第324話 王都へ帰還
「バーベキューとは楽しいね。肉を焼くことにハマりそうだよ。屋敷で妻とやろうかな」
「楽しめると思います。バーベキューは大人数の方が楽しいので、ご友人などを呼んでも良いかもしれません」
「確かにそうだね。帰ったら考えよう」
トリスタン様は凄く楽しそうに、バーベキューパーティー開催について考えている。これで貴族の主流がお茶会じゃなくてバーベキューになっちゃったらどうしよう……
服とか匂いつくし大変だよね。何よりも大変なのは使用人だろう……なんかごめんなさい。
「では王都に向かうか?」
「そうですね。早めに帰りたいですし早速行きましょうか。ファブリス、もう走れる?」
『問題ないぞ。たくさん肉を食べて力が漲っているからな』
「それなら良かった。じゃあよろしくね」
『任せておけ』
――そうしてたまに休憩を挟みつつ数日走り続け、俺達はついに王都の近くまで帰ってきた。もう王都の農業地帯に入ってしばらく進んだので、このまま行けばすぐに王都へ到着するだろう。
「ファブリスちょっと止まって? そこの木の下で」
『分かった』
ファブリスが止まってくれたところで後ろを振り返る。
「皆さん、そろそろ王都に着くところまで来たので、私が転移でアレクシス様に知らせてきます。少しここでお待ちいただいても良いでしょうか?」
「もちろんだよ。報告よろしくね」
「はい。皆さんは軽食でも食べて待たれますか? お茶やスイーツを準備できますが」
「いや、大丈夫だよ。アイテムボックスに飲み水は入ってるし、それでも飲んで待ってるよ」
「かしこまりました。では行って参ります。ファブリスもここで待っててね」
『了解した』
そうして皆に一声かけて、俺は王宮にあるアレクシス様の執務室に転移をした。執務室ならいつでも転移して良いと言われているのだ。
「うわぁっ!!」
転移をすると文官の方達の大声に迎えられる。やっぱり俺が転移で現れる可能性があると言われてても、どうしても驚いちゃうよね……
どこか転移専用の部屋でも準備してもらった方が良いのかな? でもそうすると俺の危険度も増すから悩みどころだ。
「レオン、何か問題でもあったのか!?」
「レオン君、怪我はないか!?」
アレクシス様とリシャール様が手にしていた書類を投げ出して駆け寄ってきてくれた。かなり心配してくれていたみたいだ。
「いえ、怪我もないですし問題も起きてないので大丈夫です」
「ではどうしてこんなに早く帰って来れたんだ? それにレオン達が帰還したとの早馬も来てないが……」
俺達はファブリスに乗って来ちゃったからね。どんなに急いでも馬ではファブリスに勝てないだろう。
「陛下、まずは座ってから話をしましょう」
リシャール様がそう提案をして、アレクシス様も頷いた。
「確かにそうだな。ではレオン、そこのソファーに座ってくれ。他の者は一度外に出ていてくれるか?」
「かしこまりました」
そうして人払いも済ませ、すぐに執務室の中には俺とアレクシス様、リシャール様の三人だけになった。
「先程は取り乱して済まない。まずはレオン、無事の帰還を嬉しく思う。本当に良かった……」
「無事に帰還できました。さらに時空の歪みを塞ぐことにも成功いたしましたことを、ここに報告いたします」
「それは本当か!?」
「はい。トリスタン様、ジェラルド様、フレデリック様もご無事です。今は王都から少し離れた農業地帯に待機していただいています」
俺のその言葉に二人は心から安堵したような表情を浮かべた。俺はその二人の表情を見て、本当に皆で無事で帰って来れたのだと実感する。
「本当に良かった。レオン、改めてこの国を救ってくれてありがとう」
「私だけの力ではありませんよ。それにこれからが本番です。魔物の森の進行は止まるわけではありませんので」
「確かにそうだな。またこれからも力を貸してほしい」
「もちろんです」
三人で顔を見合わせて力強く頷き合った。やっぱりこのお二人も凄く心強いな。これからもまだ大変だけど、トップがこの二人なら何とかなるだろう。
「では私がなぜここに一人で来たのかについての話に移っても良いでしょうか?」
「勿論だ」
「ありがとうございます。……実は魔物の森の中で神獣と出会いまして、あっ、神獣とはミシュリーヌ様が遣わした存在のことです。その神獣は名をファブリスというのですが、ファブリスが私の手助けをしてくれることになりました。そのため現在も一緒に王都まで来ていて、突然ファブリスが王都に姿を現したら騒ぎになると思い私が先に参りました。王都に早く着いたのはファブリスの背中に乗ってきたからです」
俺のその説明の途中から、二人は驚愕の表情を浮かべて固まっている。
「その……神獣様とは、レオンと同じような存在ということだろうか?」
「うーん、多分少し違うんですけど、同じような認識で大丈夫だと思います。ミシュリーヌ様に遣わされたことは確かです。凄く強くて人の言葉を話せます。姿形は狼をかなり大きくした感じで色は真っ白です。それから人が四人乗れるほどの大きさですね」
こうして客観的にファブリスの姿形を説明すると、やっぱり神々しさを感じるよね。……ミシュリーヌ様より信仰されそう。でもファブリスはミシュリーヌ様が遣わした存在で、そのファブリスが信仰されるってことはミシュリーヌ様が信仰されることと同義なのかな?
「真っ白で狼を大きくしたようなお姿だな」
「そうです。ミシュリーヌ様から私の手助けをするようにと言われていたので、これからは基本的に私の側にいることになると思います」
「分かった。では王都の皆に神獣様の存在を知らせなければいけないな」
アレクシス様はそこまで話を聞くと、難しい顔をして考え込んでしまった。この国で平民にまで情報を伝えるのって意外と大変なんだよね。
「陛下、神獣様に乗って凱旋パレードをしてもらうのはいかがでしょうか? 最短距離で騎士と兵士を動員して道を固め、その中を歩いていただけば存在を広めるには最適かと思います。ただ最短でも準備に一日は欲しいですが……」
「そうだな。レオン、明日まで王都の外で待っていてもらうことはできるだろうか?」
「問題ありません」
「ありがとう。では明日の昼に凱旋パレードをするという予定でいこう。それまでに少しでも神獣様のことを広めて騎士や兵士を動員しておく。パレードでは神獣様の存在を皆に知らしめるようにしてもらいたい」
ファブリスのことを知らせるのなら、やっぱりファブリス本人に話してもらうのが一番かな。
「かしこまりました。ではそちらの準備もしておきます」
「よろしく頼む。……それでパレードが終わり王宮に着いてからなのだが、神獣様に挨拶をすることはできるだろうか?」
「もちろんです。お二人だけでなく、他の方々にもファブリスを紹介したいと思っています」
マルティーヌには早めに紹介したいし、マリーにも早く合わせてあげたい。マリーはファブリスの背中に乗せてあげたら絶対に喜ぶと思うんだよね。ロニーやリュシアン、ステファンも驚くだろうな。
「ありがとう。では神獣様にお会いする準備も早急に整えておこう」
「お会いする準備って……別に特別な準備は要りませんよ? 今日のように普通にしていただければ……」
「いや、神獣様にお会いするのだから、せめて服装は正装を着なければ」
アレクシス様は真剣な表情でそう言った。ファブリスは人間の礼儀なんて分からないって言ってたから、いつも通りで全く問題ないと思うんだけど……
でも準備することでアレクシス様達が満足するのなら良いか。
「では明日、よろしくお願いいたします。私はトリスタン様達の元へ戻りますので」
「分かった。ではまた明日会おう」
そうして今後についての話し合いをして、俺は転移で皆のところに戻った。
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