第300話 新しいレシピ
「ミシュリーヌ様、ではまずシフォンケーキの作り方からお願いします」
『分かったわ。材料は卵黄、砂糖、油、水、小麦粉、メレンゲよ』
「ありがとうございます。ヨアン、まず最初のレシピはシフォンケーキって名前のケーキだよ。これはスポンジケーキみたいな感じなんだけど、それよりもふんわりと軽い食感かな。生クリームとかを塗らないで、そのまま食べると美味しいかも。あとは紅茶の葉や果物、ナッツ類とかを色々と混ぜても美味しくなると思う」
ロニーは重要な点だけを紙に書いていき、ヨアンは必死に覚えようとしているみたいだ。ロニーの要点をまとめる能力が凄いんだよね。俺も真似できないっていつも思う。
「材料は卵黄、砂糖、油、水、小麦粉、ヨガードだよ」
「スポンジケーキと余り変わりませんね。バターが油に変更になるだけでしょうか?」
「うん。それだけでも結構食感が変わるんだと思う。あとは色々と試行錯誤をしてみてかな。この材料を使って、ヨアンの中で一番美味しいと思うものを作ってくれれば良いから」
最初はそれぞれの分量とかも伝えようかなと思ったんだけど、この世界と日本じゃ小麦粉の種類とか挽き方とか、さらに油の種類も砂糖の種類や精製法も、色々なところに差があるから止めた。
この世界の材料を使った最適な分量は、試行錯誤していくしかないと思う。日本の分量を伝えて先入観を与えるよりは、ヨアンの今までの経験に基づいて試行錯誤してもらった方が美味しいものが出来上がる気がするんだよね。
だからヨアンには悪いけどここからは頑張ってもらおう。ヨアンは試行錯誤が好きみたいだし喜んでやってくれるだろう。今もかなり楽しそうだし。
「かしこまりました。最適な分量を見定めて最高に美味しく仕上げてみせます!」
「期待してるよ。よろしくね」
「はい!」
「じゃあ次はベイクドチーズケーキだったかな? ミシュリーヌ様、次のケーキはなんでしたか?」
『ベイクドチーズケーキよ』
「じゃあそれを教えてください」
『材料はクリームチーズ、小麦粉、卵、砂糖、生クリーム、レモン汁、クラッカー、バターって書いてあるわよ』
「ありがとうございます。あとその下にクラッカーの作り方って書いてありませんか?」
自家製クラッカーを作るにはってコラムがあって、そこに作り方が書いてあったのだ。あれを見つけた時は嬉しかった。
『あるわね。小麦粉、水、塩、油って書いてあるわよ。あっ、あと砂糖を入れても良いって書いてある』
「ありがとうございます。ヨアン、じゃあ次はベイクドチーズケーキって名前のケーキね」
「ベイクドチーズケーキですね。チーズを使ったケーキですか!」
「うん。これはちょっと難しいかもしれないけど挑戦してみて欲しいんだ」
「分かりました」
「じゃあまず材料からね。クリームチーズ、小麦粉、卵、砂糖、生クリーム、レモン汁、クラッカー、バター」
ロニーが書き写せるぐらいの速度で材料を挙げていく。こうしてみるとやっぱり必要なものも多いな。しかもこの世界では難しいものもいくつかある。
でもレアチーズケーキより簡単だろうし、ここは頑張ってもらいたいんだよね……チーズケーキ食べたい。
「かなりたくさんのものが必要なのですね」
「うん。じゃあ次は調理過程ね。まずは材料の一つであるクラッカーなんだけど…………」
それから俺はミシュリーヌ様にメモを読み上げてもらいつつ、ヨアンにベイクドチーズケーキの作り方を説明した。
「どう? できそうかな?」
「……そうですね。難しいとは思いますが、聞いていた限りでは何度も試せば形にはなると思います。あとはチーズの種類やそれぞれの分量を変えて美味しくしてみせます」
そう言ったヨアンの表情は真剣だけれど輝いていた。やっぱり難しい壁に挑むのってやる気でるよね。
「じゃあ完成を楽しみにしてるよ」
「はい!」
――そうしてそれからいくつものレシピをヨアンに説明し、お昼の時間もとうに過ぎて夕方ごろに説明し終えた。
相当疲れたけどやり切った感はある。ヨアンは今すぐに研究をしたくてうずうずしているようだ。ロニーはかなり疲れてるかも。
「ミシュリーヌ様、長い間付き合ってくださりありがとうございました」
『スイーツのためだもの当たり前でしょう! それで完成しそうかしら? いつ出来上がるの?』
「そんなに早くは無理ですよ」
流石に今完成しそうはないだろ。俺は期待して瞳を輝かせているミシュリーヌ様が思い浮かび、思わず笑ってしまう。
『そうなの? じゃあ何時ごろかしら。明日?』
「そうですね。何週間もかかって一つって感じですね」
『な、な、なんてこと!? そんなにかかるの!?』
「当たり前じゃないですか。完成させるには何度も試行錯誤しないとなんですよ。こっちの世界には便利な機械があるわけでもないですし」
『そうなのね……』
「そんなに落ち込まないでください。後で楽しみがあると思ったら頑張れるじゃないですか。新しいスイーツを食べる想像をしながら仕事を頑張ってください」
『……分かった。じゃあ頑張るから、絶対に完成させなさいよ!』
「分かりました。じゃあ切りますね」
そうして俺はミシュリーヌ様との通信を切った。ふぅ〜かなり疲れたな。俺は本を仕舞って二人に向き直る。
「二人ともお昼も食べないでごめんね」
「いえ、とても楽しかったので大丈夫です!」
確かにヨアンはそうだろうね。今すぐ厨房に行って試したいって感じだし。
「ロニー、こんなに付き合わせちゃってごめんね」
「大丈夫だよ。これも仕事の内だし、新しいレシピを知るのは楽しかったから」
「本当にありがとう」
二人には休日手当を渡しておこうかな。というかそもそも今日って回復の日なんだよね。最初に回復の日は仕事休みで良いからって伝えたんだけど、結局皆は休みがあってもやることがないからって仕事をしてるみたいなんだ。
確かに平民は回復の日だって仕事を休まないのが普通で、基本的には何か用事がある時か体調が悪い時しか休まない。貴族の使用人だって休みなしでずっと働いている。
そういう世界だから無理に休ませるのも違うのかなと思って、働きたい人は働いても良いよって言ってるんだけど、結局全員が休みなく働いてるみたいだ。
もう休日手当じゃなくて全員にボーナスをあげようかな。うん、今度ロニーとも相談しよう。従業員の給金はロニーの管轄だし。そしてロニーのボーナスはあげること決定だ。そこは俺の裁量だからね。
「じゃあ今日は解散にしようか。二人とも今日はもう帰って休んで。ヨアンも研究は明日から、仕事に支障が出ない程度にしてね。大公家に来たらいくらでも研究できるから」
「かしこまりました」
「じゃあレオンもお疲れ様」
「うん。お疲れ」
そうして今日の話し合いは解散となった。かなり疲れたけど有意義な時間になったな。
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