第323話 この国の現状

「トリスタン様、孤児院は教会には必ず併設されているのですか?」

「いや、必ずではないよ。王都や大きな街では併設されているところが多いけど、ないところもあるかな。それに教会は一応どこにあるものも王家管理なんだけど、やっぱり領主の意向が優先されるからね」


 やっぱりそうなんだ。どこの世界でも国を健全に運営するのって至難の業だよね。


「では孤児院がないところで孤児になったものはどうなるのですか?」

「それは……遠くの孤児院を目指すか、どこか住み込みで働ける場所を探すかになる。でもそう簡単にいかないだろうね……」

「スラムのような場所はあるのでしょうか?」

「一応ないことになっているけれど、あるところにはあるよ。王都にもそう呼んでも違和感がない場所はあるね」


 じゃあ孤児となって孤児院に辿り着けなかった子供は、その辺で野垂れ死ぬか誰かに捕まって売られるかスラムに辿り着くか、そんな将来しかないってこと? この国ヤバいよ……この文化レベルだと仕方がないのかもしれないけど。

 それに孤児院に辿り着いたとしても、ロジェがいたような孤児院じゃ結局ダメだし。最悪孤児院の大人に売られる可能性もあるよね。


 問題点が多すぎてどこから手をつけて良いのか難しい。まずは……孤児院の運営を健全にして、それを増やしていくところからかな。あとは貧しい村を無くすことと……こんなことやりたくないけど、育てられない子供を国が買い取るっていうのもありなのかな?

 いや、買い取ったら人身売買を容認したことになっちゃうからダメか。……国が雇って教育する、給料は成人するまでは実家に支払われる。そんな制度にしたらどうだろう?


 こっちの方がありかもしれない。でも給料が良いと子供を預ける親が増えすぎるよね。そこは最低限にして、でも商人に売るよりは利益がないとダメだ。それに本当に子供を育てられない環境なのか、監査をすることも必要かな。


 色々と無理があるけど、今すぐに子供を救うことを考えたらありな気がする。それに子供の頃から教育できれば、将来国のために働いてくれるだろう。田舎に戻ったとしても教育は無駄にはならない。


 あっ、平民のための学校って形にすれば良いのかな? 簡単な学力検査を受けてもらって、受かった人は一定額が実家に給付されるとか。それなら子供に少しは教育を施そうって気持ちにもなるんじゃないだろうか。

 でもそれにはまず教育を受けられる環境を整備しないとダメか。じゃあまずは教会に平民のための教室を開くところからかな?



 ――ああ! もう問題が多すぎる!


 何かをやろうとしてもあちこちに問題があってうまくいかない。やっぱりとにかく最初は教会の運営を健全化することからかもしれない。国立の機関が国に散らばってるって、健全に運用できれば凄く有用なはずなんだ。

 そしてそこで教育を受けられるようにして、孤児院併設も義務とするのが良いかも。そして王都とそれぞれの領都に平民のための学校を作って、そこに受かったらちょっとだけお金がもらえるとか。そんな制度もありかな。


 トリスタン様と話をしつつ、今後この国をどう良くしていくのかについて思考を巡らせていると、いつの間にかお昼を過ぎていたようなのでファブリスに止まってもらった。


「ファブリスありがとう。皆さんお昼ご飯にしましょう」

「確かにもうそんな時間か」

「では降ろしますね」

「ふぅ、やっぱり地に足がつくのは良いね」


 トリスタン様は地面に降り立つと大きく伸びをしながらそう言った。


「分かります。神獣様のお背中も乗り心地抜群ですが、やはり自分の足で立つのは良いですよね。馬に乗って降りた時もそう思います」

「やっぱりどこか安心するよね」

「そうですね」

「皆さん、今日はバリアなしで良いでしょうか?」


 もうここはほとんど危険はないし、バリアがないと自然な風が感じられて気持ち良いのだ。


「なくても構わないよ」

「ここならばほとんど危険はないから良いだろう」

「やっとバリアなしで開放的な中、食事ができるな」

「ではバリアなしで食事の準備だけいたしますね」


 今日のお昼は何にしようか……魔物の森から無事生還できた記念にバーベキューにしようかな。前に皆でやったから道具は全部揃ってるし、実は材料もまだまだ残ってるんだ。アイテムボックスはいつまでも保存できるからと思って準備しすぎた。


「皆さん、今日は無事に魔物の森から生還できたお祝いでバーベキューをしませんか?」

「バーベキューとは何かな?」

「外で火をおこして、自分で肉や野菜を焼いて食べることです。焼くのも楽しいし焼き立てを食べるのも美味しいですよ」

「それはやったことがないね……じゃあやってみようか」

「本当ですか! では準備しますね」


 自分で焼いて食べるなんて断られるかなと思ったけど、頷いてくれて良かった。俺って結構バーベキュー好きなんだよね。肉と向き合って自分にとって最適なところまで焼いて、さらに焼きたてをそのまま食べられるのがとても良い。炭の匂いも最高だし。


 この前準備した肉とガーリックバターソース、それからパンや野菜も取り出して……後はファイヤーリザードの肉も切り分けよう。ファブリス用にはステーキに、俺達には小さめにカットする。

 あとは石を積み上げて炭に火をつけてその上に網を載せ、その周りに土魔法で椅子を作る。便利なように低い机も作り出しておくか。よしっ、完璧だな。


「では皆さん、本日はこちらに腰掛けていただけますか? いつも使っている椅子だと高すぎるので魔法で作ってみました。クッションなどが欲しければ仰ってください」

「レオンはやっぱり……規格外だね」

「……本当ですね」

「魔法をこのように使うなど、初めて見ました」


 三人に呆れた目で見られている。今までの方がもっと凄い魔法を使ってたのに何故だ……


「あまり気にしないでください。では食べましょう!」

「そうだね。ではありがたく楽しませてもらうことにするよ」

「そうしてください。どれでも好きなものを焼いてくださいね」


 俺のその言葉に三人は思い思いの食材を手にした。トリスタン様とフレデリック様は牛肉からいくらしい。ジェラルド様は意外にも野菜からみたいだ。

 俺はそんな三人を横目に、まずはファブリスのステーキを焼き始めた。そしてその横で自分が食べる用の鶏肉を焼いていく。やっぱりバーベキューって楽しい。


「これはどのぐらいまで焼いたら良いのかな?」

「さあ……私もよく分からないです」

「いつも食べているものよりも赤いですから、もう少し焼いた方が良いのでは?」

「あれ? こっちは黒くなってきたよ。いつも食べているものとまた違うね」

「確か黒くなっては焼き過ぎなのでは?」

「そうだったかな? ではこれはもう食べられるね」


 隣からそんな不穏な会話が聞こえてきて思わず三人の網を覗くと、そこには焼き過ぎて焦げた牛肉が煙を出していた。


「ちょ、ちょっと待ってください! それ食べないで!」


 俺はその黒い塊を食べようとしていたトリスタン様を必死で止めた。それは流石に焼き過ぎてるよ。

 貴族や王族は料理を全くしないから、焼き加減とか分からないんだね…盲点だった。


「黒くなっているから、もう火は通っているのではないのかな?」

「いえ、それは火が通り過ぎていて美味しくないと思います。もう少し早めに食べて大丈夫です。その隣で焼いているお肉を裏返してみてください」

「これだね……おおっ、いつも食べている色だよ」

「その色で両面焼けば大丈夫です。牛肉は少しぐらい赤い部分が残っていても食べられます。豚肉や鶏肉は赤い部分が完全になくなるまで焼いてください。しかし黒くなってきたらそれは焼き過ぎです」


 俺のその言葉を聞いて、三人は真剣に網の上の食材を見つめ始めた。バーベキューの楽しさを少しは分かってくれるかな?


「ジェラルド様、野菜は生で食べても大丈夫なものが多いですし、黒く焦げないうちに早めに食べられます」

「そうなのか。ではこれはもういけるか?」

「はい。大丈夫だと思います。もし食べてみて少し硬かったりしたら、その時はもう少し網に戻して焼いてください」

「分かった」


 それから三人は完全に肉を焼くことにハマったみたいで、自分で食べきれない量の肉を焼いて残った分は全部ファブリスの食事となった。ファブリスもお腹いっぱいで満足そうなので、結果的には良かっただろう。

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