第297話 後任の店長
「文官って僕以外には何人雇うの?」
「まだ全然決めてないんだよね。でも経験者は一人いた方が良いかな?」
「そうだね。お店の経営の方ならまだしも、貴族家の経理とかは経験者がいた方が絶対に良いよ。僕も学べたらありがたいし」
「じゃあそこもアレクシス様とリシャール様に相談してみるよ」
「ありがとう」
そうしてロニーとの話が一段落し、俺はアンヌとエバンの方に体を向けた。
「アンヌとエバンはどうかな?」
「私は喜んでお受けいたします。これからはジャパーニス大公家の兵士として、レオン様とそのご家族をお守りできればと思います」
「エバン、ありがとう」
「私も喜んでお受けいたします。私の経験がレオン様のお役に立てるのでしたら、それはとても嬉しいことでございます」
「そう言ってもらえると俺も嬉しいよ。アンヌもありがとう」
皆快く頷いてくれて良かった……。皆が気持ちよく働けるように頑張ろう。
「皆、本当にありがとう。これからもよろしくね」
「はい。よろしくお願いいたします」
これでジャパーニス大公家の主要メンバーが少しは決まったかな。まだまだ足りないけど中心となる人物が決まると、さらにその人物が信頼できる人達だと一気に安心できる。やっぱり信頼できる人材って大切だ。
「じゃあこれからの皆の仕事についてだけど、とりあえずは今のままこのお店で働いていてほしいんだ。大公家の屋敷もまだないし他の使用人も雇ってないからね。最低でも冬の間はこのお店で働いてもらうことになると思う。だからその期間で、皆がこのお店にいなくても問題なくお店が運営できるようにしてもらえないかな? ちょっとそれは難しい?」
「いえ、問題ありません。私がいなくても完璧な仕事ができるよう、給仕担当を鍛えておきます」
「護衛もです」
「厨房も、私がいなくても完璧なスイーツを作れるように技術を伝えておきます」
「良かった。ありがとう」
とりあえずこれで四人がいなくなってもお店は回せるかな。あとは皆が後任を育ててくれている間に、新しい従業員を入れよう。四人の抜けた穴を埋める人材が必要だ。できる限り早めに募集したいな。
「レオン、僕はどうすれば良いかな? しばらくはこのお店の店長としてやってれば良い?」
「うん、今まで通り店長としてお願い。そして新たに店長となる人が決まったら、その人に早めに引き継ぎをしてほしいんだ。ロニーは他の三人よりも早くに大公家の方で仕事を開始して欲しいから。屋敷がないからしばらくはタウンゼント公爵家が職場になるんだけど……」
「分かった。じゃあすぐに引き継げるように色々と整理をしておくね」
「ありがとう。よろしくね」
店長となる人材はかなり大切だし、どうやって選べば良いのか。信頼できて能力もあってなおかつ従業員とも仲良くできて、全体をまとめるロニーとも仲良く出来る人が良い。そんな人見つかるだろうか。
平民からだと教育が大変すぎるから、せめて最低限の能力がある人が良いよね。そうなるとやっぱり王立学校を卒業してる人が良いんだけど……
うーん、難しい気がするな。狙い目は準貴族の子供達あたりかな。その辺ならまだ教育も受けてるだろうし。
あっ……待って、今適任を思いついたかも。アルテュルはどうだろう? アルテュルなら能力は申し分ないと思うし、貴族のこともちゃんと知っている。偏ってた知識も今は改善されてるし。
ちょっと心配なのは貴族と関わって嫌味を言われないかなってことだけど、多分それは今後一生アルテュルに付き纏うことだと思うし、乗り越えるしかないだろう。
アルテュルの弟妹が王都に来たら、三人合わせて従業員寮に入れようと思ってたんだよね。ちょうど良いかもしれない。
「あのさ、ロニーの後任にアルテュルはどうかな?」
「アルテュルって……王立学校のAクラスにいたアルテュル様?」
「そう。色々あって今はもう貴族じゃなくなったけど、アルテュル本人は悪い人じゃないんだ。この前の時も事前に危険を知らせてくれて、俺を助けようとしてくれたし」
皆はアルテュルのことは知らないだろうけど、色々あって貴族じゃなくなったという話でこの前の騒動が思い当たったらしい。
この前のいくつかの貴族家による謀反はすぐに鎮圧されたけれど、噂は市井にまで広がっている。それによって貴族家のいくつかがお取り潰しになったことも。
「レオンはアルテュル様のことを信頼できるの?」
ロニーに真剣な表情でそう聞かれた。俺はそれにしっかりと頷く。
「うん、信じられるよ」
「……それなら僕は、反対しないよ」
ロニーは表情を緩めてそう言ってくれた。
「本当……?」
「まあちょっとやりづらい気もするけど……貴族じゃなくなったのなら対等ってことだよね?」
「うん。ロニーの方が上司ってことになるかな」
「それなら普通に接するよ。元貴族ならちゃんと教育を受けてるだろうし、平民で教育を受けたことない人を連れて来られるよりはありがたいかな」
ロニーは少し苦笑しつつそう言った。
凄く嬉しい……アルテュルのことを普通に受け入れてくれたっていうのもそうだけど、何よりも俺のことを信じてくれてるっていうのが嬉しい。
「ロニー本当にありがとう。皆はどう思う……?」
「私はレオン様の決定に従います。それにこの前の騒動で生き残っているのならば、本当にレオン様の助けになったのでしょうし……」
そう言ったのはエバンだ。
「私も問題ありません」
「私は貴族のことはよくわかりませんが、レオン様が信じている方なら大丈夫だと思います」
アンヌとヨアンもそう言ってくれる。
「皆、俺を信じてくれてありがとう。じゃあ後任の店長はアルテュルにする」
「分かった。そのつもりで心構えをしておくね」
「うん。……あとそのアルテュルの話で、皆にしておかなければならないことが一つあるんだけど」
俺はそう言って皆の顔を見回した。
「実はアルテュルには二人の弟妹がいて、その二人はまだ幼いからってことで今回の処罰の対象からは逃れたんだ。そこで俺がアルテュルと一緒に面倒を見る約束をしたんだけど、しばらく三人を従業員寮に住まわせても良いかな? アルテュルはここで働くからもちろんなんだけど、幼い二人も一緒でも良い……?」
「弟妹とは、歳は幾つなのでしょう?」
「まだ一歳になってない子と、三歳ぐらいの子だって」
それを聞いたアンヌは少し難しい顔をする。
「その歳ですと、世話をするのは流石に難しいかと……」
「あっ、アンヌ達に世話をしてほしいわけじゃないんだ。そこは乳母さんを雇うから。でも子供がいたら騒がしくなるでしょう? そこが大丈夫かなと思って……」
「そういうことでしたら私としては全く問題ありません。もし夜泣きなどがうるさいようでしたら、部屋割りを考えれば良いですし」
「皆はどうかな?」
皆を見回すと、特に嫌そうな顔をしている人はいない。
「乳母がいるのでしたら問題ありません」
「私もです」
「僕もだよ。小さな子がいる環境には慣れてるし」
確かにそうか。ロニーは孤児院出身だし他の皆も孤児院から来たから、小さい子の世話は慣れてるのかも。二人を育てるには良い環境なのかもしれないな。
「ありがとう。じゃあ、あと数週間で三人が来ると思うけどよろしくね」
「かしこまりました。……レオン様、私たちはいつまで従業員寮にいても良いのでしょうか?」
そう聞いたのはアンヌだ。確かにもうジャパーニス大公家で雇うことになるんだよね。うーん、でも屋敷ができるまでは引っ越してもらう場所もないし仕事もお店のままだし……、しばらくは今のままかな。
「屋敷が完成するまでは従業員寮かな。そのあとは屋敷に引っ越してもらうよ」
「かしこまりました。ではそのように心得ておきます」
「うん、よろしくね」
とりあえず話はこんな感じかな。あとこれからやるべきことは……そうだ、とりあえず早急に従業員の募集をしないと。流石にこの四人が抜けたらこのお店が回らなくなる。
「ロニー、四人がこのお店から抜けるから、給仕と護衛、料理人を二人ずつ追加で雇いたいんだ。募集を出しておいてくれる?」
「それは良いけど、一人ずつじゃなくて良いの?」
「うん。皆ができる仕事量を一人でこなせる人なんていないだろうから。それに新しい店舗を作る時のためにも、従業員は少し余裕を持った人数にしておきたいんだ。だから給仕と護衛はそれぞれ三人でも良いかも」
「確かにこの店って余裕ないよね。分かった、じゃあ募集を出しておくね」
「ありがとう。人選はロニーに任せるよ。ロニーがこのお店で働くに値すると思った人を雇って欲しい」
「それ責任重大だね……分かった。頑張ってみる」
「うん、よろしくね」
よしっ、とりあえず皆に話すことはこのぐらいかな。あとはこのお店の開店についてと新しいレシピについてだけど、そこはロニーとヨアンと話し合えば良いだろう。
「じゃあこの後はお店をいつ開店させるのかと新しいレシピについて話したいから、ロニーとヨアンだけ残ってくれる? アンヌとエバンは仕事に戻って良いよ。集まってくれてありがとう」
「いえ、またいつでもお呼びください。では失礼いたします」
「失礼いたします」
そうして、二人は休憩室から出ていった。
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