第322話 王都へ

 次の日の朝。すっきりとした気分で目が覚めて、見張りの必要ない朝食を四人で一緒に食べ、応接室のようなところに集まって今後の話し合いをすることになった。


「やっぱり魔物の森では疲れが溜まっていたんだね。昨日はベッドに入った途端に寝てしまったよ」

「私もです。バリアがあってベッドを持ち込んでいたとはいえ、やはり完全に気は抜けなかったですからね」

「バリアとアイテムボックスがなかったらと思うと、想像するだけで恐ろしいよ」


 その二つがなかったらもう地獄だったよね。絶対序盤で引き返してたと思う。


「本当にそうですね。その二つがなければ奥まで行くことはできなかったと思います。それに皆さんがいなくても無理でした。ついて来てくださって、本当にありがとうございました」

「こちらこそ、この国を救ってくれてありがとう。感謝しなければならないのはこちらだよ」

「レオンそうだぞ。本当に感謝する」

「ありがとう。そしてこの後もよろしく頼む」


 三人は晴れやかな表情でそう口にした。俺もその様子に自然と笑顔になる。


「はい。この後もお互い頑張りましょう」

「そうだね。それで王都までの帰還はどうする? 馬車でも行けるけれど、その場合は時間がかかってしまう。神獣様に乗せていただければかなり早く帰れるけど」

「ファブリスに聞いてみたところ、私達を乗せるのは問題ないそうです。後は街道をファブリスが走り抜けても良いのかどうかですが……」

「それは問題ないよ。というよりも、問題ないことにしよう。歩いている人や馬車にさえ気をつけてくれれば大丈夫」


 問題ないことにするのか……王弟と使徒がいれば少しの無理は通るんだろうな。ここは甘えちゃっても良いか。ファブリスのスピードに慣れたら、馬車でゆっくりと帰るのはちょっと面倒くさい。


「ではファブリスに乗って帰ることにしましょう。そして私が転移で往復できるほどの距離にまで王都に近づいたら、一度ファブリスのことを知らせに行きます。そしてアレクシス様の指示を仰ぎ、また戻りますね」

「確かにそれが一番だね。流石に何も知らせずに神獣様が王都に入ったら、かなりのパニックになるだろうし」


 何も知らせなかったら巨大な魔物が襲ってきた! って騎士団が出動する事態になるよね。一度怖いイメージがついちゃうとファブリスが王都で暮らしにくくなるだろうし、最初は重要だ。


「ではその予定で行きましょう。出発はいつになさいますか?」

「私は今日でも大丈夫だよ」

「俺も大丈夫だ。早い方が良いだろう」

「俺も大丈夫だぞ」


 今はお昼まで後一時間ほどの時間だから……お昼を食べて少し休んだら出発にしようかな。そして王都までは街に寄らずに野営で良いだろう。


「では本日の十三時に出発でよろしいでしょうか? 夜は魔物の森の時のように野営しましょう。街に寄るのも大変ですし……」

「そうだね。魔物の森の外で野営なんて、全く問題はないよ」

「確かにあの中にずっといたら、逆に天国ですよね」


 苦笑しつつそんな会話をして、今後の予定が決まった。そして予定通りにお昼を食べて出発だ。


「じゃあファブリス、王都までよろしくね。途中で馬車や歩いてる人間がいるかもしれないけど、絶対に怪我をさせないように気をつけて」

『分かっている。街道を少し外れたところを走る予定なので問題はないぞ』

「そうなの?」

『ああ、我は整った道よりも自然の道のほうが好きだからな』

「そんなものなんだ。じゃあファブリスが走りやすいところで良いよ。背中に乗るね」


 そうしてファブリスに乗り、騎士の皆さんに挨拶をして街を出る。


「では魔物の森の押さえ込み、これからも頼んだぞ」

「はっ、お任せください!」

「今回の任務も成功したのでもう少しの辛抱だろう。辛いとは思うが耐えてほしい」

「かしこまりました。我らの剣は国のために」


 トリスタン様と騎士の代表の方がそう話をして、俺達は街を出た。そしてまたひたすらファブリスの背中で景色を眺める。ここ数日はずっとこうして揺られてるよね……そのおかげで背中に乗りながら会話ができるほどに慣れた。


「トリスタン様、この前いくつもの貴族家がお取り潰しになりましたが、その領地はどうなっているのでしょうか?」


 俺はファブリスに乗りながら国の様子を眺めて、気になったことを口にした。


「領地は再編成をしているところだよ。でもどの貴族も少しでも多く、少しでも良い領地を欲しがるからね。話し合いはあまり進んでないみたいだ」

「やはりそうなのですね……」


 かなりヤバい敵対貴族はいなくなって、表面上は国が一つにまとまったように見えても、やっぱり自分の利益を重視したいのが人間だよね……揉めずにスムーズに行く方がおかしいか。


「でも今の貴族は王家に反発しようとする家もないし、そこまでひどく揉めているわけでもないみたいだよ。どちらかと言うと下位貴族が争ってるみたいだね」


 確かに下位貴族は領地も狭いのだろうし、少しでも多くもらってあわよくば陞爵をって感じなのかな。


「では近いうちに決まるのでしょうか?」

「そうなるね。ただ決まった後の方が大変だよ。この前取り潰しになった領地は他と比べてかなり疲弊しているみたいで、まずは復興から手をつけないとだと思う。それをどれだけの貴族がやってくれるのか……」

「疲弊しているとは、税が高かったのでしょうか?」

「そうみたいだね、ギリギリまで搾り取っていたみたいだよ。この国の制度だと税は領主が決められるから。でも普通はそんなことをすればいずれダメになるとわかるものだけど、そんなことも分からない貴族が多くて……貴族を一新したいぐらいだよ」


 トリスタン様は、最後に微かに俺に聞こえる程度の声量でそう呟いた。確かにそれが出来たら良いのだろう。でもそんなことしたら国が回らなくなるから、どこかで妥協は必要だよね……


「現状できる範囲で少しでも良くしていかないとですね」

「そうだね。まずは餓死者がでないようにしなければ……それからこの国では基本的に奴隷や人身売買は禁止されてるけど、それも横行してるからね」

「確か犯罪奴隷だけは認められているのですよね? 重犯罪を犯した人は鉱山などに送られるとか……」

「そうだよ。本当はそれだけのはずなんだけど、貧しい田舎では普通に人身売買が行われていたりするんだ。口減らしのために子供を商人に売って、商人はその子供を貴族や裏社会に売る。その流れは分かってるんだけど、あれは取り締まるのが難しくてね。奉公に出すだけ、職場を斡旋しただけ、そう言われるとそれ以上追求できないことが多くて……」


 確かに改めて考えてみると難しいのかも。というか自分の子供を売ってしまうほど貧しいってことがまず問題だよね。田舎の村でも、裕福とはいかなくても衣食住に困らないようになってほしい。


「かなりの問題ですね。そうして売られた子供はどんな仕事をさせられるんでしょうか?」

「そうだね……運が良ければ普通に貴族家や商家の下働きになれるよ。でも運が悪いと悪どい商売の矢面に立たされたり、言いづらいんだけど、愛人のような感じになったり……」


 ……最悪だな。確かロジェも孤児院から逃げ出してる途中で、捕まって売られそうになったんだったよね。

 はぁ、問題がそこかしこにありすぎる。孤児院の問題も解決しないと。

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