第288話 雇用についてと西宮殿
それから数日後。
今日は魔物の森に向かうメンバーに魔法の授業をして、戦う際の連携について確認をする予定だ。
俺は公爵家を出て馬車で王宮に向かう。今日は執務室には行かないのでリシャール様とは別の馬車だ。馬車の中には俺とロジェ、それからローランの三人。ローランは俺の護衛に就任してから毎日とても楽しそうに、でも真剣に護衛をしてくれている。
最初はちょっと疲れそうとも思ったんだけど、ローランは意外と無駄口叩かず職務を全うするタイプのようで、たまに、いや頻繁に尊敬の眼差しを向けられる以外に支障はない。
「ローラン、数日護衛の仕事をしてみてどう? 不便はない?」
「はい。とても素晴らしい職場環境です!」
「それなら良かったよ。あと護衛を増やすとしたら何人ぐらい必要だと思う? 家族の護衛も考えると」
俺のその言葉にローランは少しだけ考え込み、ゆっくりと口を開いた。
「やはり、それぞれに最低二人は必要かと思います。レオン様には三人ほどいても良いかと。護衛は権力の象徴でもありますので」
やっぱりそうか。じゃあ最低でもあと八人は個人について貰う護衛が必要ってことだ。さらにそれ以外にも屋敷を警備して貰う兵士も必要だし、相当な人数が必要になるな。
「今回は騎士の皆を引き抜いたけど、兵士からでも良いと思う? あと全く未経験の平民とか」
「そうですね……護衛ではなく兵士として雇う場合でしたら、未経験の平民などでも良いと思います。しかし隊長や副隊長などの立場の者は、しっかりと訓練を受けた元騎士、最低でも元兵士が良いでしょう。護衛は皆様の安全に直結しますので、未経験の者は避けるべきです。まずは兵士として雇い、経験を積んでから護衛に引き上げるのでしたら可能かと思います」
そうなると護衛として雇う八人と兵士をまとめて貰う立場の人を数人、合計十人程度は経験者から雇わないといけないってことだ。そんなに引き抜けるかな……
「ロジェ、そんなに経験者を引き抜けるものなの? 例えば他の貴族家に仕えてた人が、そこを辞めて別の貴族家に行くとかある?」
「家同士が親しい場合はよくあることですが、そうでない場合は情報が渡る可能性もありますし、ほとんど行われません。ですのでレオン様が経験のある騎士や兵士を引き抜くのならば、タウンゼント公爵家やタウンゼント公爵家と懇意にしている貴族家からとなります」
やっぱりそうなのか。そうなるとリシャール様にかなりお世話にならないとだ……
迷惑かけすぎてないかな。リシャール様の仕事を増やしすぎてる気がする。
「リシャール様に迷惑をかけすぎてないかな?」
「あまり気にされる必要はないかと思います。新しい貴族家を作るとなれば大変であることは明白ですので、頼りにされた方が他の貴族に繋がりも示せて良いのではないでしょうか」
……そんな考え方もあるのか。確かに貴族は政略結婚とかで繋がりを作るんだもんね。じゃあ、そこまで気にしすぎずに助けてもらおう。
「確かにそうだね。じゃあまたリシャール様に相談しつつ、護衛と兵士の代表となる人は雇うことにするよ。それ以外の兵士はジャパーニス大公家の名前で広く募集することにしようかな。教会とかに募集出せる?」
「はい。王都中の教会に広く出すことも、中心街の教会にのみ出すことも可能です」
「じゃあ王都中に広く出そうかな」
流石にそこまで募集すればたくさん集まるだろう。そこから面接して良い人を見つければ良いかな。
「かしこまりました。では準備しておきます」
「ありがとう」
今はこういう準備も全部ロジェがやってくれるけど、こういうのって普通は執事やそれ以下の使用人がやるんだよね。他の使用人も雇わないと……
今度護衛と兵士について相談するときに、執事と皆につける従者やメイド、その他の使用人についても相談しよう。そしてそっちも最低限経験者でまとめたら、あとは教会で募集だな。
あとシュガニスで雇ってる皆は今のところお店での雇用になってるんだけど、ロニーとヨアン、それからアンヌとエバンは早めにジャパーニス大公家で雇うことにしよう。
それでロニーにはジャパーニス大公家で文官になってほしいんだ。大公家は領地がないからそこまで仕事はないんだけど、これからもお店を展開していくとなれば必要な人材だろう。
ヨアンはジャパーニス大公家所属のスイーツ主任みたいな感じで、お店でスイーツを作るのではなく屋敷で研究をやって貰うことにしたい。これからはいろんなレシピも手に入ることだし、研究が忙しくなると思うんだ。
アンヌはもし断られなかったら、ジャパーニス大公家のメイド長を務めてもらいたい。アンヌになら安心して任せられる。
そしてエバンには兵士をまとめる立場になってほしい。
今度皆にも話をして意見を聞いてみてかな。またお店か寮に行こう。
そんなことを話し合いながら馬車は進み、王宮に到着した。馬車を降りて向かうのは西宮殿だ。今日は連携の確認のために騎士団の訓練場を借りるので、魔法の授業もその近くの一室ですることになっている。
馬車から降りて西宮殿に向かっていると、たくさんの騎士たちとすれ違う。ほぼ例外なく俺に気づくと跪かれるから凄く居心地が悪い。
俺の顔ってお披露目パーティーの絵姿とかで、結構広まってるのかな? というかあれか、騎士達はあのパーティーにいた人も多いのかもしれない。
敵対貴族はいなくなったから、あからさまに俺を睨んで来る人とかはいないし、どちらかといえば尊敬の眼差しを向けられるので嫌ではないんだけど……うん、とにかく慣れない。
そうしてかなりの注目を浴びながら王宮の使用人の方に案内されること数分、一つの部屋に辿り着いた。中に入ると三人がいる。
「トリスタン様、ジェラルド様、フレデリック様、おはようございます」
「レオンおはよう」
「……凄く注目を浴びていて居心地が悪かったです。俺の顔ってかなり知られてるんですか?」
ソファーに移動しながらそう聞くと、トリスタン様が苦笑しつつ答えてくれた。
「もう貴族で知らない人はいないよ。パーティーに出ていた貴族も多いし、絵姿も出回っているからね」
「やっぱりそうなのですね……」
これからはあれがデフォルトなのか。中央宮殿はあまり人がいないから今まで気づかなかった。
これからの目標の一つに、敬われすぎない親しみやすい使徒を目指すっていうのを追加しようかな。
「じゃあローラン、ローランは部屋の外で誰も中に入ってこないように、また聞き耳を立てないように見張っていてくれる?」
これから話すのは魔法のイメージの話だし、とりあえず不特定多数の人には聞かれない方が良いだろう。
「かしこまりました。では失礼いたします!」
ローランは素直にそう言って部屋の外に出ていく。
「では早速魔法の授業を始めても良いでしょうか?」
「勿論だよ」
「この日を楽しみにしていた」
「俺もだ」
三人は瞳をキラキラとさせてかなり期待している様子だ。いい大人が子供っぽくなるほど魔力効率を上げる方法って魅力的なんだな。
「では土魔法と火魔法、どちらからにいたしますか?」
「それはもちろん土魔法で」
トリスタン様がいい笑顔でそう言って、ジェラルド様が目に見えて落ち込んだ。フレデリック様は密かにガッツポーズをしている。ジェラルド様は流石に王弟に対して反論できないらしい。ジェラルド様、どんまい。
「では土魔法からにいたします」
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