第287話 家族との顔合わせ

「皆ありがとう。じゃあ今度は皆が自己紹介をしようか。父さんから」


 俺のその言葉に、父さんは緊張した面持ちで一歩前に出た。そして恐る恐る口を開く。


「ジ、ジャパーニス前大公の、ジャン・ジャパーニスだよ。よろしく」

「私はその妻、ロアナ・ジャパーニスよ。よろしくね」

「私はマリー! あっ、マリー・ジャパーニス!」


 おおっ、皆は自分の身分を覚えたみたいだ。それだけでもかなり凄い。やっぱり教育って大切だよね。


「よろしくお願いいたします」


 護衛の四人は三人に向けて声を揃えて、また頭を下げた。


「じゃあ皆でソファーに座って話そうか。マリー、ソファーに座ろう? 母さんと父さんも」

「うん!」

「分かったわ」

「護衛の皆もね。ゆっくり話したいから座って」

「かしこまりました」

「ロジェはお茶をお願い」


 そうして皆でソファーに座り、お茶を準備してもらって一息つく。

 四人はソファーに座ってそわそわしているマリーを見て微笑ましげな視線を向けているので、ジャパーニス大公家で働いてもらうのに問題なさそうだ。

 やっぱりマリーはまだじっと座ってるのが大変みたい。というか普通の子供はこうなんだよね。俺の周りにいる子供がおかしいんだ。


「じゃあさっきも言ったけど、改めてこの四人が皆の護衛をしてくれる人達だよ。ジャパーニス大公家で雇うことになったから、これからは皆も雇い主になるからね」


 母さんと父さんはその事実に困惑しながらも、何とか頷いてくれた。公爵家で暮らしているうちに段々と護衛や従者、メイドがいる生活に慣れてきたみたいだ。


「母さん達にずっと付いて守ってくれる人ってことよね」

「そうだよ」

「皆さん、よろしくお願いします」


 母さんは護衛の皆の方にしっかりと体を向けて頭を下げた。父さんもそれに合わせて頭を下げる。マリーもその二人を見てなんとなく頭を下げている。

 うん、やっぱりすぐに意識は変わらないか。俺もいまだに頭を下げそうになるんだ。平民は貴族がいたらとりあえず頭を下げとけって感じだからね……


 でも四人が相当焦ってるから、そろそろ止めてあげた方が良いかな。


「母さん父さん、皆は大公家の人間になったから頭を下げなくて良いんだよ。というよりも下げちゃダメかな。頭を下げるのは王族の方々相手の時だけで良いんだ」

「……でも、それならどうやって頼めば良いんだい?」

「うーん、よろしく頼むって言えば良いんじゃないかな」


 でも父さんのキャラじゃないよね。というか俺のキャラでもないんだよね……でも段々と慣れていかないと。


「よ、よろしく頼む。こんな感じかい……?」


 父さんはちょっと吃りながらそう言った。うん、すっごく違和感。でもそれで正解だ。


「そんな感じで良いと思うよ。というよりも、普通に敬語を知らなかった時みたいに話せば良いんじゃないかな? 隣のおじさんに話す時みたいに話せば良いんだよ」


 皆は今まで敬語なんて知らなかったんだからその時のように、そして平民同士で話す時のように話せば自然になる気がする。皆が敬語を使う相手なんてあんまりいないんだし、それで良いよね。ちょっと盲点だったかも。

 一気に身分が上がりすぎて、逆にほとんど敬語が必要ないって凄いな。


「そうなのかい?」

「うん! それを意識してみたら良いよ」

「それなら簡単そうだ」

「レオン、母さんもそれで良いのかしら?」

「母さんもそれで大丈夫だと思うよ! じゃあとりあえずその話は置いておいて、誰が誰の護衛をするか発表しても良いかな?」


 俺がそう言うと皆は頷いてくれた。皆で話してみてから決めてもらおうかとも思ったんだけど、それだと結局決まらなそうだし俺が決めてしまったのだ。

 なんとなくこの子はマリーかなとか父さんかなとか、話しながら思いついたっていうのもある。そういう直感は大事だよね。


「じゃあ発表します。まずはニコール。ニコールにはマリーの護衛をしてもらいたい。頼めるかな?」

「はっ! 命に代えてもお守りいたします」


 ニコールはその場で立ち上がって深く頭を下げた。


「マリー、マリーのことはこの女の人が守ってくれるからね。名前はニコールって言うんだ。仲良くしてね」


 俺がマリーにそう言うと、マリーはソファーから立ち上がりニコールのところにたたっと駆け寄った。そして下から見上げてニコッと笑いかける。


「お姉ちゃんが私を守ってくれるの?」

「はい。必ずお守りいたします」

「ありがとう! じゃあこれからずっと一緒?」

「いつでもお側についております」

「やったー! じゃあ仲良くなろうね」


 マリーがニコッと笑いかけると、ニコールの凛々しい顔がちょっとだけ崩れた。何とか顔がデレデレしてしまうのを耐えているのか、口元がひくひくしている。

 うん、仲良くなれそうで良かった。


「じゃあマリー戻って。ニコールも座ってね」

「かしこまりました」

「はーい」

「じゃあ次はサンドラ、サンドラは母さんの護衛をよろしく頼むよ」

「かしこまりました。大奥様、私が護衛を務めさせていただきます」


 サンドラも立ち上がりそう言って頭を下げた。


「お、大奥様……?」


 母さんはその呼び名に首を傾げている。確かに旦那様は俺ってことになるから父さんが大旦那様、母さんが大奥様ってことになるのか。

 でも流石にその呼び方は慣れないだろうし、基本的には名前で呼んでもらうことにしようかな。


「母さんの立場は大奥様ってことになるからそう呼ばれるんだけど、慣れないから名前で呼んでもらうことにする?」

「ええ、名前の方が良いわ」

「じゃあサンドラ、皆も名前で呼んであげて。父さんも母さんもね」

「かしこまりました。ではロアナ様、これからよろしくお願いいたします」

「はい。こちらこそよろしくね」


 母さんはサンドラに向けてにっこりと微笑み、サンドラもそれに笑顔で返した。うん、この二人も問題なさそう。サンドラは平民だし話も合うだろう。


「じゃあ次はロレシオ。ロレシオは父さんの護衛をよろしく」

「はっ! ジャン様、これからよろしくお願いいたします」

「うん、よろしく頼むよ。僕はわからないことも多いから迷惑をかけるかもしれないけど、色々教えてもらえると嬉しいかな」

「かしこまりました。私にできることでしたら」


 うん、真面目なロレシオと優しい父さん、相性良さそう。そして最後だ……


「じゃあローランは俺の護衛をよろしくね」

「かしこまりました! レオン様の護衛を務めさせていただけるなど光栄の極み。私はこの命に代えても、いえ、この命が尽きようともレオン様をお守りいたします!」


 命が尽きようともって……本当に幽霊とかになりそうで怖いよ。というかその前に命を大事にしてほしいし。

 まあ、護衛に命を大事にしてなんて言っちゃいけない言葉なんだけど。


「ローランありがとう。頼んだよ」

「はっ!」

「じゃあ、今日から今決めた配置で護衛をよろしくね。これから護衛も増やすと思うけど、今のところは一人しかいないから公爵家から借りてる護衛の方々と協力してね」

「かしこまりました!」


 よしっ、これでとりあえず一人ずつは護衛がついたから、四人が慣れた頃にもう二人ずつぐらい追加したい。あとはメイドや従者もだな。


「お兄ちゃん、ニコールお姉ちゃんに私のお部屋を案内してきても良い?」

「もちろん良いよ。じゃあ、とりあえず今日は解散にしようか。他の皆も護衛するのに必要だと思うからそれぞれの部屋を確認して、これから自分が住むことになる部屋も整えてね」

「かしこまりました」


 そうして護衛の皆はそれぞれの部屋に散っていった。これで少しはジャパーニス大公家として体裁が整ってきたかな。いや、まだまだか……

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