第301話 バーベキュー 前編

 今日は家族皆でお出掛けをする日だ。皆が勉強に疲れているようだったから俺が企画をした。仕事は一日休みをもらったし、朝早くからたっぷりと時間があるので遊び尽くせる。久しぶりだからワクワクするな。


「お兄ちゃん! もう準備終わった?」


 昨日の夜に明日お出掛けするよって話してからマリーはずっと大興奮で、今日の朝も早く起きてずっとはしゃいでいるらしい。さっきからマリー付きのメイドさんが大変そうだ。

 マリーも余り表には出さないけど、勉強漬けの毎日に疲れてきていたんだろうな。今日は皆のリフレッシュになってくれたら良いよね。


「マリー、まだ朝ご飯も食べてないよ。ちゃんと自分のお部屋で朝ご飯を食べてくるんだよ」

「そうだった。じゃあすぐ食べてくるね!」


 マリーキリッとした顔で元気よく返事をして、俺の部屋から自分の部屋に駆け出していった。うん、メイドさんが振り回されている。今度特別手当てとか出しておこうかな……


 それから俺は素早く朝食を食べて、久しぶりに動きやすい服装に着替えた。質は良いものだけど豪華ではない服装だ。やっぱりこのぐらいの方が落ち着く。


「ロジェ、皆を呼んできてくれる?」

「かしこまりました」


 今日は転移で目的の場所に向かうので、集合場所は俺の部屋だ。メイドと従者、それから護衛なしではダメだと言われたので護衛の皆も。かなりの大所帯だけどそれでも楽しめるだろう。


「お兄ちゃん! ルークとニコラも一緒なんだよね?」


 マリーが勢いよく俺の部屋に入ってきてそう言った。マリーは本当に楽しそうだ。


「そうだよ。これから迎えに行くからね」


 昨日の夜マリーにお出掛けすることを告げたら、ルークとニコラも一緒が良いと言われて、可愛い妹の要望を聞くことにしたのだ。

 慌ててニコラ達にも行けるかを転移で聞きに行ったら、お店も閉められるし大丈夫だってことだった。


 だから今日は転移でニコラ達の家に四人を迎えに行き、それから目的の場所まで転移する。そして十分楽しんだらまたニコラ達を家まで送り、それから屋敷に帰ってくるってスケジュールだ。

 ちょっと距離がある転移だから魔力量が心配だけど、最近はどんどん増やしてるしこの程度なら問題ないと思う。


「やったー! ルークとニコラと会うの久しぶりだよね」

「そうだよね。久しぶりに楽しもうね」

「うん!」


 そうしてテンションが高いマリーの相手をしていると、部屋に母さんと父さんも入ってきた。


「マリーはしゃぎ過ぎよ」

「だって、久しぶりのお出かけだよ!」

「マリー少し落ち着かないと途中で疲れて楽しめないよ」


 母さんと父さんはマリーの様子に苦笑いだ。


「はーい。でも楽しみなんだもん!」

「ふふっ、じゃあマリーが疲れないうちに早速行こうか。まずはおじさん達の家からだよ」


 おじさん達の家には、昨日のうちに大勢が転移できる場所を作ってもらっている。だからそこに転移すればこの人数でも問題はない。


「じゃあ皆、できる限り俺の近くに寄ってくれる?」

「分かった! 私がお兄ちゃんのお隣ね!」


 そう言って俺の手を繋いでくるマリー、本当に可愛い。


「そうだね」


 俺は顔がデレデレと崩れるのを抑えきれずにマリーの手をぎゅっと握った。そしてその近くに父さんと母さんも来て、その周りに皆が集まってくれる。


「じゃあ行くよ『転移』」



 ニコラ達は準備を終えて転移場所の周りで待っていたようで、俺達が突然現れたことに相当驚いている様子だ。やっぱり事前に転移のことを聞いてても驚くよね。


「おじさんおばさん! ルークとニコラお兄ちゃんも!」


 マリーは久しぶりに皆に会えたことが嬉しいのか、すぐに四人の下へ駆け寄っていった。


「マリー久しぶりだな!」

「きゃあ〜!」


 おじさんが駆け寄ってきたマリーをそのままの勢いで抱き上げる。マリーはそれに大興奮だ。最近は大人っぽくなってきたと思ってたけど、やっぱりまだまだ子供だよね。


「皆、急にごめんね。もう準備できてる?」

「ええ、準備は終わってるわ」

「いつでも行けるぜ! 父ちゃんはそろそろマリーを下ろせよ」

「レオン、俺達は昼ご飯も持たなくて良いんだよな?」

「うん。準備したから大丈夫だよ」

「じゃあいつでも行ける」

「りょーかい!」


 ニコラは大公家の兵士として雇うことが決まっているからか、少しだけ緊張しているみたいだ。確かにここにいる護衛の皆はニコラにとっては上司になる。


「じゃあおじさん達もこっちに寄って〜」

「おうっ、それにしても凄い人数だな」

「それぞれに従者やメイドと護衛が付いてるから。あんまり気にしなくて良いからね」


 そうして皆で一ヶ所に固まった。


「じゃあ行くよ。『転移』」



 転移した先は、俺達の実家近くにあった森の中。その森の中を流れる川のほとりに転移した。懐かしい場所だしバーベキューには最適だと思ったのだ。

 そう、今日やるのは皆でバーベキュー! めちゃくちゃ気合いを入れて準備したから、楽しんでもらえたら嬉しいな。


「うわぁ、森の中だ!」

「久しぶりだな」

「すっげぇ久しぶり! やっぱり中心街もいいけど森の中も良いな」


 マリー、ニコラ、ルークは凄く喜んでくれているようだ。中心街にいると森に行くこともないし自然と触れ合うことが極端に減るから、こういう場所に来たくなるんだよね。喜んでもらえて良かった。


「あら、懐かしいわね。空気が澄んでいるわ」

「本当だね」


 母さんと父さんはそう笑い合っている。


「レ、レオン! ここは前の家の近くにあった森か!?」 「そうだよ」

「転移って本当にすげぇな……」

「本当ね。こんなところまで一瞬で来れるだなんて」


 おじさんとおばさんは転移に驚いているようだ。確かに初めて体験するとそんな反応になるよね。


「お兄ちゃん、何して遊ぶ!? 木苺探すか、お魚釣るか……」


 マリーは指折り数えて、今まで森でやってきたことを思い出しているみたい。うん、可愛い。


「今回はね、バーベキューをしようと思ってるんだ」

「バーベキュー?」

「そう。皆でお肉やお野菜を焼いて楽しく食べるんだよ」

「ここでお肉を焼くの!?」

「そうだよ。マリーも準備を手伝ってくれる?」

「うん! 楽しそう!」


 喜んでくれて良かった。楽しくなさそうとか言われたら本格的に落ち込むところだったよ。

 

「ここで料理をして食べるのか。面白いな」

「楽しそうだぜ!」

「でもレオン、なんの準備もしてないわよ?」

「大丈夫! 俺が全部準備してきたんだ」


 このバーベキューのために色々と材料や必要なものは仕入れてある。その準備も結構楽しかったんだよね。ついつい買いすぎたから、多分三回はバーベキューできると思う。


「じゃあまずは火をおこして、その周りに石を綺麗に並べてこの網が乗るようにしてね」


 俺はそう説明をしながら、アイテムボックスの中から網を取り出した。この網は俺が土魔法で作ったものだ。


「それから今日は薪じゃなくてこれを使うから」

「これって……炭じゃないか!? 使って良いのかい!」

「う、うん。もちろんだよ」


 父さんが凄い勢いで食い付いてきた。この世界の炭って高級品の部類に入るから、平民はほとんど使うことができないんだ。今回はバーベキューと言ったら炭焼きでしょってことで、大量に買ってきた。


 でも火魔法の魔法具でコンロを作り出したから、そのうち炭も安くなって平民でも手に入るようになるんじゃないかな。というか父さんはいつでも手に入るんだけどね。もう大公家の人間になったんだから。


「じゃあ父さんが火をおこすよ!」

「ありがとう。じゃあ大人数だから三ヶ所ぐらいで火をおこそうか。後二ヶ所はおじさんとロジェにお願いしても良い?」


 俺の家族とおじさん達家族、それから使用人一同って感じの分け方で良いだろう。今日は使用人の皆も一緒に楽しんでもらうって決めたのだ。最初皆は遠慮してたけど、皆で楽しんだ方が家族も喜ぶって言ったら頷いてくれた。


「おうっ、任せとけ! ニコラが火魔法使えるからな」

「かしこまりました。お任せください」


 じゃあ皆が火をおこしてくれている間に、俺は机や椅子を準備しておこうかな。

 まずはこの辺一帯の小石をアイテムボックスに仕舞って、土が剥き出しになったところを土魔法で固めて平にする。そして平にしたところに、アイテムボックスに入れてある机と椅子を並べていく。


 後は取り皿用のお皿やコップを出して、さらにカトラリーに塩やハーブなどの調味料も出しておこう。もうお肉も出して良いかな? 今は寒いし大丈夫だよね。


 串に刺した鶏肉と牛肉に豚肉、それから薄切りにしたお肉や厚切りのステーキ肉も用意した。後は野菜も出しておいて、それからパンや飲み物も。


 うん、とりあえず完璧かな。他にも色々あるけどまずはこのぐらいで良いだろう。あっ、後あれも準備しよう。その名もガーリックバター!


 日本でバーベキューした時に、アルミホイルの中でバターを溶かして少しオリーブオイルを入れて、さらにスライスニンニクを入れたソースを作ってたのを思い出したのだ。あれならこの世界でも再現できると思って材料は揃えてきてある。

 アルミホイルはないから小さな鉄鍋で作ってみれば良いよね。


「お兄ちゃん凄いね!! たくさんのお野菜とお肉があるよ!」

「いっぱいあると嬉しくなるよね」

「うん! 楽しいなぁ〜」


 マリーが楽しいって笑ってくれるだけで準備した甲斐があったよ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る