拶をすると、また頭を下げてしまった。ファブリスも自己紹介は終わったからかもう何も話さない。……この沈黙めっちゃ気まずい。
「ではお互い紹介も終わったことですし、あまり畏まらずに話しましょう。ファブリス良いよね?」
結局は俺が口を開き、少し強引に雰囲気を和ませた。
『勿論だ。そもそも人間の礼儀の良し悪しなど我には分からん』
「ということなので、皆さんソファーに座ってください。トリスタン様達も座りましょう?」
「……良いのだろうか?」
アレクシス様が少しだけ顔を上げて困惑したような表情を見せる。
「もちろんです。顔が見えなかったら話しづらいですから」
「……では、ソファーに座らせていただくことにしよう」
そうして皆でソファーに移動し、ファブリスは俺が座ったソファーの横に寝そべった。大公家の屋敷にはファブリス用の大きなクッションが必要かな。
「ではアレクシス様、改めてこちらが神獣であるファブリスです。これからは私に付いて色々と手助けをしてくれるみたいなので、こうして側にいることも増えるかと思います」
「分かった。神獣様の存在については広く周知をしている最中で、さらに先ほど神獣様のお言葉が聞こえたので、この王都内で活動されることに問題はないだろう。順次他の領地へも神獣様のことを広めていくので、国内では伸び伸びと過ごしていただけることになるだろう」
「ありがとうございます」
それならこれから移動する時は、ファブリスに乗って移動すれば早くて良いね。転移はまだまだ魔力が足りなくて国内を自由に飛び回れないし。
「ファブリス、この国の中なら自由に動いても良いってよ。でも建物を壊したりしないように気をつけてね」
『分かっている。ただ我が動く時は基本的に主人が動く時だ。一人では動かないので心配するな』
「そうなの? それなら怖がらせることも減るだろうしありがたいけど……、ファブリスは自由に動きたくならない?」
『百年程度、ずっと動かなくとも問題はない。ただ起きているのだから食事は欲しいな』
「じゃあファブリスのご飯は、毎日美味しいものをたくさん作ってもらうようにしようか」
久しぶりに食べた人間のご飯が美味しかったのか、ファブリスは食事の時間をかなり楽しみにしてるみたいなんだよね。色々と助けてもらうことになるんだし、ご飯は奮発して美味しいものをたくさん用意してあげよう。
『感謝するぞ。食事の時間が楽しみだな』
ファブリスの尻尾がふさぁ、わさぁ、と揺れている。あまり揺れない尻尾が揺れてるから相当嬉しいことが分かる。……分かりやすくて可愛いやつだ。
「アレクシス様、今回の遠征で時空の歪みは塞ぐことができて魔人の脅威も去りました。しかし未だに魔物の森の脅威は残っています。これから時間をかけて魔物の森を駆逐していくことになるかと思いますが、その手助けも私とファブリスでやりますので、計画には私達の戦力も加味してください」
「それは本当にありがたい。実はレオン達が魔物の森の奥に行っている間にも、前線の街がまた一つなくなったのだ。やはり魔物の森の勢いが速く押さえ込むのは難しい。なんとか進行を食い止めるか、進行を遅くするかしか今のところできていないのが現状だ」
やっぱりその現状は変わらないのか……山火事が起きた時に原因となったタバコの不始末に対処したとしても、もう燃え広がっている火の勢いは変わらないのと一緒だよね。
やっぱりここからは人海戦術で頑張るしかないだろう。騎士や兵士、さらには募集で集まってくれた平民になんとか食い止めてもらいつつ、俺とファブリスが遊撃するのが一番かな。
魔植物には火があんまり効かないし、とにかく物理的に切り刻んでアイテムボックスに入れて消してしまうのが一番早い。でもやっぱりファブリスがいたとしても、二人でできることは高が知れているんだよね……戦ってくれる人数を増やすのが一番だ。
「やはりそのような現状なのですね……一番足りないのは人手ですか?」
「そうだ。しかし段々と戦ってくれる者の数も増えている。今回レオン達が帰還したことでより増えるだろう。さらに少し前にいくつもの貴族家が取り潰しになったが、その領地でその日暮らしが精一杯という者達が多く志願してくれている」
それは良いことなのか悪いことなのか……でもその人達が今現在生きる術を見つけられてるって考えたら良いことなのかな。
「その人達は魔物の森の駆逐が完了したら、仕事を斡旋するのですか?」
「ああ、もともと住んでいた土地に農地を与えたり、仕事はそれぞれ紹介する予定だ。勿論それ以外の領地や王都から志願してくれた者に対しても、魔物の森を駆逐できた後については保障する」
そこまで考えてくれてるのなら志願してくれる人もどんどん増えるかもしれないな。でもこんなこと聞いて良いのか分からないけど、そこまでお金があるんだろうか?
「それならば安心ですね……あの、一つだけ心配事があるのですが聞いても良いでしょうか?」
「勿論なんでも構わない」
「この国の財政は、その……問題ないのですか? それだけの人数に給金を出して、さらにその後の生活まで保障するのは大変なことだと思うのですが……」
「そうだな。確かに厳しいがそこまで大きな問題にはならない。レオンには詳しく話したことはなかったが、この国はとても裕福な国なのだ。理由は魔法具だな」
この国が大国だってことは知ってたけど、アレクシス様が言い切るほど裕福な国だったのか。
「魔法具が一番発展しているということでしょうか?」
「というよりも、この国でしか魔法具は作れないというのが正しいな」
「それは、何故でしょうか? 技術面ですか?」
「いや、材料の問題だ。魔法具に必要な魔石と魔鉄、それが産出する場所はこの国にしかないのだ」
え……まじか。それは知らなかった。かなりの衝撃事実なんだけど。
「魔石と魔鉄は王都より少し東に向かった場所にある二つの山から産出する。というよりもそこからしか産出しない。したがって魔法具を作れるのはこの国だけで、それを輸出することで裕福さを実現できるのだ」
それはこの国が大国になるのも分かる。というかこの国からしか出土しないって、ミシュリーヌ様がそうしたんだよね? 今度なんでこの国だけなのか聞いてみよう。
「それは外交という面ではかなり有利となりますね。しかしその分狙われることも増えそうですが……」
「そこが一番の問題だな。しかしだからこそ軍備を増強してきたことで、現在魔物の森の進行を止められているのだから、何が功を奏するかなんて分からないものだ」
「確かにそうですね。……私の疑問に答えてくださってありがとうございました」
「この程度ならいくらでも話そう。これから先、もしかしたら他国に赴いて魔物の森への対処を助けることになるかもしれない。だから他国のことも少しは知っておいてもらえるとありがたい」
「かしこまりました。その可能性も考えておきます」
そこまで話したところでお茶を飲んで一息吐き、アレクシス様は雰囲気を明るいものに変えた。
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