第302話 バーベキュー 後編
「マリー、火はついた?」
「うん! 父さんが完璧だって言ってたよ」
「じゃあお肉を持って行こうか、早速焼き始めよう。あとお野菜も」
「はーい!」
「ニコラとルークも野菜とお肉持っていって良いよ〜。ロジェ達も自由に食べてね! 焼いた肉と野菜は塩とかハーブとか色々あるからそれ付けて食べて。後これからガーリックバターを作るからそれも試してみてね」
皆の方にそう呼びかけると、ニコラとルークがすぐに駆け寄ってくる。
「うわぁ、すげぇな!」
「こんなにたくさんの肉が並んでいるのは壮観だな」
二人の瞳は輝いていて楽しそうだ。
「好きなお肉を持っていって良いからね。ここに出てるのが終わってもまだまだあるし」
「じゃあ俺はこの牛串が良い!」
「おじさん達の分も持っていってあげて」
「それならこっちの鶏肉も持っていくぜ。父ちゃんは鶏肉が好きなんだ」
「母さんは豚肉だな。野菜も持っていこう」
二人は楽しそうな笑みを浮かべながらあれもこれもと欲張って、最終的には両手で持ちきれないほどの食材をお皿に乗せて持っていった。
「レオン様、私達までいただいても良いのでしょうか」
そんな二人の様子を横目に見ながら、ロジェがお肉と野菜を前に困惑した表情で立ち尽くしている。
「まだ遠慮してるの? 今日は良いんだよ。自由に食べて楽しんで」
「ですが……」
「俺はロジェも一緒に楽しんでくれたら嬉しいと思ってるんだけど、ロジェは嫌?」
「い、いえ、そういうわけでは……」
珍しくロジェがちょっと焦ってる。俺は久しぶりにロジェの新たな表情が見れて嬉しくなった。
「じゃあ一緒に食べようよ。ロジェは何が好きなの? 牛肉と豚肉、鶏肉、野菜と色々あるけど」
「……自分の好みを考えたことがありませんでした。食事は出されたものをいただくだけでしたので」
「そうなの?」
「はい。レオン様のお好みならわかるのですが……」
いやいや、俺の好みが分かって自分の好みが分からないって。じゃあ今回はロジェの好きな食べ物を見つけよう。
「それならロジェは端から一つずつ食べてみれば良いよ。それで一番美味しかったやつを教えてね」
「……かしこまりました。頑張ってみます」
頑張ることじゃないんだけどな……でもまあいっか。これでロジェの好きなものが見つかるなら。
「楽しみにしてる。ローランも好きなやつを持っていってね。他の皆にも伝えて」
「かしこまりました!」
そうして皆と話して家族のところに戻ると、既に肉を焼き始めているところだった。
「どう、上手く焼けてる?」
「焼けてるよ。それにしても良い肉だね」
「ちょっと奮発したんだ」
お肉は良い部位を買ったから結構なお値段がしたけど、その分めちゃくちゃ美味しそうだ。
「レオンありがとう」
「気にしないで。あっそうだ、端のところでガーリックバターを作っても良い?」
「さっきもそれ言ってたわね。何なの?」
「お肉をつけると美味しいソースみたいな感じかな。とりあえず作ってみるよ」
俺はアイテムボックスから鉄鍋を取り出して、それを網の上に乗せた。そして中にバターの塊を贅沢に入れる。
「えっ……レオン! なんて勿体ない使い方をするの!」
すると母さんが鍋に入れられたバターを凝視してそう叫んだ。確かにバターは安くないし、こんな使い方は普通しないか。
でも母さんだって貴族になったんだから、バターぐらいいくらでも買えるのに。まあ庶民思考が抜けないのはよく分かるけどね……俺もまだ抜け切ってないから。
「これはこのバターが大切なんだ。ここにニンニクのスライスとオリーブオイルを入れて、火にかけると美味しいソースになるんだよ」
「……これが美味しいのかしら?」
「お肉に合うと思うから焼けたら付けてみて。じゃあ皆のところにも行ってくるね」
あっ、待って、このソースって硬めのパンにつけたら絶対に美味しいはずだ。焼いたパンをこのソースにつけたら……完全にガーリックトーストだよね。
それもやろう。やばい、よだれ出てくる。
「母さん、このパンをスライスして少し焼いておいてくれない? 多分このソースに合うと思う」
「分かったわ」
俺は最後にパンを手渡して、一度家族の元を離れた。そしてまずはおじさん達のところに向かう。マリーも一緒に行くみたいだ。
「おじさん、上手く焼けてる?」
「ああ、良い感じだ。このバーベキューって言ったか? すげぇ贅沢だな」
「頑張って準備したんだ。楽しんでもらえたら嬉しいよ」
「すげぇ楽しいぞ」
おじさんはそう言って、いつものように俺の頭をガシガシと撫でてくれた。この遠慮のない感じが嬉しい。
「マリー、この肉は俺が焼いたんだ。食べるか?」
「良いの? 食べる!」
ルークはマリーに自分の焼いた肉を勧めている。なんかルークが健気でどんどん可愛く見えてきてるんだよね……最初は断固反対の立場だったのに、だんだんとルークを応援したくなっている。
「レオン、さっき言ってたガーリックバターって何だ?」
「あっそうそう、それを作りに来たんだ。ニコラ、そこのお肉ちょっと寄せられる? 端に小さい鉄鍋を置けるようにして欲しいんだ」
「分かった。これで良いか?」
「うん、ありがとう」
さっき母さん達にしたのと同じように説明しつつガーリックバターを作ると、おじさん達は全員で溶けていくバターを凝視している。やっぱり勿体ないって思ってるんだろうな。
「レオン、バターをこんな使い方するのにも驚いたけど、このスライスニンニクって何だ?」
「あれ、ニンニクって食べたことない?」
「聞いたこともない」
そういえばニンニクって最近流行り出したんだっけ。まだ貴族の間でぐらいしか流行ってないのかも。確かにニンニクって他の野菜とかより高いし、平民には手が出ないのかな……
「ニンニクは野菜というか、ハーブとかの香辛料、調味料みたいなものかな。それを入れるだけで料理が美味しくなるんだ。例えばステーキを焼く時にニンニクと一緒に焼くと風味が出て美味しくなるとか」
「へぇ〜そんなのがあるんだな」
「美味しいから試してみて。あとこのパン、スライスして焼いてガーリックバターにつけたら美味しいと思うからやってみて」
「分かった。ありがとな」
「うん! じゃあ楽しんでね」
マリーはルークと楽しそうに肉を焼いていたので、俺は一人でロジェ達の下に向かった。
「皆楽しんでる?」
「はい! バーベキューとは新鮮で良いですね。とても楽しいです」
そう答えてくれたのはローランだ。皆の表情がいつもより緩んでいて楽しんでいるのが伝わってくる。俺達がいるから完全に気は抜けないだろうけど、少しでも楽しめてるなら良かった。
「遠慮せずに楽しんでたくさん食べてね」
「ありがたくいただきます」
「うん。じゃあここでもガーリックバターを作るね。ロジェ、ちょっと端の野菜を避けてくれる?」
「かしこまりました」
そうして本日三度目のガーリックバターを作ると、ここにいる皆は貴族出身の騎士や公爵家でずっと働いていた使用人なので、バターの使い方やニンニクに驚くことはなかった。しかしその組み合わせに興味津々だ。
「これで美味しいものになるのですね。興味深いです。今まで実家でも食べたことがありません」
そう口にしたのはマリーの護衛であるニコールだ。
「俺が考えたからまだ他にはないと思うよ。でもニンニクとバターは料理に使うでしょ? 美味しいものと美味しいものを掛け合わせたら美味しくならないわけがないから、これも美味しいはず!」
俺がこの世界で色々と試行錯誤して辿り着いた結論だ。とりあえず美味しいものを組み合わせれば余程のことがない限り美味しくなる。
「確かにそうですね。では試してみます」
「うん、皆も食べてみてね。あとロジェ、このパンもスライスして焼いて食べて。ソースにつけたら美味しいと思うから」
「かしこまりました」
「じゃあ楽しんでねー」
そうして皆のところを周り家族の下に戻ると、お肉は続々と焼けていてバターもかなり溶けたみたいだ。凄く美味しそうな匂いが漂ってくる。ニンニクとバターって暴力的な匂いだよね。
「美味しそうだね」
「凄く良い匂いだよ。この肉はもう焼けたから食べるかい?」
「うん、ありがと!」
俺は父さんから牛串を受け取った。まずはやっぱり塩かな。う〜ん、何これ美味しすぎる! 炭火焼きの香りが鼻に抜けて最高だし、牛肉の旨味たっぷりな肉汁が口の中に広がって幸せを感じられる。そして最後には塩味が油をさっぱりとさせてくれて……とにかく美味すぎる。
よしっ、次はガーリックバターだ。俺は肉にたっぷりとソースをつけて、ガブっと豪快に一口食べた。
「美味っ! これ凄いよ!」
「それほどかい?」
「うん! 父さん達も食べてみて、早く早く!」
「じゃあ食べてみようかな……」
父さんと母さん、マリーもガーリックバターを少し付けてお肉を口にした。すると三人が驚愕に目を見開き、咀嚼するごとに顔を綻ばせる。
「あらやだ、何でこんなに美味しいのかしら」
「これは……凄いね」
「お兄ちゃん、これ美味しい!!」
「だよね! 大成功だよ」
記憶にある味とほとんど変わらない。美味すぎていくらでも食べられそうだ。
「父さんもっと肉を焼こう!」
「分かったよ。ちょっと待って」
――それからは肉を食べて野菜を食べてパンを食べてと、最高に美味しくて楽しいバーベキューを満喫した。
使用人や護衛の皆とも前よりは仲良くなれた気がするし、家族皆とおじさん達も楽しんでくれたようで本当に良かった。そして俺も楽しかった!
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