第314話 移動手段

「俺達の敵で一番強いのが魔人ってやつなんだけど、それには勝てる? 魔物が進化して人型に近い形になった種族なんだ。俺よりも強いと思うんだけど……」

『そのような存在がいるのか。……ふむ、主人よりも強いとなると少し厳しいかもしれない。主人と我は戦えば互角だろう』

「え、そうなの? そんなの分かるんだ」

『身のこなしや魔力量で相手の強さは分かるものだ。我は相手の魔力量を感じ取れるからな』


 ファブリス本当に凄いな……それにしても俺と互角か。それなら二人で力を合わせれば勝てる可能性はあるよね。


「それなら魔人にも、力を合わせれば勝てるかもしれない」

『主人と共闘か。それは良い』

「じゃあその辺の魔物で連携の練習をしようか。俺は基本的に身体強化を使って剣で戦うんだ。あとはバリアっていう攻撃を防ぐ魔法をよく使うかな。その他にも全部の属性魔法が使えるからそれも適宜使うよ」

『主人は剣が基本でそれを魔法で補助するという形だな。我は爪での攻撃が基本で、それを風魔法で補助するのだ。戦い方が似ているので連携しやすいだろう』

「確かに」


 俺はそこまでファブリスと話したところで、また三人の方に顔を向ける。


「ではこれからファブリスの強さと連携の確認をして、それからまた奥に向かって進むので良いでしょうか?」

「私達は構わないよ」

「ありがとうございます。じゃあファブリス、奥に進みながら魔物を探そうか」

『いや、我のオーラにほとんどの魔物は近づいてこない。だから我らから探して近づかねばならないぞ』

「え、そうなの?」

『ああ、特に弱い魔物はそうだ。今この周りには弱い魔物しかいないようだし、寄ってはこないだろう』


 それって魔物の森を進むという点では最高の存在だな。やっぱり最初からファブリスがいてくれたら何倍も楽だったのに……今更考えても仕方ないけど。


『あちらの方角にいくつか強そうな反応がある。そちらに向かえば魔物と戦えるぞ』

「魔物の位置まで分かるんだ……」

『魔力量を感知できる能力の応用だ。それであちらに向かうか?』

「うん。そうしよっか。じゃあ俺達が隊列を組んで進むから、その後ろからついて来てくれる?」

『分かった』

「では向かいましょう。またいつも通りの隊列で、油断せずに行きましょう」

「分かった」

「おう!」


 そうして俺達は新たな仲間を加えて、魔物の森の奥に向かっていった。


 しかし歩き出して十分ほどで、ファブリスが俺達の足を止める。どうしたんだろうか。


『主人、このようにゆっくりな速度では日が暮れても辿り着けんぞ』

「でも……これでも俺達の最速なんだ。魔植物があるから走れないし、魔物への警戒もしないとだし……」

『魔物は我が居れば近づいてこないぞ。それに魔植物も魔力を読めば安全なルートが分かるだろう?』

「いや、俺達は魔力を読めないから」

『そうだったか……』


 ファブリスはそう言ったっきり考え込んでしまう。それから少しして顔を上げた。


『分かった。では我が主人達を乗せていこう。そこの三人も我の背中に乗ることを許可しよう』

「え……背中に乗っても良いの!?」


 まさか触っても良いとは思わなかった。神獣だからか、野生のくせに白くて綺麗な毛並みだと思ってたんだ。


『主人はいつでも構わん。他の人間も主人が信用している者ならば問題ない』

「ファブリスありがとう! じゃあお願いしても良いかな? あっ、皆さんもファブリスに乗っていくので良いですか?」

「だが、神獣様のお背中に乗るなど……」

「そこは気にしなくても大丈夫です。本人が良いと言っているので」


 三人は神獣の背中に乗るということが恐れ多いみたいでしばらく迷っていたけれど、結局は頷いてくれた。


「……では神獣様、失礼致します」

『うむ、背中に乗ることを許そう』

「ありがたき幸せ」


 ファブリスは立ってると俺の身長の二倍はあるし、しゃがんでくれたとしてもよじ登るのは難しそうだな……

 ここは転移で登った方が楽だろう。


「ファブリス、転移っていう別の場所に一瞬で移動できる魔法があって、それでファブリスの背中に乗るね。突然重みが増えるだろうけど驚かないでね」

『分かった』

「では皆さん、ファブリスの背中の少し上に転移するので、そのままファブリスに乗ってください。順番は隊列の順にしますね。では行きます」


 うわぁ〜、なにこの毛並み!! 凄くサラサラでふわふわでもふもふしてる。極上の毛並みだ。ここで寝たいレベル。


「ファブリス! 凄く良い毛並みだね。なんでこのふわふわを維持できるの?」

『神獣とは姿形は変わらぬものなのだ』

「そーなんだ。じゃあずっとこの毛並みってことだよね。うわぁ……永遠に撫でてられる」

『主人ならばいつでも乗せるぞ。それにいつでも撫でてくれて構わん』


 ファブリスはさっきよりもワントーン高くなった声音でそう言った。褒められて相当嬉しいみたいだ。


「ありがとう」

『では早速走るぞ』

「ちょっと待って!」

『なんだ?』

「どのぐらいのスピードなのか分からないけど、このままだと振り落とされちゃうよ。背中の毛は掴んでも大丈夫?」

『問題ない』

「ありがとう。それから万が一にも落ちないように、バリアで背中を囲っても良い?」

『それも構わないぞ。では我も風魔法で主人らには風が当たらないようにしよう』

「ありがとう」


 俺はそこまで聞いて後ろを振り返る。すると後ろには堂々とした様子でファブリスにまたがる三人がいた。三人は馬に乗れるから慣れてるんだね。

 この国では乗馬が必須ではなく、騎士や兵士で必要な人だけ練習する感じだ。だから俺は馬に乗れない。でも三人の様子を見ていると、今度練習しても良いかもしれないな。リュシアンやステファンも少しは乗れるって言ってたし。


「皆さん先程の会話は聞こえていましたか?」

「背中の毛を掴んで良くて、レオンがバリアを張ってくれるんだよね? しっかりと聞こえていたよ」

「俺も聞こえていたから大丈夫だ」


 最後尾のフレデリック様まで聞こえていたみたいだ。

 じゃあバリアを四人全員を囲うように張って……準備完了だ。


「ファブリス、準備完了だよ。魔物の場所までよろしくね」

『承知した。では行くぞ』

「っ!!」


 やっ、やばい……予想以上に速すぎる。口を開いたら舌を噛みそうだから歯を食いしばってないとだし、毛を掴む手にかなり力を込めないと、すぐに投げ出されてバリアの中であっちへこっちへ激突しそうだ……


 こんなに速いなんて聞いてないよ。逆に魔物の森の中をなんでこんなに早く走れるの!? さっきから右へ左へ少しずつ進路を変えながら全くスピードを落とすことなく走っていく。そしてたまに爪で攻撃しているのだろう、進行方向で木が倒れることがある。

 俺達が今までコツコツと進んできたのは何だったんだ。ファブリスに頼めば数日で魔物の森の最奥まで辿り着けそう……

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