第325話 凱旋パレード
「皆さん戻りました」
「結構早かったね。兄上と話し合いはできたかな?」
「はい。アレクシス様にファブリスのことを説明して、これからの予定を決めてきました。まず今日ですが、このままこの場所で野営をすることになります。そして明日の昼頃にファブリスに乗って凱旋パレードをして、王宮に戻る予定です」
俺のその言葉に三人は納得したように頷いてくれた。
「確かにパレードで神獣様の存在を示せば、今後王都の中で過ごしやすくなるよね」
「行きにあれだけ大々的なパレードをやったんだし、凱旋パレードをやることに違和感もないな」
「またかなり目立つが、まあそれは今更か」
確かに相当目立つだろうけど、もう仕方がないよね。でも今回一番目立つのはファブリスのはずだ。俺達はおまけ程度だよね。
「ファブリスはその予定で大丈夫? 俺達を乗せて王都の中を歩いて欲しいんだけど」
『人の街を歩けば良いのだろう? そのぐらい造作もないことだ』
「ありがとう。スピードはかなりゆっくりで良いからね。俺達が歩くスピードよりもゆっくりを意識して歩いて欲しいんだ。それからたまに自己紹介もしてもらいたいんだけど」
『自己紹介とは、どのようなことを言えば良いのだ?』
ファブリスの自己紹介はやっぱり神獣であることと、俺を助けることは言って欲しいな。あとはミシュリーヌ様の宣伝もしてもらおうかな。
俺が使徒としてお披露目されて平民の間にも少し信仰心が戻ったみたいだけど、やっぱりまだまだなんだ。ここでもう一段階高めておきたい。神力を増やしておけば、万が一の事態がまた起きてもすぐに対処できるだろうし。
「ミシュリーヌ様に遣わされた神獣であることと名前、それから俺の手助けをすること。この国を魔物の森から救うこと。その辺を言えば良いと思うよ」
『ふむ……我は女神ミシュリーヌ様から下界へと遣わされた神獣、名はファブリスと言う。ミシュリーヌ様の使徒であるレオンを助け、レオンと共にこの国を魔物の森から救い発展させる役目を担う。よろしく頼むぞ。……こんな感じで良いか?』
「ファブリス凄い! 完璧だよ!」
『そ、そうか? まあ、この程度造作もないことだ』
ファブリスが照れてる……! 凄く大きな体で顔も可愛い系じゃないのに、照れてるとなんか可愛さを感じる。でも神獣の威厳は全くなくなってるけどね……
「じゃあ明日もそれでよろしくね」
『了解した』
「それから歩く速度なんだけど、ゆっくり歩いてみてくれる?」
『……こんな感じか?』
「いや、もっとゆっくりにして欲しいかな」
『……こうか?』
「そのぐらい! その速度を覚えておいて。じゃあ明日はよろしく」
『相分かった』
そうしてファブリスとの打ち合わせも終わり、俺達は夕食を食べてのんびりと過ごした。そして夜は一応バリアを張り、その中のベッドで快適に眠りについた。
――そして次の日。
「王弟殿下、ジャパーニス大公様、ジェラルド第三騎士団長、フレデリック様、パレードの準備が整いましたので王都までお願いいたします!」
のんびりとお茶を飲みながらケーキを食べていたところに騎士がやってきて、パレードの準備が整ったことを知らせてくれた。
「知らせてくれてありがとう。では行こうか」
「はい。じゃあファブリスよろしくね。上手くできたらご褒美にケーキ二つあげるから」
『本当か!?』
「もちろん。だからゆっくりと歩いて、昨日の自己紹介をちゃんとしてね。後は何があっても人間を攻撃しないこと。これは守って」
『分かっている』
「ただしファブリスが命の危険に陥る時は例外で良いよ。まあそんなことはないと思うけど」
『了解した。では行くぞ。主人乗ってくれ』
俺は三人と共にファブリスの背中の上に転移をして、バリアで落ちないように固定した。
「よしっ、大丈夫かな。皆さんも大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ」
「では行きますね。……ファブリスよろしくね」
それから走ること数分、すぐに王都の街並みが遠くに見えてきた。こうして王都を見るとついに帰ってきたって実感するな……
「ファブリス、あれが王都だよ。あの中に入ったら昨日の速度だからね。進むべき道は騎士や兵士の人が示してくれるから分かると思う」
『主人は心配性だな。ちゃんとやるから大丈夫だ。我は何千年も人間と共に暮らしていたんだぞ』
「確かにそっか……でもなんか心配になっちゃうんだよ」
ファブリスは悪いことをしないっていうのは分かってるんだけど、人間と価値観が違うから思わぬことをしでかしそうで怖いんだよね。もしそれで何か起きたら俺の責任だし……これからはこの国の常識なんかも少しは教えていこうかな。
ファブリスとそんな話をしていたら、もう王都は目の前まで来ていた。大通りにはずらっと騎士や兵士が並んでいて、俺達が通る道を作ってくれている。そしてその外側には、出立のパレードの時と同じぐらいの人が集まっているようだ。
「あれが神獣様、確かにとても神々しいわ……」
「あの凛々しいお姿。一眼でも見ることができてもう人生に悔いはない」
「使徒様もいらっしゃるわ。魔物の森の奥に巣食う巨大な魔物を倒されたとか。本当にありがたいことね……」
「ああ、皆様のおかげで我らは安心して暮らしていける」
まず大通りに入って目につくのは、手を組んで祈りを捧げるようにファブリスのことを見ている人達だった。多分この人達は信仰心を持ち続けてくれた人だろう。ファブリスもその声が聞こえているからか、かなりのドヤ顔で歩いている。
それからしばらく歩くと集まっている人の様子が変わってくる。
「あれが神獣様なのか。確かに上に使徒様が乗ってるな」
「大きな狼みたいね。危なくないのかしら?」
「神獣様にそんなこと言っちゃダメだろ!」
「あら、ごめんなさい」
声の大きな夫婦がそんな会話をしているのが聞こえる。一応神獣の存在は浸透しているらしい。昨日の今日でそれだけでもめちゃくちゃ凄いよ。アレクシス様とリシャール様、ありがとうございます。
「使徒様ー! 魔物を倒してくれてありがとう!」
今回の遠征の目的は、魔物の森の奥に住む強い魔物を倒しに行くってことになってたからか、さっきからこうして感謝をされることが多い。実際の内容とは違うけど、それでも感謝してもらえるのは嬉しいよね。
そうこうしているうちに最初の広場に辿り着いた。まずはここでファブリスに話してもらおう。
「ファブリス、ここで一度自己紹介しておこうか。たくさんの人が集まってるみたいだし」
『分かった。我の言葉はかなりの広範囲に届けられるが、この広場の外にまで届いても良いのか?』
「そんなことできるの?」
『できるぞ。我は人間のように声を発しているわけではないからな』
確かにファブリスの声は、ミシュリーヌ様みたいに頭に直接響くんだよね。
「じゃあ広範囲でお願い」
『了解した。……皆の者、聞こえているか? 我は女神ミシュリーヌ様から下界へと遣わされた神獣、名はファブリスと言う。ミシュリーヌ様の使徒であるレオンを助け、レオンと共にこの国を魔物の森から救い発展させる役目を担うことになった。これからよろしく頼むぞ』
ファブリスの声は力強いけれどどこか優しく、神聖な雰囲気を纏って俺達の頭にふわっと流れ込んだ。いつも話している声音とは全然違った……さすが神獣だね。ミシュリーヌ様より優秀なんじゃない?
そんなファブリスの声を聞いた王都の民達は、さっきまでの騒がしさから一転、物音一つ立てない。ある人は驚愕を、ある人は敬愛を、ある人は礼賛を顔に浮かべ、誰もがファブリスをじっと見つめている。
「ファブリス、凄く良い機会だしミシュリーヌ様をもっと宣伝してあげて。この世界での信仰心を高めたいんだ」
俺がファブリスにだけ聞こえるようにそう呟くと、肯定するように少し体を揺らした。そしてまた先ほどの声が聞こえて来る。
『レオンも我の主人ではあるが、我ら共通の敬うべき主人はミシュリーヌ様である。この国が、この世界がこうして存在していること、作物が育つこと、魔法が使えること、全てミシュリーヌ様のお力によるものだ。ミシュリーヌ様への感謝を忘れず祈りを捧げれば、必ず其方らの人生に幸福がもたらされるだろう』
ファブリスのその言葉に一人が膝をついて頭を下げた。するとそれを皮切りに集まっていた人々がどんどん跪いていく。ファブリス凄い……これは相当信仰心が回復したんじゃないかな。
『主人、これで良いか?』
「完璧だよ。ありがとう」
『このぐらい造作もないことだ』
ファブリスは俺にだけ聞こえるようにそう言うと、さっきまでよりもドヤ顔でより優雅に、跪く人の間を歩いていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます