第299話 シュガニスの今後 後編
「とりあえず予約で決めておくのはこのぐらいかな?」
「あとは……そうだ、木箱とか諸々準備はできてる?」
「うん。全部完成しててもうお店にあるよ」
「じゃあこれで予約販売はできそうだね。いつから始めようか。ヨアンはいつでも問題ない?」
「はい。材料は毎日十分に入ってきますので問題ありません。しかし販売するとなるともう少し増やした方が良いかと」
「確かにそうか。じゃあ仕入れ量も少し増やそう。もし使い切らなくてダメになりそうなら言ってね。俺のアイテムボックスに入れておけばいつまでも保存可能だから」
「かしこまりました」
時間停止で容量無限のアイテムボックスを一番羨ましがったのはヨアンだった。それがあれば材料が劣化することもないし最高ですね! ってすぐに言われた時は思わず苦笑しちゃったよ。
さすがヨアンだよね。ミシュリーヌ様がスイーツを食べることしか考えてないように、ヨアンも新しいスイーツを開発することしか考えてない。
「じゃあ仕入れを増やすことも考えて、一週間後なら予約を始められる? 一週間後に予約開始で、実際に受け取りに来てもらうのはその次の日からでどうかな?」
「それで問題ないよ。問い合わせがあった貴族家に予約用紙を送るのはいつにする? 出来ればぎりぎりが良いんだけど……」
確かに余裕を持たせたらお店に予約用紙をもらいに行く人が殺到して、結局初日にお店が大混乱になるか……
「じゃあ予約用紙を送るのは予約開始日の前日にする。ちょっと不作法だけど大公家だし許されると思う。そうすれば初日は予約用紙を受け取った家しか来なくて、その次の日からだんだんと噂を聞いた人がやってくる感じになるかな」
「それなら大きな混乱はなさそうだね」
「うん。あっそうだ、俺が送った予約用紙には印をつけておくから、その人達の予約は早めの受け取り指定にしてくれる? 流石にこっちから送ったのに後回しはまずいだろうし」
「了解」
貴族を相手に商売をするのって色々と気を遣って大変だな……でも俺が大公ってだけでほとんどの揉め事は起こらなくなるんだろうし、これでもかなり楽だよね。
そう考えたらただの平民の身分でこのお店をやろうとしてた過去の俺、凄いチャレンジャーだな。まあリシャール様の後ろ盾があったからこそだけど。
「じゃあ一週間後から予約販売は開始するってことで準備するね」
「よろしく。他の皆にも共有してそのつもりで準備してね。お店が開店したら予約業務と並行してカフェスペースもだから、それも考えて事前練習って認識でお願い」
「分かった。そう言っておくよ。あとさっき話してた新しい従業員だけど、予約販売を始めて数週間経ってから雇うことにするね。皆が慣れてからの方が良いと思うし」
「うん。そこは任せるよ」
これで予約販売の方は大丈夫かな。あとはシュガニスを正式にいつ開店させるのかだけど、今の段階で予約販売を始めるなら開店の時期は早めなくても良いかな。
「あとは正式な開店の時期だけど、予定通りに春の初めで良いかな? 予約販売をしてるなら早める必要はないと思うんだ」
「そうだね。冬の一月あれば予約販売も完全に慣れるだろうし、そのあとならカフェスペースを始めても問題ないと思うよ」
「じゃあ開店予定は春の始めにしよう。予約のケーキを取りに来てくれた人の目に入るように、お店の中にお知らせの看板でも飾っておこうか。春に開店しますって内容のやつを」
「それ良いね。ちゃんと木工工房に頼んで作る?」
「うん。彫ってもらって色もつけて華やかなやつにしよう。値段は気にしなくて良いから」
「分かった。じゃあそれも注文しておくね」
「ありがとう」
これでお店の今後については完璧かな。
ふぅ〜、ロニーと話すと次々と話が決まっていくからかなり楽しい。やっぱりロニーとは気が合うし、仕事仲間としても相性が良い。
「とりあえずこれで決めることは全部かな? また何か問題があったらその都度話し合うことにしようか」
「そうだね」
「じゃあ次は新しいレシピについての話かな」
俺がそう話を変えると、さっきまでは俺とロニーの会話に少し口を挟む程度だったヨアンが、途端に身を乗り出してきた。
「その話がとても気になっていました! 新しいレシピとは、またレオン様が考えられたのですか?」
「ううん。使徒としての知識なんだ」
「やはりそうなのですね……! 使徒様の知識にある新たなスイーツを最初に作らせていただけるとは、感動です。レオン様に雇っていただいている自分が幸運すぎて怖くなります……」
「ははっ、大袈裟だよ。俺はヨアンには本当に感謝してるんだ。最初は曖昧な知識だったのにそれを形にしてくれたんだから」
そう言うと、ヨアンは頭をブンブンと横に振る。
「そんなことはありません。ゼロから一を作るのは本当に難しいのです。少しでもヒントがいただけるだけで、とてもありがたいです」
「ありがとう。でも今度はもっと正確なレシピがわかるんだ。でもそこからもっと試行錯誤して美味しくしてもらいたいけど……」
「もちろんです! 自分の中で最高の味を追求します」
「期待してるよ」
俺はアイテムボックスから紙とペン、それからミシュリーヌ様と繋がる本を取り出した。
「レシピはミシュリーヌ様に聞きながらだから、ミシュリーヌ様と繋げても良い?」
「え、えっと、ミシュリーヌ様と、お話しをされるということでしょうか……?」
「そう。この本に触れると俺限定で話ができるんだ」
「レオンってそんなこともできたんだ……なんか凄いね。僕達にもお声が聞こえたりするの?」
「ううん。俺にしか聞こえないって。だから独り言を言ってるみたいになるんだけど、気にしないでね」
「分かった。じゃあ僕達は特に跪いたりしなくて良いってこと?」
「うん。別に必要ないよ」
確かにそういう心配もするのか。ミシュリーヌ様は別にいつでも跪く必要はあんまりない気もする……。でも信仰心が高まると神力も増えるんだし、跪いてもらえるのならその方が良いのか。
「じゃあ僕達のことは気にせず話して良いよ」
「ありがとう。ヨアンも気にしないでね」
「は、はい」
俺はその返答を聞いて、本をしっかりと抱えてミシュリーヌ様に話しかけた。
「ミシュリーヌ様、今大丈夫ですか?」
『大丈夫よ〜。さっき帰ったばかりじゃない。何か忘れ物?』
いや、そっちの世界に忘れ物なんて出来ませんから。
「違います。ミシュリーヌ様ご所望の新しいスイーツを作ってくれる料理人にレシピを説明したいので、あのメモを読んでくれませんか?」
『ほ、本当!? まさかこんなに早いなんて! レオンでかしたわ!』
ミシュリーヌ様は一気にテンションが上がったようで、声が数倍大きくなった。ちょっとうるさいです……
「では今から俺が聞いたスイーツのレシピを教えてください」
『もちろんよ!』
「じゃあヨアン、今からレシピの説明をするね」
俺がヨアンの方に向き直りそう告げると、呆然としていたヨアンは意識を取り戻したようで慌てて背筋を正した。
「じゃあこの紙とペンを使ってね」
「あの、レオン様、大変申し訳ないのですが、私はまだ字を書くのが苦手でして……」
当たり前のように紙とペンを渡したらヨアンにそう言われた。確かにそうだった、読み書きなんてできない人の方が多いんだよね。最近は周りにできる人が多すぎて忘れかけてた。ヨアンは普通の平民だしできない方が自然だ。
「いや、俺の方こそごめん。最近は周りにできる人が多くて忘れてたよ。でもまだ苦手ってことは練習してるの?」
「はい。幸い周りには読み書きできる人が多いですから、いつでも教えてもらえるので……」
大人になってから学ぶのが大変なのは母さんと父さんを見てればわかる。それに周りの読み書きができる人って年下が多いよね。それでも教えてもらってるって、ヨアンは凄いな……
「ヨアン凄いね。もし何か教材が欲しいとかあったら言ってね」
「はい。ありがとうございます」
「じゃあレシピは俺が書こうか?」
「レオン、僕が書くよ。レオンは説明に集中した方が良いと思うし」
ロニーが横からそう言ってくれた。確かに書きながら説明って難しいかも。
「じゃあお願いするね」
「うん。任せて」
そうしてロニーが紙とペンを持ち、話をする態勢が整って俺はまたミシュリーヌ様に呼びかけた。
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