第289話 魔法の授業

「まずお二人は、土魔法でどのようなことができますか?」

「私は地面の土を盛り上げたり、穴を作ったりかな」

「俺もそれはできるな。それから前に少しだけレオンに教えてもらったから、遠くに石を作り出したりそれを浮かせたりもできる」


 そういえばフレデリック様には、公爵領に行ったときにちょっと教えたよね。あれから色々ありすぎて忘れかけてた。


「ではトリスタン様に合わせて授業をしていきますが、フレデリック様も聞いていてください」

「分かった」

「まず土属性の方は魔法を攻撃に使うことが少ないと思うのですが、土属性は一番汎用性が高い魔法だと認識してください。攻撃にも有効なのです」


 俺のその言葉に、トリスタン様は不思議そうに首を傾げた。


「だけど土属性で攻撃と言えば、石を作ってそれを投げるぐらいしかないと思うんだけど……」

「いえ、それは大きな間違いです。土魔法は小さな矢じりのようなものを作り、それを魔力で浮かせて敵に命中させる攻撃こそ有用です。一つ作ってみますね」


 俺は自分の手のひらの上にバレットを一つ作った。このバレットの形も試行錯誤して、一番強度があって小さく殺傷能力が高い形にしてある。


「まずはこの形を覚えてください。そしてこのバレットを一瞬で作れるようにしていただきたいです。フレデリック様もどうぞ」


 もう一つバレットを作りフレデリック様に渡す。


「不思議な形だね……」

「私が試してみた結果、これが一番小さくて殺傷能力が高い形なんです」

「興味深い。でもこれを作れるようになったとしても、浮かせたら魔力がすぐになくなると思うけど?」

「いえ、そこはイメージで補えます。まずこの世界の魔法は、どれだけ詳細なイメージをするかによって魔力消費量が変わるのです」


 俺がそう言うと、トリスタン様はしばらく難しい顔をした後にポツリと呟いた。


「それは……大発見じゃないかい?」


 やっぱり結構驚くことなんだね。

 というか、アレクシス様はトリスタン様にもこの話をしてなかったんだな。俺に関しての情報は本当に狭い範囲にしか流してなかったんだろう。


「そうかもしれません。今からそのイメージをお教えしますので、実際に体験してみてください」

「分かった。よろしくね」

「はい。ではまずこの世界には重力というものがあるのですが、その存在をご存知ですか?」

「いや、初めて聞く言葉だよ」

「かしこまりました。……ではこのバレットを今私が指で掴んでいますが、指を離すと下に落ちますよね? これはなぜだと思いますか?」

「それは……そういうものとしか考えたことがなかったな。しかし改めてそう問われると不思議だ。なぜ上や横に行かないで下に落ちるのか……興味深いね」


 トリスタン様はさすが王族なのか頭が良い。スムーズに話が進みそうだ。


「その理由が重力なのです」

「では重力とは、物を下に引っ張る力のことかな?」

「その認識で問題ありません。私達が地面に立っていられるのも座っていられるのも重力があるからです」

「立っていられるのも座っていられるのも……確かによく考えてみたら不思議だ。天井に椅子は固定できないけど床にならば簡単に固定できる。それは下に引っ張られている力が働くからなのか……」


 トリスタン様の瞳がどんどん輝いていく。新しいことを知るのが好きな人なんだろう。

 対照的にジェラルド様はよく分かっていない様子だ。最初はちゃんと聞こうとしてたけど、途中から難しくて自分の属性には関係ないってことで諦めたみたい。

 確かにジェラルド様は勉強が得意っていうよりも、ずっと剣を振ってたいって感じだもんね。


「ではレオン、月が落ちてこないのはなぜかな?」


 おおっ、突然難しいこと聞くな……

 

 というか深く考えたことなかったけど、この世界の外側って地球と同じように宇宙が広がってるのだろうか。月や星も普通にあるからそうだと思い込んでたけど……もしかしたら違うのかな。


 うわぁ、一度気になり始めたらめっちゃ気になる。これもミシュリーヌ様に聞けば教えてくれるのだろうか。不正確な情報を教えるのも微妙だし、一度聞いてみようかな。


「私の知識が正確かどうか、ミシュリーヌ様に確認しても良いでしょうか?」


 この三人の前でならミシュリーヌ様と話すことに問題はないだろうし、魔物の森でも話すことはあるだろうから慣れてもらった方が良いよね。


「確認とはどうやってするのかな?」

「私はいつでもミシュリーヌ様に連絡を取れるのです。神物に触れ、連絡を取りたいという意志をのせて話しかければ私の声が届きます」


 俺のその説明に三人は絶句だ。確かにこれ本当に凄いよね、神様といつでも話せるなんて。


「使徒様だとは分かっているんだけど、本当に驚くね」

「ああ、レオンはそんなことまでできるんだな」

「ミシュリーヌ様と、話せるのか」

「魔物の森でも連絡を取ることがあると思いますので、知っていただければと思います」

「分かった。では好きなだけ話してくれて構わないよ。というよりもぜひ話してくれ」


 トリスタン様は期待した眼差しを俺を向ける。トリスタン様って好奇心旺盛な人なんだな。


「ありがとうございます」


 俺は手に持った本にしっかりと触れ、ミシュリーヌ様に呼びかけた。


「ミシュリーヌ様、お久しぶりです。今お時間大丈夫ですか?」

『ちょっ、ちょっと待ちなさい!』

「どうしたのですか?」

『今久しぶりのスイーツタイムなの! 魔人の監視をするために神力を使ってるから、下界の時間で一週間に一個しか食べられないのよ』

「そうなのですね。じゃあスイーツタイムは後にしましょう。先に話をしてもいいですか?」

『な、なんでよ! 私の至福の時なのよ!』

「でもミシュリーヌ様、よく考えてください。今スイーツは途中まで食べているのですよね?」

『そうよ』

「なら今やめてまた後で食べれば、二回も至福の時を味わえますよ」


 さっきまで騒いでいたミシュリーヌ様が途端に黙った。そして葛藤するような声が聞こえてくる。


『た、確かに、それもそうね。先に話を聞いてあげるわ』

「ありがとうございます」


 ミシュリーヌ様って本当に乗せられやすいなぁ。ちょっと心配になるレベルだ。俺にとっては扱いやすくて楽なんだけど。いや、神様を扱いやすいとか言っちゃいけないか。


『それで何の話なの? 魔人の動きはないわよ』

「監視ありがとうございます。でも今日はその話じゃなくて、いくつか気になる点を質問したいんです」

『別に良いけど……でもその代わりに神力を増やしてくれない? 週に一回は寂しすぎるのよ……』


 確かにずっと監視してくれてるんだし、甘いもの欲しくなるよね。ここはちゃんと神力を渡そうかな。ミシュリーヌ様も頑張ってくれてるし。


「では後でアイテムボックスから神力を増やしておきますね」

『本当!? ありがとう!』

「その代わり、しっかり監視をお願いしますね」

『任せておきなさい。今回こそは完璧にやり遂げるわよ!』

「……よろしくお願いします」


 うん、ミシュリーヌ様がやる気になってると逆に不安感が漂う。でもミシュリーヌ様はかなりやる気みたいだし大丈夫だろう。大丈夫だと信じたい。

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