第291話 魔法の試し撃ち

「では早速、実践してみませんか?」


 俺のその言葉に三人はすぐに立ち上がった。早く試したかったみたいだ。


「ああ、それが良いな。第三騎士団の訓練場を一つ貸し切ってあるから、そこへ行こう」

「そうなのですか! ありがとうございます」


 貸切なんて凄い、さすが団長だ。でも使徒と王弟と第三騎士団団長と近衛騎士なんだもんね……改めて凄いメンバーだ。


 ロジェがドアを開けてくれたので部屋から出て、ローランとも合流して訓練場に向かう。トリスタン様の護衛の人も部屋の外にいたみたいだ。


「そういえば、皆さんバリアは使ってみましたか?」

「ああ、俺はどこまでやれば壊れるのか試してみたんだが、あれは相当頑丈だな……」

「私もやってみたよ。正直あのバリアが壊される想像ができないぐらいだったかな」


 やっぱりそう思うよね。俺もやってみたけど、かなり魔力を込めたバレットを近距離から撃っても壊れないほどだった。


「やはりそうですよね……ですが油断しないようにお願いします。……魔人の件もありますし」


 俺は最後の言葉を三人にしか聞こえないよう口にした。この三人には魔人のこともちゃんと伝えてある。


「あのバリアを簡単に破ったんだったね。それにレオンより強いとか……」

「はい。正直かなり怖いです」


 魔物の森で鉢合わせたらどうなるのかわからない。あれから魔力を増やすために頑張ってるし、鍛錬も増やしてはいるけど……


「私達もそこは覚悟してるよ」

「ああ、最悪レオンだけでも逃げてくれ」

「……はい」


 魔人ともし鉢合わせして勝てないと思ったら、俺は三人を囮にして逃げてくれと言われているんだ。絶対に了承したくない事なんだけど……、使徒としては生きて逃げることが最優先だと、三人はレオンを助けるためにいるんだと、そう言われたら頷くしかなかった。


 でも絶対に三人を見捨てるなんてことしたくない。だからあの魔人に勝てるようにもっと強くなれば良いんだと、最近はとにかく鍛えている。

 向こうが使えないバリアと転移、それからアイテムボックスを使ってなんとか勝ちたい。一番は魔人が向こうの世界にいるうちに穴を塞げる事なんだけどね。



 そんなことを考えつつ歩いていると、訓練場に辿り着いた。かなり広い訓練場を貸し切ってくれたみたいだ。


「ではまず何からしようか。魔法の試し撃ちからでも良いかな?」

「はい。ただこの後のためにも、魔力は残しておいてください」

「分かっているよ。ではジェラルド、魔法を撃つ的はあるかな?」

「もちろんです。準備いたします」


 そうしてジェラルド様が魔法を撃つための的を三つ設置してくれて、その前にそれぞれ三人が並んだ。距離は十メートルほど離れている。


「じゃあ私からいこう」


 トリスタン様がそう宣言をして、空中にバレットを作り出し的に向かって打ち出した。するとバレットはかなりの速度で木製の的を突き抜けて、その後ろに積んである藁に突き刺さった。

 うん、的のど真ん中を突き抜けてるし威力も申し分ない。完璧だな。


「レオン、どうだろうか?」

「素晴らしいです。あとは動いているものに当てられるよう、魔物の森に行くまで練習していただけますか?」

「分かった。しっかりやっておくよ。では次はフレデリック」

「かしこまりした。『バレット』」


 フレデリック様のバレットもトリスタン様と同じような軌道を辿り、藁に突き刺さった。問題なさそうだな。


「フレデリック様も問題ないですね」

「ああ、魔力の消費量も少なくなっている」

「それなら良かったです。では最後にジェラルド様お願いします」

「分かった。『ファイヤーボール』」


 ジェラルド様のファイヤーボールは的に当たると、的を少しだけ焦がして消えた。……やっぱりバレットの方が圧倒的に威力があるな。

 ファイヤーボールももう少し魔力消費を増やせば、火力が上がって一瞬で的を黒焦げにできるのだろうけど、それをすると数回で魔力が尽きてしまう。

 やっぱりファイヤーボールは燃えやすい毛皮を持つ魔物や、バレットが通らない魔物に対してかな。


「ジェラルド様もコントロールに問題はないですね。しかしやはりバレットの方が少ない魔力で攻撃力が高いので、基本的にはトリスタン様とフレデリック様に攻撃はお願いします。毛皮が燃えやすそうな魔物やバレットが通らない魔物は、ジェラルド様にお願いしたいです」

「確かにそうだな。了解した」

「ありがとうございます。皆さんは今使った魔法を魔力が最大あるところから何回程使えますか? どの程度で魔力が尽きるのか把握しておきたいのですが……」


 俺がそう言うと三人は難しい顔で考え込んだ。そして最初に顔を上げたのはジェラルド様だ。


「多分だが、十回は難しいと思う」

「では余裕を考えると八回ほどでしょうか?」

「そうなるな」

「分かりました」


 やっぱりジェラルド様は魔力の消費効率がそこまで上がってないな。でも一日で八回ということは、バレットが通らない魔物に対してだけなら問題ないだろう。


「俺は三十回ほどだ。もう少し多いかもしれない」

「私は五十回かな」


 おおっ、二人とも優秀! それだけ使えれば十分だろう。この二人の魔力がなくなりそうになったら休んで休憩、魔力が回復したらまた先を急ぐって感じになるかな。

 あとは俺の魔力をどこまで消費するかが問題になるけど、ほとんど残ってない状態で強い魔物が来たり魔人が来たら困るから半分は残しておきたい。


「お二人とも素晴らしい数ですね。それだけ使えれば一日で移動できる距離も増えそうです。では魔物の森での移動についてなのですが、隊列はいかがいたしますか?」

「隊列は縦にするんだよな?」


 そう聞いてきたのはジェラルド様だ。


「はい。誰も足を踏み入れたことのない森に入るとなると狭い場所も通りますし、一列が良いかなと思っています」

「俺も同意見だ。あとは順番が問題だな」


 順番はかなり悩むんだよね。でも先頭は絶対に俺が良いと思う。というよりも俺じゃないと進めないだろう。

 人の手が一切入ってない魔物の森に足を踏み入れるのだから、魔植物を切り倒して進まなきゃいけないところも多いと思う。そうなった時に一々バリアを解除して剣で道を作っていたら、何年経っても魔物の森の奥に辿り着けない。


 だから先頭は俺で、バリアの剣でどんどん道を作り出しつつ進みたい。自分を守るのはバリアの魔法具にするからバリアの剣も使えるし、あれならかなり硬いものでもスパスパ切れるから問題ないと思う。


「先頭は俺でいきます。魔植物が生い茂っているので、それをバリアの剣で切り倒して道を作る役をやります」

「確かに、その役目私達にはできないな。ではレオンに頼むよ」

「お任せください。そしてその後ろの隊列なのですが、トリスタン様、ジェラルド様、フレデリック様の順はいかがでしょうか?」


 俺が悩みながらも決めた隊列を話すと、三人は不思議そうに首を傾げた。


「理由を聞いてもいいか?」

「はい。まず魔物が襲ってくる場合はどこからくるのかわかりません。なので土属性のお二人を離れた場所に配置したいです。そしてバレットが効かない魔物に対してはジェラルド様がファイヤーボールを使う予定なので、ジェラルド様はどちらにもすぐに駆けつけられるよう真ん中にした方が良いと思いました」

「ふむ、確かにそれは一理あるな」


 ジェラルド様はその説明に納得してくれたようだ。


「レオン、では私とトリスタン様の順序はどのように決めたんだ?」

「はい。そこは経験の差を重視しました。フレデリック様は近衛騎士なので、後ろからの攻撃にも即座に反応できるように訓練されているかなと……。もしお二人で話し合い変更されるのでしたら構いません」

「いや、そう言われると確かにそうだな。ではレオンが決めた隊列でいこう」


 フレデリック様が納得してくれて、他の二人も頷いてくれたところで隊列は決定した。


「ありがとうございます」

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