第298話 シュガニスの今後 前編
「じゃあロニーとヨアン、二人ともソファーに座って」
アンヌとエバンがソファーに座り二人は椅子に座っていたので、ソファーに移動してもらう。
「ロジェ、お茶を淹れ直してくれる?」
「かしこまりました」
「レオン様、クッキーを焼いてあるのですが召し上がられますか?」
俺がロジェにお茶を頼むとヨアンがそう聞いてくれた。もちろんクッキーならいつでもいくらでも食べる。最近はまた美味しくなったんだよね。
「もちろん食べるよ。ありがとう」
「かしこまりました。では準備して参りますので少々お待ちください」
そうしてロジェとヨアンが部屋から出ていき、部屋には俺とロニーとローランだけになった。
「ふわぁ〜、疲れたね……」
「レオンは最近忙しすぎるんじゃないの?」
「うーん、そうなのかな? でも確かにやることはたくさんある」
「仕事は忙しい? 陛下の側近として働き始めたんだよね」
「うん。でも俺に特別仕事があるっていうよりも、いろんなことの相談を受けてる感じかな。あと今は魔物の森の対処の話があるから、そのことで忙しいんだよね」
ロニーは魔物の森と聞いて少しだけ表情を暗くした。ロニーは俺が魔物の森の奥に行くことを、かなり心配してくれているのだ。
「魔物の森……怖かったよね。あの奥にレオンが行くと思うと心配になる」
「心配してくれてありがとう。でも俺は強いから大丈夫、無事に帰ってくるよ」
「うん……そうだよね」
そう言ってもロニーの表情は晴れない。ロニーの周りにいる人はまだ俺が魔物の森に行くことを知らなくて、その不安を共有できないのもダメなんだろうな……
魔物の森にどう対処するのかについての情報は、まだ公開してないんだ。とりあえず市井にも公開したのは、ミシュリーヌ様の使徒であるレオンが降臨したって話だけ。
でも俺とトリスタン様達が魔物の森に行くときにはパレードをするし、その前には色々と公開するらしいけど。
この前アレクシス様と、どういう情報を公開するのかについて話し合って決めたのだ。
最終的には魔物の森の最奥に邪悪な魔物が住んでいて、それを倒さない限り魔物の森の勢いは止まらない。その邪悪な魔物を倒しに、使徒様と王族を含めた三人の騎士が魔物の森に入る。そんな感じのエピソードになった。
ほとんどがフィクションだけど本当のことを言うわけにもいかないし、時空の歪みなんて言われても理解できないだろうし必要な嘘だよね。
それで俺達が時空の歪みを塞ぐことに成功して凱旋したら、後は邪悪な魔物は倒したが残された影響が大きく、魔物の森の勢いは弱まってはいるが止まらない。あとは自分達の手でこの世界を救おうじゃないか。
みたいな感じで兵士を集めて魔物の森を駆逐していく予定らしい。
「そういえばロニー、魔物の森に同行してくれる騎士の方が決まったんだ。トリスタン様とジェラルド様、それからフレデリック様だよ」
「え……、本当にそのお三方なの?」
「そう、驚くよね。でも三人とも本当に強くて頼りになるんだ。だから心配はいらないよ。それに俺にはミシュリーヌ様もついてるし」
ロニーを心配させないように、努めて明るい声を出した。するとロニーは少しだけ笑顔になる。
「そっか……そのお三方が付いてくれるならちょっと安心かも。それに女神様がついてくれてるなら大丈夫だよね。もちろんレオンも強いんだし」
「うん、だから心配しないで。それよりも問題は俺がいない間のお店なんだ。多分魔物の森に行ったらしばらくは帰ってこれないから。短くても半月ぐらいかな」
「そんなに長いんだ……」
「遠いからね。だからその間のお店はロニーに完全に任せることになる」
「分かった、お店の心配はしないで。僕がしっかりとやっておくよ。だからレオンは気にせずに行ってきて」
ロニーは頼もしい顔でそう言ってくれた。もうさっきまでの不安げな表情はない。
「ありがとう。頼んだよ」
そこまで話したところでヨアンとロジェが休憩室に戻ってきた。部屋の中には途端にクッキーの良い匂いと淹れたてのお茶の香りが充満する。
「お待たせいたしました」
「美味しそうだね」
「こちらはリズが一人で作ったものです。もうクッキーならば私が作るものと遜色ありません」
「そうなんだ! 凄い成長だね。見た目だとほとんど違いがわからないかも」
リズも最初は心配だったけど、もう一人前になりつつあるんだな。後任が育ってるというのは頼もしい。ヨアンが抜けてもお店をうまく回してくれるだろう。
「じゃあいただくね」
あぁ〜、美味しい。サクサクで甘さもちょうどいい。幸せの味だ。
「本当に美味しい。リズは凄いね」
「僕も驚いてるんだ。リズがここまでスイーツ作りの才能を持っていたなんて。人見知りな子だったから、僕の妹として贔屓目に見ても仕事を探すのは大変かなと思ってたんだけど、本当に嬉しいよ」
そう言って嬉しそうに笑うロニーは兄の顔をしていた。分かる、妹の成長って嬉しいよね。ちょっと寂しいこともあるんだけど……
それからしばらく雑談しつつ皆でクッキーを楽しんで、本題に入ることになった。
「じゃあシュガニスの今後についての話なんだけど、まずいつ開店するのか、ここで少し悩んでるんだ。王宮でのパーティーでスイーツをお披露目したでしょ? それで貴族からかなり問い合わせが来てて、春の初めの開店だと少し遅いかなと思ってるんだよね」
「やっぱり問い合わせが来てるんだね。たまにこのお店にも貴族の使用人が来るんだよ。問い合わせはレオンにって言うとすぐに帰っていくんだけど……あっ、そう言って良かった?」
やっぱりこっちにも来てたのか。
「もちろん。すぐに俺の名前を出して良いよ。でもそうしてずっと断るのも販売機会を逃してるし、せっかくお披露目したのなら売るべきだと思うんだ。でもお店を始めたら多分お客さんが殺到して大混乱になる。だから春までの間は予約でお持ち帰りのみで販売しようかと思ってるんだけど、どう思う?」
その提案に二人はかなり真剣に考えてくれているようだ。それからしばらくして、まず口を開いたのはロニーだった。
「僕は賛成かな。でもその予約をどうすれば混乱なくできるのかなってちょっと思ったんだけど、レオンの名前を使えば大丈夫だよね?」
「うん。例えば初日は高位貴族だけとか、身分で分けちゃっても良いと思う」
「それができるなら僕は賛成かな。そうして貴族様が事前にスイーツを楽しんでくれていたら、開店しても混乱が抑えられるだろうし」
やっぱりそうだよね。開店時の混乱を抑えるのにも有効だろうし、お店を始めても予約は続けることになるから従業員が業務に慣れることもできるし。
「ヨアンはどう?」
「私も賛成です。ただ予約の場合は、カットケーキはなしでホールケーキのみにするべきかと思います。カットケーキですと余ってしまう部分も増えると思いますので」
確かにカットケーキの注文を一つ受けたら、ホールケーキを一つ作らないといけない。まあ余ったところは俺のアイテムボックスに仕舞っておけば問題はないんだけど……
毎日余りのケーキを仕舞いにくるのも大変だし、貴族ならホールケーキの値段でも売れるだろう。
「確かにそうだね。じゃあ予約での販売はホールケーキのみにしよう。クッキーとかはどうする?」
「クッキーならば日持ちもしますし、一緒に販売しても良いかと思います」
「分かった。じゃあホールケーキとクッキーを予約で売り出すことにする」
「了解。ホールケーキは全種類?」
「うん。どれでも選べるようにしようか」
ロニーが話し合いの内容を紙に記してくれている。ちゃんと話し足りてないところも聞いてくれるし、本当にロニーって優秀だ。
「分かった。それで予約はいつから開始する?」
「そうだね……まずは予約をどんな形式でやるのかによるけど……問い合わせがあった貴族家に予約用紙を送ることにしようかな。貴族は横の繋がりが強いから、それで直ぐに貴族全体へシュガニスが予約を開始したって広がると思うんだ」
「その予約用紙はどこに持ってきてもらうの?」
「このお店にしよう。予約用紙にお店の営業時間を書いておいて、その時間内に受付しますって感じで」
「分かった。新たに予約用紙が欲しい人には?」
「それもお店に用紙を取りに来てもらうことにしようか」
「分かった。じゃあ予約の受付をする人が必ず一人はお店に必要だね」
「うん」
後は予約が殺到しすぎた場合だよね。基本的には予約用紙を受け取るときに、受け取りに来てもらう日時と時間を指定したい。そこまで殺到しない限りは次の日で問題なく作れると思うんだけど、最初は殺到するかな……
「それで予約を受理するときに、受け取り日時も指定して欲しいんだ」
「確かに必要だよね。じゃあ予約用紙には店で予約を受理したサインをして、お客様に持ち帰ってもらうことにする? 予約の内容はお店の台帳を作って記入することにして」
「確かにその方が良いかも。じゃあそれでいこう。それで受け取りの時に予約用紙を持参して貰えば、間違えることはないね」
「うん。じゃあそれも準備するよ」
あとは混雑対策だな。
「それから最初は予約が殺到すると思うんだ。だから下位貴族の予約は基本的に受け取りの日時を二日後や三日後にして、高位貴族の予約を次の日にして欲しい。下位貴族の方が先にスイーツを受け取ったってなったら、絶対に苦情がくるから。特に最初の一回目は身分を気にした方が良いと思う」
「確かにその苦情絶対に来る」
ロニーはうんざりしたような表情を浮かべて、身分順で受け取り日時を指定と紙に記した。
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