第292話 連携の確認と今後の予定

「じゃあ決めた隊列で、いくつものパターンを想定して連携の確認をしようか」

「はい。ではまず前から魔物が来た場合、さらにその魔物がバレットで倒せる想定からいきましょう」


 魔物は前からも後ろからも横からも上からも来る。いくらバリアで守られているとはいえ、万が一もあるのだからしっかりと警戒しながら進まないとダメだろう。それから魔物の種類によって対処も変わる。


「分かった。前から魔物が来た場合は基本的にレオンが倒すので良いのか?」

「はい。それで問題ありません。しかし私の魔力は何か想定外の事態が起きた時のために半分は残しておきたいので、もし私の魔力が半分を切りトリスタン様かフレデリック様の魔力があった場合は、お二人に攻撃をお願いするかもしれません」

「ではその時は臨機応変に動こう。もし三人とも魔力がなければ?」

「その場合は、もうその日の移動はやめて休憩をします」


 とにかく魔力が切れるまで移動して、魔力がなくなったら大きなバリアを発動させてその中で休憩。交代で寝て魔力と体力を回復させる。そして全員が回復したらまた移動。その繰り返しだ。


「夜は大きなバリアの中で寝るんだよな?」

「はい。魔物の森の中に私が開けた空間を作り、そこにバリアを張ってその中で寝ます。二人一組で見張りをしつつ交代で休みましょう」

「分かった。それも一度ここで試してみたいね。どんな感じになるのか」

「わかりました。では先に連携の確認をやってしまいましょう。次は右側から魔物が現れた場合です。今度の魔物は…………」



 ――そうして、それから二時間ほどかけて様々なパターンを想定して連携の確認をした。バリアが解除されて剣で戦うことになる想定もして、隣り合って剣で戦う時にお互い邪魔にならないように、そんなことも考えた。


 これで当日は慌てることなく対処できると思う。あと必要なのは連携ではなく個人での鍛練だ。俺はとにかく魔力を増やして転移やバリアの精度を高める。それから身体強化をもっと効率よく使えるようにする。

 他の三人はとにかく魔法の命中率を上げること。そして持久力を高めるために基礎的な鍛練が中心だ。


「とりあえず今後の方針は分かったよ。どんな鍛練をすれば良いのかも」

「ああ、とにかく魔法の命中率と体力だな。俺は体力には自信があるが怠らずに鍛練をしておく」

「俺もしっかりと鍛練しておこう」

「よろしくお願いします」

「じゃあ最後に休憩時や夜寝る時の確認をして、今日は終わりとしようか」

「はい。ではバリアを出しますね」


 俺はアイテムボックスから休憩時用のバリアの魔法具を取り出して、それを起動させた。


「おおっ、結構広いね」

「はい。この中で食事も睡眠もとるので広くしてあります。ここにベッドを二つ設置して、テーブルと椅子、さらにトイレを設置して……これで完成です」


 魔物の森の中で何週間も、下手したら季節ひとつ分ぐらいは過ごすかもしれないのだ。この中は最低限でも快適にしようと思ってこれらの家具は持ち込むことにした。

 トイレは持ち運びトイレを設置して、その周りを大きな木箱で覆う。もちろん木箱はドア付きだ。本当はお風呂とかも設置したいけど、流石に魔物の森で裸になるのは危険すぎるからやめた。数日に一度ピュリフィケイションをすれば良いだろう。


「レ、レオン……? 本当に魔物の森でこの空間を作り出すのか?」

「はい。快適で良いと思いませんか?」

「確かにそうだが……何というか、非常識だな」

「ふふっ、はははっ、レオン流石だよ。こう来るとは思わなかった。これは快適で良いね」


 フレデリック様には非常識と言われたけど、トリスタン様は肯定してくれている。うん、やっぱり快適さ重要ですよね!


「レオン、これはもし魔物に襲われた場合はどうするのだ?」


 ジェラルド様は冷静な意見だ。


「はい。すぐにアイテムボックスに仕舞うこともできますし、それが無理だとしても代えはいくつもあるので大丈夫です」

「そうか、それなら良いんだ。それにしても凄いな……」

「料理も私が基本的にはアイテムボックスで持ち込みますので、出来立てを食べていただけます。皆さんにお渡ししたアイテムボックスの魔法具に、ご自分が食べたい物を入れていただくのでも大丈夫です。もし魔力が切れてしまった時が心配でしたら、言っていただければ私のアイテムボックスにお入れします」


 俺がそうして説明をしていると、皆はもう苦笑いだ。


「テーブルについて出来立ての食事をいただくなど、魔物の森の中とは思えないね……」

「それにベッドで寝られるのもあり得ませんよ」

「トイレまであるんだぞ……」


 ぽつぽつとそんな話をしながら遠い目をしている。確かに自分でも常識ないかなぁとは思ったんだよ? でも使える能力はフル活用しないとね。


 俺はまだ遠い目をしている三人を現実に引き戻すために声をかけた。


「ではこれで本日の確認は終わりで良いでしょうか?」

「そうだね、もう十分だよ。あとは魔物の森に行く日まで鍛練をして情報収集しておく」

「ありがとうございます」

「そういえばレオン、魔物の森へはいつ出立するんだ?」


 そう聞いたのはフレデリック様だ。

 時期をいつにするのかも大切だよね。実はまだ決まってないんだ。魔物の森の被害を少しでも減らすためにはできる限り早めが良いと思うんだけど、もう少し準備期間も欲しいんだよね……


「アレクシス様には出立する日は自由に決めて良いと言われています。しかし出立のパレードをするので、一週間は余裕をもって伝えて欲しいとのことです」

「出立のパレード?」

「はい。中心街からその外までパレードで回りながら王都を出るそうです。さらに王都を出てからも、途中にある街へは極力寄ってパレードをするとのことです」

「そんなことをやるのか……」


 アレクシス様曰く、使徒様が魔物の森への脅威から国を守ってくれるというアピールなんだそうだ。平民にも使徒様の素晴らしさを広めたので、パレードはかなりの効果が見込めるらしい。

 そしてその使徒様はこの国の貴族で王女様と婚約中、これ以上王家の人気を高められる機会はないと、アレクシス様は黒い笑顔を浮かべていた。

 まあ、俺はこの国が平和でいて欲しいからその手助けならいくらでもするけどね。


 そんな催しをやるからこそ、トリスタン様が参加することがより活きてくるそうだ。やはり使徒様と王族でってところが重要なんだろう。

 もう表立って王家に反発する貴族はいなくなったけど、王家の力が強い方が色々やりやすいんだろうからね。俺としてもアレクシス様がその力を悪い方に使うとは思えないし、利用されるのも問題はない。


 さらに時空の歪みを塞いでも魔物の森がなくなるわけじゃないから、魔物の森の駆逐は人海戦術でやっていかないといけない。そのモチベーション維持や人員確保のためにも大々的なパレードが効果的らしい。それを見た平民の力自慢が、俺も自分の住んでる国を守るんだ! って兵士の募集とかに応募してくるんだそうだ。


「それは凄く目立ちそうだね」

「かなり目立つと思います。ちょっとだけ憂鬱です……」

「分かるよ。でも国のためによろしく頼むよ」

「はい。しっかりと役目は果たします」


 ちょっとというか、結構憂鬱だけどやるしかないよね。確かに魔物の森の脅威を周知することと、それを抑え込むための策は必要だ。


「では話を戻すけど、出立日はいつにする?」

「そうですね……三週間後ではどうでしょうか?」


 そのぐらいあれば準備は十分終わるだろう。


「ふむ、確かに準備も終わって良い頃合いかもしれないね。使徒様の存在もその頃にはかなり知れ渡っているだろうし」

「では三週間後にいたしましょう。フレデリック様とジェラルド様もそれでよろしいでしょうか?」

「ああ、問題ない」

「俺もだ」

「ではアレクシス様に伝えておきます」


 そうしてその日は魔法の授業から連携の確認、さらにその他各種話し合いをして終わりとなった。

 魔物の森に行くのはかなり怖いけど、とにかく頑張ろう。そう心に誓った。

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