第309話 パレードと最終確認

 にこやかに観衆に手を振って不思議そうな顔をされること五分ほど、心が折れそうになってきたところで広場に入った。広場にはさっきまでの比でないほど人が集まっているみたいだ。

 広場の周りには石造りの頑丈なお店がいくつもあるので、転移するにはもってこいだ。高さもあるから皆から見えるだろう。


「じゃあ俺は転移してきますね。うーん、あのお店の屋根に」

「分かったよ。気をつけてね」

「はい。じゃあ行ってきます」


 俺は馬車の中で立ち上がり目立つように両手を振って視線を集めた後、屋根に転移をした。

 おおっ……結構高い。でも風が気持ちいいな。下を見てみると、数えきれないほどの人が広場に集まっている。しかもほぼ全員が俺に気づいているようだ。

 馬車を見てみると、トリスタン様達がこっちを示してくれているらしい。


「皆の者、本日は集まってくれてありがとう。私が使徒であるレオン・ジャパーニスだ」


 声を張ってさらに風魔法で遠くまで広がるようにしてそう宣言すると、突然の事態に静まり返っていた広場が途端に喧騒に包まれる。


「使徒様ってあの子だったの!?」

「まさかあんな子供が……」

「でも一瞬であそこまで移動したぞ。使徒様の魔法だ!」


 そんな声が微かに聞こえてくる。うんうん、皆驚いてるみたいだ。俺はさっきまで無視され続けてきたので、ちょっとだけ良い気分になった。別に力をひけらかしたいわけじゃないけど、俺が使徒だとカケラも思われないのはちょっと寂しいのだ。


 本当は転移だけの予定だったけど、ちょっとテンションが上がった俺は他の魔法も使うことにした。ファイヤーボールとウォーターボールを同時に作り出して、それを俺の周りでぐるぐると回す。そしてその二つをぶつけたり、広場の上を縦横無尽に飛び回らせる。


 観衆はその魔法に完全に見入っているようだ。子供達は綺麗だとはしゃいでくれている。うん、満足だ。

 最後にウォーターボールを上空で霧のように霧散させて、転移で馬車に戻った。


「レオン、派手にやったな」


 馬車に戻ると苦笑いの三人に出迎えられる。確かにちょっとやりすぎたかも……子供っぽいことしたよね。


「楽しくなっちゃって」

「まあ良いんじゃないか。凄く好評みたいだぞ」

「皆がレオンを見てるよ」


 馬車の外を見てみると、さっきまではほとんど俺に向いてなかった視線が全て俺に向いている。しかもキラキラとした尊敬の眼差しがほとんどだ。


「なんかここまで注目されると今度は恥ずかしいですね……」

「これからは注目され続けるんだから、慣れといた方が良いぞ」

「確かにそうですね」


 それからは広場に入るたびに同じようなことを繰り返して、かなりの時間をかけてパレードは終わった。緊張したけど結構楽しかったな。

 そして王都から出て少し進んだところで馬車を乗り換えて、今度はスピード重視で魔物の森へ向かった。




 それから約二週間。途中に立ち寄った街でも簡易的なパレードをこなし、ついに魔物の森に着いた。リオールの街ではなく別の最前線の街だ。一番時空の歪みまで最短距離で行ける街を選んだ。


「ようこそお越しくださいましたっ!」


 街に着くと、ここにいる騎士団の中で一番偉い人に迎えられる。そして挨拶もそこそこにそれぞれの部屋へ案内してもらった。今日はとにかく体を休めることに専念して、明日の早朝から早速魔物の森に入るのだ。


「じゃあ最終確認を始めよう。準備は良いかな?」

「はい。大丈夫です」


 それぞれの部屋に荷物を置いて、すぐに俺の部屋に全員で集まった。魔物の森での行動について最終確認だ。


「まず今回の作戦の第一目標は時空の歪みを塞ぐこと。方法は神の遺物である杖を時空の歪みに投げ入れるだけ。時空の歪みの場所は魔物の森の最奥にある。ここまでは良いかな?」

「はい。問題ありません」

「そして私達の脅威は基本的には魔植物と魔物。どちらも進行を妨げるものや振り切れないものだけを倒すことになる。倒す方法はバリアがあるから基本的に魔法を使う。しかしそこは臨機応変に、バリアを解除してでも剣を使った方が良い時は各自の判断に任せる。隊列はレオン、私、ジェラルド、フレデリックの順。魔力が尽きそうになった時点で進むのはやめて、大きなバリアを張り休憩」


 今日この日までにまた魔力を増やしまくったから、そうそう魔力切れはないと思うんだけど、魔物の森の奥にどれほど魔物が生息しているのかによるんだよね。あんまりいなければ良いんだけど……


「荷物は各自アイテムボックスの魔法具に収納。毎晩レオンに魔力を補充してもらい、魔力が切れて中身を失わないように気をつけること。大切なものはレオンのアイテムボックスに預けるように。バリアの魔法具についても各自予備を持ち、夜に魔力を込め直してもらう。レオンよろしく頼むよ」

「かしこまりました」

「この流れで大きな問題がなければ魔物の森の奥まで行けるはずだね。しかし魔物の森の奥にどれほど強い魔物や魔植物がいるのか見当もつかないため油断はしないように。それからこれが一番大事だけど……魔人について」


 トリスタン様がその言葉を口にすると、一気に雰囲気が重くなった。


「魔人が襲ってきた場合は逃げるのは不可能であると予想されるため、とにかく迎え撃つ。主に戦うのはレオン。他の皆はその援護に徹する。そしてレオンは私達のことは気にせず、魔人を倒すことだけに専念してほしい」

「……はい。分かっています」

「ではレオン、今の魔人の現状は分かるかな?」

「ミシュリーヌ様に聞いてみますね」


 俺は本を取り出してミシュリーヌ様に呼びかけた。


「ミシュリーヌ様」

『は〜い』

「今下界を見てましたか?」

『見てたわよ。魔人の現状でしょ?』

「そうです。教えてもらえますか?」

『良いわよ。あのレオンを襲ってきた魔人クドゥフェーニが、頻繁に時空の狭間に偵察に来てるわね。でもそれ以外は来てないわ。話を聞いてると次の作戦があるみたいで、その準備ができるまではとりあえず行動は起こさないみたいよ』


 そうなのか、それは僥倖かもしれない。作戦の準備が整う前に穴を塞いでしまいたいな。


「どんな作戦でしょうか?」

『こっちの世界で魔物は魔物の森からほとんど出ないでしょう? それだと魔物の森が広がるのを邪魔されるといつまでもこっちの人間が滅びないからって、今度は魔物に街を襲わせるそうよ』

「そんなこと……できるのですか?」

『話を聞いてる限りだと、この前の紫の粉あるじゃない。あれを食べた魔物は混乱して理性を失い、手当たり次第に全てを破壊するようになるらしいのよ。それをうまく誘導して魔物の森の外へ魔物を向かわせるみたいだけど……うまくいくのかは知らないわ』


 それがうまくいったら今度こそ終わりだ……魔物への対処に騎士を動員しなければいけなくて、そんなことをしているうちに魔物の森への対処ができずにどんどん森が広がるだろう。

 本当に最悪だな……

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