第294話 スイーツのレシピ集
まずは洋菓子からだ。スポンジケーキとロールケーキはもう完成してるから、まずはシフォンケーキかな。シフォンケーキの作り方は卵黄にグラニュー糖、油、水、薄力粉、メレンゲ……
そうだ、メレンゲだ!!
あの白いやつ。卵白を混ぜるとできるやつ。あれメレンゲって名前だったよ。あぁ〜めちゃくちゃスッキリした!
思い出せなくてヨガードって名前にしちゃったんだよね。もう今更メレンゲには戻せないよな……
まあ仕方ないか。この世界でメレンゲはヨガードってことにしよう。
それにしてもレシピ本って凄すぎる。うろ覚えの知識で試行錯誤して失敗しつつ作ってたのに、ここには完璧な正解が書いてあるんだ。この本プライスレスだよ。日本では数千円で売ってたことが信じられない。
ちゃんと隅々まで読んで有効活用しよう。よしっ、それでシフォンケーキはこの世界で作れるかな?
……うん、シフォンケーキは作れる気がするね。だってスポンジケーキのバターを油に変えただけだ。バターを油に変えるとスポンジケーキがシフォンケーキになるって書いておこう。
じゃあ次は……チーズケーキだ。チーズケーキ作りたかったんだよね。材料はクリームチーズ、生クリーム、ヨーグルト、ゼラチン、水、レモン汁、砂糖。それから土台はビスケット、牛乳、バター。
はい、ちょっと無理かもしれない。一番難易度高そうなのがヨーグルトだ。この世界でヨーグルトは見たことがない。ヨーグルトって牛乳から作られてるんだよね……? 乳酸菌とか聞いたことあるから、牛乳を発酵させたやつかな?
よく分からないから自分で作るにしても難しいな。今の俺には不可能だ。次の本は自家製ヨーグルトの作り方にしてもらうか……でも日本でしか手に入らない作り方が載ってても意味ないんだよね。
とりあえずヨーグルトは後回しにしよう。次に問題なのがゼラチンだ。そもそもなんだけど、ゼラチンってなに? いや、名前は知ってるんだよ。でも実物は見たことない。どうやって手に入れれば良いのか見当もつかない。
植物なのか、何かしら化学物質的なものなのか、動物性のものなのか。それすらも全く分からない。何となく俺の予想だと……植物かな。完全に勘だけど。……ヨーグルトよりこっちの方が手に入らないかもしれないな。
それにクリームチーズも手に入れるのは大変だろう。この世界にチーズは普通にあるんだけど、日本にあったようにたくさんの種類があるわけじゃないんだよね。だからこのレシピ本で想定されているクリームチーズがなかった場合は厳しいと思う。
……うん、あれだね、レアチーズは後回しだ。こっちのベイクドチーズケーキならまだいけるかも。これならヨーグルトもゼラチンもないし。クリームチーズだけ手に入れられれば作れそうだ。クリームチーズはこの世界で手に入るチーズを全て試してみれば良いもんね。
よしっ、チーズケーキはまずベイクドチーズケーキからにしよう。
――それから数時間、俺はひたすらレシピ本を読み込んで、この世界で作れそうなレシピをメモしていった。その結果分かったことは、洋菓子は作れそうなやつが多い!
レアチーズケーキみたいにいくつか例外はあるけど、ほとんどのものが今すぐ手に入る材料で作れそうだったんだ。洋菓子はかなり種類が増やせると思う。
でも和菓子は手に入らない材料のオンパレードだった。まず上新粉とか白玉粉とか団子粉とか、この辺の粉って多分原料が米だと思うんだよね。だから今は手に入らない。
それから重曹やベーキングパウダーが必要なものも結構あって、生地を膨らませるためだと思うんだけど、この世界でどうやって手に入れれば良いのか分からない。
あとは寒天もこの世界で一度も聞いたことないし、みりんもこの世界では聞いたことがない。
唯一餡子だけは作れそうだった。小豆はこの世界でも売ってるから、それを買えば作れる。でも餡子だけ作ってもね……
だからとりあえず和菓子は後回しかな。まずは洋菓子を充実させて、それがひと段落してから和菓子に取り掛かろう。俺も洋菓子の方が好きだし。
そうなると次に欲しいのは、カカオをどうやってチョコレートにするのかについての本かな。ヨアンもかなり苦戦してるみたいだし、やっぱりこうして見てるとチョコのお菓子ってかなり多い。
俺はそこまで考えたところで大きく伸びをして体をほぐした。うぅ〜ん、疲れた……
「終わったの?」
目の前のソファに座ってずっとあの魔人、クドゥフェーニを監視していたミシュリーヌ様が口を開いた。今回で一番驚いたのは、ミシュリーヌ様も真面目に仕事するんだなってことかもしれない。
ミシュリーヌ様のことだいぶ見直したよ。
「とりあえず終わりました」
「どうかしら? 作れそう!?」
ミシュリーヌ様は途端に瞳を輝かせて身を乗り出してくる。ははっ、こういうところはやっぱりミシュリーヌ様だな。
「洋菓子は結構作れそうです。チョコが必要なものとそのほかにいくつか難しいものはありますが、それ以外は大体作れると思います」
「さすがレオンよ! やったわ!」
「でも和菓子は難しいですね。まず米がないと作れないものがたくさんあるんです。それに寒天や重曹、ベーキングパウダーとかがないので……」
「米は……魔物の森にあるわよ。後のやつは知らないけど」
神様も知らないことってあるんだね。でもそうか、これって日本の知識か。そうなるとシェリフィー様に聞けば寒天はどうすれば手に入るのかとか教えてくれるんだろうな……
まあ知識を別の世界に持ち込むのは大変って言ってたし、多分教えてくれないだろうけど。
あれ? でもミシュリーヌ様がこの世界を日本風の世界にしたんだよね? それなら寒天とか知らないのかな? 寒天って多分なんだけど、何かの植物とか、そんなやつから作られるんだった気がする。
「この世界の植物って日本と同じものがたくさんありますけど、それってミシュリーヌ様が作ったんですよね?」
「そうよ! ふふっ、凄いでしょ」
そうですね、ドヤ顔が凄いです。
「凄いですね。それでなんですけど、寒天って多分何かの植物からできているんだと思うのですが、ミシュリーヌ様はご存知ないのでしょうか?」
「うーん、そんなの覚えてないわね。最初の頃はシェリフィーに日本の植物一覧を貰って、とにかく必死にそれに近いものを作ったのよ。数が多すぎて覚えてないし、そもそもその植物が何に使われてたのとかは一切知らないもの」
へぇ〜神様ってそんな感じなんだな。でもこの国にいて日本と同じような植物をかなり見るから、ミシュリーヌ様が頑張ったんだろうなってことはわかる。日本に似せなかったら、魔物の森みたいに意味不明な森になってた可能性もあるんだもんね……
「そうなのですね。ではやっぱり和菓子は後回しにします。まずは魔物の森の問題を解決して、米を定期的に得られるようになってからですね」
「……しょうがないわね。でも洋菓子は頼むわよ!」
「分かってます」
ミシュリーヌ様の勢いに思わず苦笑いだ。本当にスイーツが好きだよね。日本のスイーツバイキングとかに行ったら大興奮で倒れそう。
「何笑ってるのよ……」
「ふふっ……ごめんなさい。本当にスイーツが好きなんだなと思って」
「当然でしょ! あんなに甘くてふわふわでとろけるのよ! 口の中が幸せになるのよ!?」
ミシュリーヌ様が熱弁を奮っている。確かにそれは分かるんだけどね。
「確かに俺も好きなので分かりますよ」
「レオン本当!? 仲間じゃない!」
いや、ミシュリーヌ様の仲間ってほど俺は熱量がないんですけど……
「あっそうだ、ミシュリーヌ様、そういえば聞きたいことがあったんです」
俺はミシュリーヌ様の熱量が凄いので一度話を逸らそうと思い、少し不自然ながらもスイーツの話を遮った。実際にずっと聞きたかったことが一つあるのだ。
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