第313話 神獣の今後
「あの、ミシュリーヌ様はファブリスが起きたことには気づかなかったのですか?」
『何千年も何万年も眠ってるようなやつよ? ずっと見てられるわけないでしょ。もうほとんど記憶から消えてたわよ』
まあ確かにそうか……何万年も眠ってる間に数日起きていたとして、ちょうどピンポイントでファブリスの様子を見てたら奇跡だな。
『それにファブリスは私からの通信がうるさいからって遮断したのよ! だからこっちから連絡を取る術はなかったの』
『遮断なんて、そんなことができるのですか?』
『ファブリスは私の眷属だからできるわ。眷属は使徒とはまた違って……そうね、私の子供みたいなものだから』
眷属なんて存在もいるのか……改めて俺って凄いことに関わってるなぁ。
まあとにかく、ファブリスが眠りを妨げるミシュリーヌ様からの通信を遮断したから、連絡を取る術もなくずっと放置してて存在を忘れかけてたってことか。
『ではミシュリーヌ様、話していたらついに目覚めましたので何かご命令を』
『だ〜か〜ら〜、今更遅いのよ!!』
うわぁっ、ミシュリーヌ様の雷が落ちた。……ファブリスって凄いな、ミシュリーヌ様がツッコミ役になれるって凄いことだよ。さすがミシュリーヌ様が作った眷属だ。
『ファブリス、もうあなた神界に戻ってきなさい』
『戻ってもよろしいのですか?』
『だって下界にいても役に立たないじゃない。また通信を遮断して眠られたら連絡もできないし、とにかく帰ってきなさい』
『かしこまりました。ミシュリーヌ様のお側にいられるのはとても嬉しいことでございます』
『はぁ、そういう素直なところは可愛いのに……一度眠ったら起きないところが難点なのよね』
ファブリスは神界に戻るのか。じゃあこれからはあの神界にファブリスもいることになるんだね。
……って、ちょっと待って!? せっかく起きたのにこのまま神界に行っちゃうなんて勿体なさすぎる!
「ミシュリーヌ様待ってください! ファブリスがせっかく目を覚ましたのだから、俺達の手伝いをしてもらえないでしょうか? この世界が平和になるまでいてもらえませんか?」
ここまでの話を聞いていた限り、ファブリスはかなり強いみたいだし今この世界に必要な存在だと思う。一度寝たら起きないのは難点だけど、さすがに何万年も寝たのなら何十年かは普通に起きててくれるんじゃないのかな?
『確かにそれはありね……ファブリス、やっぱり訂正よ。レオンがこの世界にいる間は神獣としてレオンを助けなさい。レオンを主人と敬うのよ』
『かしこまりました。ではレオン、これから頼むぞ』
「そんな簡単に決めて良いの?」
まさかこんなスムーズに認められるとは思わなかった。
『ああ、レオンがこの世界にいる間ということは長くて数百年だろう? その程度の時間は誤差だ』
「いや、俺は人間だから長生きしても後百年もないよ?」
『そこまで短いのか……! 人間とは大変だな』
俺達にとってはこれが普通だから良いんだけどね……逆に何万年も生きられるってなったらやることなさすぎて暇でしょうがないでしょ。だからこそずっと眠ることになるのかな。
「まあ、俺達はこれが普通だから」
『そうか。では短い間だがよろしく頼む』
「うん。よろしくね」
『じゃあファブリス、今までサボってたんだからちゃんと働くのよ。そして早く問題を解決しちゃって。平和な世になったらレオンにはやってほしいことがたくさんあるんだから! うふふ、これは思わぬ幸運ね』
早く魔物の森の問題を解決して、日本の食べ物を作って欲しいんですね……
まあ俺としても早めに問題は解決したいから、利害は一致している。とにかく頑張ろう。でもなんか、ファブリスがいればもう解決したも同然な気がするのは気のせいかな。
『じゃあレオン、私はちゃんと魔人を監視してるからよろしくね〜』
「はい。また連絡しますね」
『ミシュリーヌ様、これからはいつでも連絡を』
『はいはい、分かったわよ。じゃあね』
そうしてミシュリーヌ様との通信は途切れた。それと同時に辺りには静寂が訪れる。三人を完全に置き去りにしちゃったし、説明しないとだな……
「えっと、皆さんファブリスの声は聞こえていましたか? あっ、ファブリスとはここにいる白い獣? のことです」
その問いかけに答えてくれたのはトリスタン様だ。
「最初の声は聞こえていたんだけど、それから先はいつものようにレオンの声しか聞こえなかったよ」
「そうなのですね。……ファブリスは誰とでも意思疎通をできるの?」
『勿論だ。ほら聞こえるであろう?』
「おおっ、聞こえたぞ」
「聞こえてるね」
「俺もだ」
ファブリスの声が他の人にも聞こえるのなら楽だ。本人にも話してもらいつつ説明しよう。
「聞こえるのであれば良かったです。じゃあファブリスから自己紹介する?」
『そうしよう。そこの人間達、我はミシュリーヌ様の眷属であり神獣のファブリスだ。これからはレオンに仕えるのでよろしく頼む』
ファブリスのその挨拶を聞いて、三人は慌ててその場に跪き深く頭を下げた。そして代表してトリスタン様が口を開く。
「神獣様にお会いできまして光栄でございます。私はラースラシア王国現国王の弟、トリスタン・ラースラシアでございます」
そっか、神獣に対してはミシュリーヌ様と同等に敬わないといけないのか。……面倒くさいから公の場だけじゃダメかな。
「ファブリス、俺は使徒だけど公の場以外では仲の良い人とは気安く話してるんだ。だからファブリスに対しても同じで良い?」
『我は人間の態度などなんでも構わん。国が変われば人間の行動も変わるからな』
確かにそっか。何千年も人間を守って来たのなら国もかなり変わっただろうし、それぞれの国で礼儀作法も違っただろう。神獣に人間目線での礼儀作法は意味ないんだな。そう考えるとミシュリーヌ様に対してもあんまり意味ないのかもしれない。
「確かにそうだよね。トリスタン様、ジェラルド様、フレデリック様、そういうことなのでそこまで礼儀を気にする必要はないです」
俺のその言葉に三人は恐る恐る顔を上げた。そしてファブリスのことを見て、その後に俺に視線を向けて口を開く。
「良いのだろうか……?」
「はい。問題ありません」
「……分かった。では普通に接することにする」
「よろしくお願いします。では話を戻しますが、神獣であるファブリスが私のことを助けてくれることになりました。時空の歪みを塞ぐことも魔物の森を駆逐していくことも、どちらも助けてくれる……よね?」
そういえばファブリスに直接確認していなかったと思って問いかけると、ファブリスは鷹揚に頷いてくれる。
『もちろん主人に仕えるのだから、主人に言われたことには従うぞ』
「ありがとう。ということです」
今度は三人に向けてそう言うと、三人は驚きの表情を浮かべた後にほっと安心したように息を吐いた。
「それは……とても心強いです。感謝いたします」
やっぱりこの三人も普段通りを装いつつ、ずっと命の危機を感じて緊張していたのだろう。魔物の森は人間には厳しい環境だから当然だよね。
『我は強いから安心すると良い。魔物など簡単に蹴散らしてくれる』
ファブリスのその言葉は俺達全員に安心感を与えた。ファブリスってなんだか信じられる雰囲気があるんだよね。……ミシュリーヌ様よりも神様っぽいかも。
「ファブリスってどのぐらい強いの? 例えばどんな魔物を倒せるとか、どういう攻撃ができるとか」
『我は身体強化魔法を使って爪を強化し、敵に斬撃を与えるのだ。それから風魔法で全ての攻撃を跳ね除け敵を縛り付ける。今まで我が倒せなかった魔物はいないな。ただ何体か苦戦する奴らはいたが』
「身体強化と風魔法なんだ。魔力量は多いの?」
『我の魔力は尽きることはない。神獣の体は空気中の魔素を吸収できるからな。それから魔素を吸収することで、即死の怪我でなければ自然に回復していく』
そんなことができるのか。ここに来て俺よりもチートな存在来たよ。俺の存在が霞みそう……
「ファブリス凄いね」
『ふん、そうであろう?』
褒められてかなり嬉しそうだ。動物の顔なのにドヤ顔してるのが分かる。表情が分かるのは神獣だからなのかな。
……ちょっと可愛く見えてくるかも。
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