第290話 宇宙について

『それで結局、今日は何の話なの?』

「今日は宇宙の話を聞きたくて。この星の外側も宇宙なんですか?」

『そうよ?』


 おおっ、そうなんだ。凄くあっさり認めてくれた。


「では地球と繋がっているということでしょうか? 例えばこの世界で宇宙船を作ってひたすら進めば、いずれは地球に辿り着きますか?」

『それは無理ね』

「……何故でしょうか?」

『宇宙が繋がってないからよ』


 宇宙が繋がってない……ってことは、宇宙っていくつもあるの!? なんか凄い話聞いてる。ちょっとテンション上がるんだけど!

 今の俺って地球の研究者にめちゃくちゃ羨ましがられる立場だな。


「宇宙はいくつもあるのですか?」

『うーん、いくつもあるって表現はちょっと違うわね。宇宙という一つの空間、いや概念というのかしら、それは一つしかないわ。でも宇宙はある一定の範囲ごとに区切られているの。そしてその区切られた範囲を私のような神がそれぞれ管理しているのよ。そしてそれぞれの範囲間の移動はできないわ』


 宇宙ってそんな感じで区切られてたのか……ちょっとイメージと違った。どこまでも広がってるものじゃないんだね。


「では宇宙をひたすら進んでいくとして、壁に当たるのですか?」

『違うわ。ひたすら進んで宇宙の区切り部分に辿り着いたら、後はその区切りの部分をまたひたすら進み続けることになるのよ。本人達はそこに辿り着いたことにも気づかず、あとはずっと宇宙の外周を回り続けることになるわ』


 ……うーん、納得できるようなできないような。要するにその宇宙の中に住んでいる人達にとっては、宇宙は無限に広がる場所ってことなのかな?

 というかこれはあれだな、俺の知識じゃ壮大すぎて理解できないんだ。


「ではこの星の外側には宇宙が広がっていて、月や太陽、その他の星もあるということで良いでしょうか。地球があった宇宙と違う点はありますか?」

『基本的にはその認識で良いけれど、厳密には結構違うのよね』

「そうなのですか? 具体的にはどこが違うのでしょうか?」

『そうねぇ……例えばこの星を照らす太陽のエネルギーは地球を照らす太陽とは全く違うものよ。魔素がある関係でそうせざるを得なかったのよね』


 太陽のエネルギーにまで魔素が関係してくるんだ。でもそうだよね、その辺も変えないと魔法のある世界なんか無理なのだろう。


「では月はどうですか?」

『月? そういえば月も全然違うわね。この星に引っ張られないようにするのが大変で大変で結局諦めて、遠くにある巨大な星にしたのよ。地球から見える月と同じようにするのが本当に大変だったわ。まあ全く同じは無理だったけど……月の見え方は地球と違うでしょう?』


 確かにそう言われてみると、最初の頃はちょっと違うなって思ってた気がする。多分満ち欠けとかは全然違う。もう完全に慣れちゃったけどね。


「確かに最初の頃は思ったかもしれません」

『やっぱりそうなのね。私的には凄く頑張ったんだけど……まあとにかくそういう感じで、この星をできる限り地球に近い環境にするために、色々と他の部分は違うことが多いってことよ。やっぱり魔素があると完全に同じは無理なのよ』

「そういうものなんですね。ありがとうございます、勉強になりました」


 とりあえずこの星を地球に近い環境にしたことによって、その他の部分では調整をするためにかなり違う状態になってるってことだろう。

 ミシュリーヌ様も大変なんだね。だってこの星だけじゃなくて他の星も全部管理してるってことだろうから。


 あれ、ということは魔物の森の世界って、宇宙船があれば物理的に行けたりするの……? ミシュリーヌ様が作った星なら同じ宇宙にあるんだよね?


「あの、ミシュリーヌ様、魔物の森がある星もミシュリーヌ様が作ったのなら、同じ宇宙の範囲にあるってことですよね?」

『そうよ?』

「じゃあ宇宙船があれば行けるのですか……?」

『まあ理論としては行けると思うけど、実際は不可能よ。遠すぎるもの。……というかこれ何の話なの? こんな話を聞いても楽しくないでしょう?』

「いえ、すっごく楽しいです」

『そうかしら?』


 この話はほとんどの人がテンション上がるはずだよ。なんだかんだ宇宙とか夢なんだよね。


「色々と教えてくださってありがとうございます」

『別にこの程度ならいつでも話すわよ。……あっ、そうだ。そんなことよりも大事な話があったわ! レオン、早めに神界に来てシェリフィーの本を読みなさいよ』


 そうだ、色々あって忘れてたよ。本を手に入れてくれたんだよね。


「今度読みに行きますね」

『早めにするのよ! ……今からでも良いわよ?』

「いえ、今は忙しいのでまた今度でお願いします。連絡しますので」

『そうなの? まあ良いわ、待ってるわよ!』


 そうしてミシュリーヌ様との通信が切れた。

 ミシュリーヌ様は魔人のことで少し懲りたのか、スイーツを我慢して真面目に監視してるみたいだったな。ちゃんと神力を増やしておいてあげよう。


「皆様お待たせいたしました」

「いや、大丈夫だよ。本当にミシュリーヌ様と話せるんだね……」


 三人は驚いたような、逆にもう驚けないような、そんな複雑な表情を浮かべていた。


「はい。こうしてこれからも話すことがあるかもしれませんが、あまり気にしないでください」


 こうして事前に伝えておけば、独り言が激しい変な奴だとは思われないだろう。ミシュリーヌ様の声は聞こえないからそこが難点なんだ。


「分かったよ。それで、さっきの疑問の答えはわかったのかい?」


 トリスタン様は待ち切れないようにそう聞いた。ミシュリーヌ様の話をまとめると、遠くにある惑星だから落ちてこないってことだよね。


「はい。月が何故落ちてこないのかですよね。それは月がこの星の重力が及ばない場所にあるから、だと思います。難しくて言い切れなくてすみません。……まずそもそもなのですが、私たちが暮らすこの星がどのような形をしているかご存知ですか?」

「どのようなとは、どういう意味だい?」

「大陸の形のことか?」

「いえ、大陸や海、空も含めた全体のことです」


 前の使徒様ってこういう知識を何も伝えてないよね。何か理由があったのだろうか? 魔法のイメージについても全く伝えられてないみたいだし。日本出身なら絶対に気づくはずなのに。


「どのようなと言われても……ずっと海が続いているんじゃないのか?」

「ではその海の先には何があると思われますか?」

「――考えたこともなかったよ。海はどこまでも続くものだと」


 確かにこの世界ってここしか大陸がないから海に出ることもほとんどないし、海が無限に広がってるって考えられててもおかしくないのかも。


「そうなのですね。実はその認識は間違いで、この世界は球体となっているのです」


 俺はそう説明しつつ、土魔法で丸い球体を作り出す。そして大陸部分だけを少しだけ張り出させ、それ以外のところに水魔法で海を作り出した。


「この飛び出た部分が私達がいる大陸です。そしてそれ以外は全て海です。この球体の真ん中に引っ張られるように重力があるので、私達は球体のどこにいても放り出されることなく、地面に立ち海に浮かぶことができます。そして月があるのはこの星の外です。この星の外には宇宙という重力のない空間が広がっていて、その宇宙のずっと遠くにある別の星が月なので、今私達がいる星の重力は影響しません」


 トリスタン様はその説明を聞いて難しい顔をして考え込んでいる。俺の説明下手だよね……でも俺もそこまで詳しくないし、人に教えるのは得意でもないんです。ごめんなさい!


「では私達は、この球体の表面に住んでいるということか? 重力があるからここに居続けられると?」

「そういうことです!」


 トリスタン様の理解力が凄すぎる! 俺の拙い説明で理解してくれるなんて……


「そしてこの星の外側には重力がない空間が広がっていると」

「はい。宇宙と言います」

「そしてその宇宙に月があるのだね」

「そうです。月とはこの星と同じようなものなのです。凄く遠くにあるので小さく見えています。他にもたくさんの星が見えますが、それらが全て宇宙に浮かぶ星のようなものです。今私達がいるのもその中の一つです」

「ふむ……なんとなくは理解できたかな。だけどまだ疑問点が多い。また考えをまとめてからいろいろ質問してもいいかい?」

「もちろんです。では今は話を続けますね」


 これでやっと無重力の話に辿り着ける。


「先ほどから説明していた重力ですが、それがない場合はどうなると思いますか?」

「それは……浮かぶのかな?」

「そうです。どこにも引っ張られないのでふわりと浮かびます。重いものも軽いものも関係なく浮かびます。大きな岩も小さな葉も同じように重さは感じません」

「確かに、重力があるから重さがあるのか」

「はい。イメージが固まってきたでしょうか? ではそのイメージを保持したまま、先ほどのバレットを浮かべてみてください」


 トリスタン様とフレデリック様はかなり真剣な表情で、バレットを掌の上に置き魔法を使った。


「おおっ! レオン、前よりもかなり消費魔力量が減ったぞ」

「多分より深く理解してイメージできるようになったからだと思います。トリスタン様はいかがでしょうか?」

「これは凄い……十分の一ほどの魔力しか使ってないよ」

「良かったです! これができればあとは敵に向けて飛ばすだけです。それも無重力のイメージで消費魔力を減らしてバレットを飛ばせます。正確性については練習あるのみですね」


 やっとここまで来た。本当はバレットの強度を上げるために原子の話もしようと思ったんだけど……とりあえずそれはやめようかな。あれは調節が難しいし、普通に石の硬さで攻撃力には問題ないし。


「しっかりと練習しておくよ」

「よろしくお願いします」

「じゃあレオン、次は俺か!?」


 ジェラルド様が待ち切れないようにそう聞いてきた。ずっとそわそわしてたもんね……それほど魅力的な知識なんだろう。


「はい。では次は火魔法についてお教えしますね。まず火は何故燃えるのかご存知ですか?」

「いや、知らん!」


 ジェラルド様、もうちょっと考えて! 俺は思わず顔に苦笑を浮かべてしまう。


「基本的に火が燃えるには必要なものが三つあるんです。可燃物と熱、それから酸素です」


 でもこの世界だと、これら全てがなくても魔力さえあれば火がおこせるんだから凄い。


「可燃物と熱は分かるが、酸素とはなんだ?」

「酸素とは空気中にある、人が生きていくのに必要不可欠なものです。火が燃えるのにも必要なものになります。例えば今ジェラルド様の目の前には何もありませんよね? でもここには目に見えないけど空気があります。その空気の中の一つの成分が酸素です」

「うん? うーん、なんとなく分かる気がするな。空気というのは風のことだろう?」

「まあ……そういう感じです。その風の中にもいろんな成分があって、その中の一つが酸素です」


 なんとなくは理解してくれてるみたい、かな?


「その酸素をイメージして火魔法を使うと、消費魔力量が減らせるんです。とりあえずやってみてもらえますか?」

「分かった。――おおっ? 今までの三分の一ぐらいになった。これは凄い!」

「本当ですか!」


 成功して良かったぁ〜。俺もそんなに詳しく説明できるわけじゃないから、これ以上の説明は難しかったのだ。

 でもアレクシス様は同じ説明で十分の一になったって言ってたから、そこは理解力によるのかもな……

 まあ、とりあえず良いってことにしよう。またこのあと自分で整理して、理解力が上がることもあるだろう。


「これで魔物の森でも攻撃として使えるな」


 ジェラルド様はそう言ってやる気満々だ。でも火魔法って攻撃にはちょっと微妙なんだよね……


「あのジェラルド様、こんなことを言って良いのかわからないのですが、私の中で火魔法はあまり使い勝手が良いものではないのです。なので基本的にはトリスタン様とフレデリック様に攻撃していただき、バレットで効果がない相手にだけ火魔法で攻撃をしていただきたいです」

「……そうなのか?」

「はい。火魔法は敵を貫くことができませんので、基本的には敵の広範囲を焼いて火傷を負わせて倒すことになります。しかしそれには魔力がかなり必要です。それならば土魔法の方が効率がいいのです」


 この世界で魔法は剣で倒す時の補助的存在だから、魔法だけで敵を倒すって考えがあんまりないんだよね。補助なら火魔法も有効なんだけど今回は魔法で魔物にトドメを刺さないといけないから、それなら断然土魔法が便利だ。


「確かにそうだな……分かった。では俺は土魔法が効かない相手に対してだけ魔法を使おう」

「ありがとうございます。よろしくお願いします」


 よしっ、これで話は終わりで良いかな。あとは実践あるのみだ。

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