第308話 出立

 遂に今日は出立の日だ。俺は朝早くに公爵家を出て王宮に来ている。今日のパレードは王宮から始まり、中心街の中から外までをゆっくりと進み、そのまま王都の外に出る予定だ。

 使徒様の情報を王都全体に広めた後のパレードなので、物凄い盛り上がりらしい。王都全体がお祭り騒ぎで、俺達が通る道には既に人が集まっているんだとか。


「アレクシス様、おはようございます」

「レオンおはよう」


 王宮の一室に向かうと、中にはアレクシス様とリシャール様の他に、トリスタン様、ジェラルド様、フレデリック様もいた。


「皆さん早いですね」

「ついさっき集まったところだ。では早速だが本日の予定を再度確認しても良いか?」

「もちろんです」

「ありがとう。もう出立予定の時間まで後一時間ほどしかないので、四人にはすぐに身だしなみを整えてもらいたい。そしてそれが終わり次第、馬車に乗り込んでもらう。そのあとは馬車で待機だ」


 今日俺たちが乗るパレードのための馬車は、屋根がないパレード専用のものだ。その馬車に魔法具を使いバリアでカバーをする。王都の外に出たら普通の馬車に乗り換える予定だ。


「パレードの前に式典のようなものはないのですよね」

「ああ、今回は行わない。四人には馬車に乗ってもらうだけで構わないのでよろしく頼む」

「かしこまりました」

「そうだレオン、使徒様なのかと皆が疑わないようなパフォーマンスを考えると言っていたが、それはどうなったのだ」

「はい。ちゃんと考えてきました」


 この国には使徒様の凄さは広まっているけれど、俺が使徒様だということは信じない人は多いと思うんだ。まず見た目は普通に子供だし、さらに筋肉ムキムキでもないし。

 だから使徒様だとすぐにわかってもらえるようなパフォーマンスを、パレードの最中に何回かやろうと思っている。

 もう使徒様だとお披露目をした以上、たくさんの人が俺を使徒様だと認識して、恐れ敬ってくれた方が色々とやりやすいからね。


「パレードの最中でたくさんの人が集まる場所。そうですね……例えば広場などを通る時に魔法を見せようかと思います。転移で何処か建物の上に転移するとか、複数の属性魔法をその場で使うとか」

「ふむ、確かにそれを見ればすぐに信じるだろう。ではよろしく頼む」

「かしこまりました」


 そこまで話を終えると、アレクシス様は姿勢を正し表情をより真剣なものに変えた。


「レオン、トリスタン、ジェラルド、フレデリック。君達四人にこの国の命運はかかっている。どうか、どうかこの国を救ってくれ。健闘を祈っている」

「お任せください」

「はっ、必ずやこの国の脅威を排除して参ります」

「この国のお役に立てるよう、全力を尽くして参ります」


 トリスタン様、ジェラルド様、フレデリック様は一斉に跪いて頭を下げ順番に決意を口にした。俺もその後に続く。


「アレクシス様、この国のために全力を尽くします」

「本当にありがとう。頼んだぞ」

「はっ!!」


 そうしてアレクシス様からの激励を受け、俺達はそれぞれの控室に向かった。そしてそこで衣装を完璧に整えられて、馬車に案内される。馬車はかなり豪華なもので王家の紋章が入っていた。


「レオン、遂に魔物の森だな」

「はい。少し緊張しますね」


 まだ馬車にはフレデリック様しかいなかったので、話しながら他の二人を待つ。


「それは分かる。でも今から緊張してたら体がもたないぞ。魔物の森までは二週間ほどかかるんだからな」

「確かにそうですね。じゃあ、リラックスします」

「それが良い」


 確かに出立が今日だとは言っても、実際に魔物の森に入るのは二週間以上先になる。そして魔物の森に入ってからも奥までは何日もかかるのだ。

 今から緊張してたら途中で力尽きるよね。


「うわっ、やっぱり豪華な馬車だな……」

「ジェラルド様、そんなに嫌そうにしないでください」

「嫌ではないんだが、俺はキラキラしたものは苦手なんだ。だから騎士になったのにな……」


 ジェラルド様の実家はフェヴァン侯爵家なのに、貴族らしいパーティーなどは苦手らしいのだ。そんな性格だからこそリオールの街でもやっていけてるんだろうね。


「皆早いね」


 最後にトリスタン様も馬車にやってきた。トリスタン様は凄くキラキラしている。今回はパレードのために衣装も豪華だからか、一段とキラキラだ。


「レオン、改めてこれからよろしくね。かなり長い期間一緒にいることになると思うから。ジェラルドとフレデリックも」

「はい。よろしくお願いします」


 俺も含めた四人は今までの準備で頻繁に会ったり、連携の練習で一緒に訓練をしたりしているうちに、かなり仲良くなった。一応建前上目上の人には敬語は使っているけれど、もうそれも形式的なものになってるぐらいだ。

 凄く良い関係性が築けていると思う。この四人なら魔物の森でもやっていけるはずだ。



「皆様、門が開きますので準備をお願いいたします」


 王宮の門番さんが声を掛けてくれて、遂にパレードが始まる。


「じゃあ皆、とりあえずパレードの間は笑顔で、観衆にもたまに反応するぐらいで良いかな?」

「はい。ずっとは疲れるので、たまに手を上げて反応するぐらいにしましょう」

「分かった」


 ゆっくりと、王宮の門が開いていく。いつもは正門の隣にある小さな門から出入りするので、この大きな門が開くのは初めて見る。ちょっと感動だ。


 門が開くと物凄い人数が街道沿いに集まっているのが見えてきた。……こんなに王都に人がいたのか。それに歓声も凄い音量だ。


「凄い人ですね……」

「ちょっと予想外だね」


 トリスタン様が予想外って相当だな。どこを見ても人がひしめき合っていて、あの中にいたら押しつぶされそうだ。道に観衆が出てこないように、騎士や兵士が必死に押さえている。


「それだけ使徒様のことが市井にまで広まったんだろう。皆レオンを見にきているのだと思うぞ。これから国を救ってくれる英雄だしな」

「凄く出て行きづらいです……使徒様はどんなイメージなんでしょうか?」

「……まあ、少なくとも子供を想像している者はいないだろうな」

「やっぱりそうですよね……」


 平民の間に使徒様のことを広める際、俺のこととは関連付けずに客観的な使徒様像を広めたのだ。

 そしてその後に、現世にも使徒様が現れて魔物の森の脅威からこの国を守ってくれるって情報を流したから、多分皆の頭の中には筋骨隆々の大男とか、すらっと背が高いイケメン魔法使いとか、そんなイメージがあると思う。


 俺の絵姿も出回ってはいるんだけど、基本的には貴族の間だけで平民には広まってないんだよね。それに俺の年齢も明かしてない。力を見せずに年齢だけを明かしたら舐められるかもしれないからって、公開はやめたのだ。

 だから俺を使徒様だと思う人は少ないと思う。


 そんなことを考えているうちに馬車は進み、観衆が集まる道に入った。


「きゃー! カッコいいわ! どのお方が使徒様なのかしら?」

「あの金髪のお方じゃない? とっても素敵だもの!」

「青髪の方じゃないの? 強そうだわ!」

「赤髪の方も素敵よ!」


 カフェの店員の服装をした女性達の声が聞こえてくる。やっぱりそうなるよね……。金髪がトリスタン様で青髪がジェラルド様、赤髪がフレデリック様だろう。俺も一応金髪だけど、絶対に俺のことじゃないよね。


「あの子は誰かしら? あの可愛い子」

「本当ね。従者とか?」

「でも従者を連れて行くかしら……?」


 やっぱり……しかも可愛いとか言われてるし。俺はカッコいいって言われたいのに!


「はははっ、レオンは可愛いと言われてるぞ」

「むぅ……俺はカッコいいって言われたいです」

「レオンは、まあ、成長すれば可能性はある!」


 ちょっとジェラルド様、そんな哀れみの目で見ないでください! 俺も大人になったら筋肉ムキムキで背が高くてキリッとした感じになるんだから。

 今は……まあちょっと、ぽわんとしてる感じだけど。それに筋肉がついても全くムキムキにならないんだよね。どんなに鍛えても細マッチョになる。まあそれも良いんだけどさ、俺はムキムキになりたい。


「この先の広場にたくさんの人がいるだろうから、そこで転移を見せてあげたら良いんじゃないかな?」

「そうですね。そうします!」


 皆を驚かせてやる。俺はそう気合を入れて、とりあえず今はにこやかに観衆に反応することにした。

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