第285話 護衛

 今日もいつものように執務室に入り、まずはアレクシス様に挨拶をする。そして一緒に働く文官達にも挨拶をして、スマートに自分の席に着いた。席についてまずやることは今日の予定の確認。仕事に優先順位をつけて効率よくこなしていくためにも必要な時間だ。

 ロジェに紅茶を入れてもらい、それを飲みながら予定を決めていく。


 執務室で仕事をするようになって数日経った。もう仕事にも慣れて執務室には完全に溶け込んでいる。ふっ、俺も大人になったな……


「レオン、こっちに来てくれるか?」


 そんな馬鹿なことを考えつつ今日も機嫌良く仕事を始めようとしたら、アレクシス様にソファーに座るように言われた。アレクシス様もそっちに移動するみたいだ。


「はい。何のお話でしょうか?」


 俺はソファーに移動してアレクシス様の向かいに座った。


「実はレオンの護衛についての話だ。レオンのというよりも、ジャパーニス大公家のだな」


 護衛か、確かに俺も考えてたんだよね。今までは貴族じゃなかったから護衛はいなかったけど、高位貴族は基本的にどこにいくにも護衛がついているし、俺にも必要だろうなって。それに家族皆にも護衛をつけていたら安心できるし。

 でも信頼できる護衛を見つけるのが大変すぎて困ってたところだったんだ。適当な人を選んで身内の裏切りに合うのが一番最悪だし、かといってタウンゼント公爵家から引き抜くわけにもいかないし……


「私も考えていたのですが良い人材が見つからず……」

「そうだろうと思って私が厳選して選んでおいた。とりあえず四名いれば良いだろう? そこから増やすのは自分で人材を見つければ良い」


 え、選んでくれたの!? それはありがたい。凄くありがたい。アレクシス様が厳選してくれた人なら安心だ。


「ありがたいです。本当にありがとうございます」

「このぐらい当然だ。私が信頼できると思った騎士に声をかけて、その中から特にやる気がありそうな者を選んでおいた。それからレオンのご家族には身分が低い者や平民出身のものを選んだ。その方が打ち解けやすいだろう」

「そんな配慮まで……、本当にありがとうございます」

「良いんだ。それで顔合わせはどうする? 今で良ければ隣の部屋にでも呼ぶが……」

「では、よろしくお願いいたします」

「分かった。ではレオンは少し仕事をして待っていてくれ」

 

 そうして数十分仕事をして待っていると、騎士の方達の準備できたと言われて隣の部屋に案内された。

 部屋に入るとこの前トリスタン様達と会った時と同じように、四人の騎士が跪いていた。


「初めまして、レオン・ジャパーニスです。顔を上げて」


 俺がそう言うと四人は顔を上げた。二人は女性騎士だ。母さんとマリーのために女性を選んでくれたのだろう。


「ではこちらから自己紹介を」

「はっ! 私は第一騎士団所属の騎士であり、ディタリー騎士爵家三女、ニコール・ディタリーでございます」


 そう挨拶をしたのは、綺麗な金髪を後ろでポニーテールにしている若い女性騎士だ。凛々しくてかっこいいって雰囲気を醸し出している。まだ二十代前半ぐらいに見える。


「ニコールだね。よろしく」

「よろしくお願いいたします」

「では次の人」

「はい。私は第二騎士団所属、サンドラと申します。ラファン商会の長女ですので平民です」


 この子は平民なのか。平民の女の子でしかも商会の長女。何で騎士になったのか不思議だ。よほど剣術が好きとか、それとも何かしらの事情があるのかな?

 でも雰囲気は柔らかくて良い子に見える。正直強そうには見えないんだけど、第二騎士団所属ってことは魔物の森に行ってるってことだし強いのだろう。


「サンドラだね。よろしく」

「よろしくお願いいたします」

「じゃあ次の人」

「はっ! 私はローラン・ヴィッテでございます! ヴィッテ男爵家四男で、現在は第一騎士団に所属しております! ジャパーニス大公様のお姿をお披露目のパーティーで拝見し、心奪われまして志願いたしました。どうぞよろしくお願いいたします!」


 ローランは俺のことを崇拝するように見つめ、凄い勢いでそう言った。うん、まずはとにかく暑苦しい。そしてキャラが濃い!


「よ、よろしくね」


 俺はちょっとだけ引き気味でそう声をかけると、ローランは感動したように瞳を潤ませる。


「大公様に声をかけていただけるとは……」


 そしてそう呟くと思考がどこかにトリップしたのか、俺をぼんやりと見つめ続けている。うん、とりあえず放っておこう。俺の手に負えない。

 でもここまで慕ってくれてるなら良い護衛にはなってくれそうだよね。ちょっと毎日疲れそうだけど……


「じゃあ最後の人お願い」

「はっ! 私はロレシオ・フォーニエと申します。現在は近衛騎士団に所属しております」


 この人はさっきのローランと違って凄く普通だ。黒髪短髪で真面目そうな雰囲気を出している。でもとっつきにくさのようなものはあまり感じない。いいね、ロレシオいいよ。さっきのローランと比べるから凄くいい!


「ロレシオだね。よろしく」

「よろしくお願いいたします」


 そうして全員に自己紹介をしてもらい、俺はまずソファーに移動することにした。


「じゃあとりあえず座って話そうか」

「はっ!」

「ロジェ、全員分のお茶をよろしく」

「かしこまりました」


 ロジェにお茶を頼んで四人に向き直る。


「じゃあ改めて、神の使徒でありジャパーニス大公であるレオンです。よろしくね。そうだ、俺のことはレオンって呼んでくれたら嬉しいかな。ジャパーニスは呼ばれ慣れてなくて」

「かしこまりました」


 俺がそう言うと皆は頷いてくれた。


「ありがとう。皆はジャパーニス大公家で俺と俺の家族の護衛をしてくれるって事で間違いない? 本当は嫌だとかそんな気持ちがあるのなら無理にとは言わないけど……」

「そんなことはあり得ません! 私はこの命をかけてレオン様をお守りいたします!」


 そう叫んだのはローランだ。うん、それは知ってた。ローランはそう言うだろうなと思ってたよ。ありがとね。


「ローランありがとう。他の人はどうかな。ニコールは?」

「私はレオン様とそのご家族をお守りさせていただけるのであれば、それ以上の幸運はないと思っております。それに……女が騎士を続けるのは大変なことも多く、貴族女性の警護の任に就かせていただけることはとても光栄な出世でございます」


 女性騎士はやっぱり苦労もあるんだな……確かに圧倒的な男性社会だもんね。


「それなら良かったよ。サンドラはどう?」

「私は強い人が好きなので、この世界で最も強いレオン様のお役に立てるのであればこれ以上の幸せはありません。たまに、気が向いたら、年に一度でも構いませんので、手合わせ願えればと思っております」


 サンドラはそう言ってうっとりとした表情を浮かべた。うん、この子も癖強めだった。何よりも強さを求めてる感じなのかな? 戦いが好きとか……?

 まあ、たまに手合わせするぐらいで気持ち良く働いてくれるならありがたいか。


「別に構わないよ。俺の練習にもなるし一緒に訓練しよう」

「本当ですか! ありがとうございます!」


 サンドラが大人しくて強くなさそうとか言ったの誰だよ。全然大人しくなんかないし、どちらかといえば戦闘好きだよ!

 ふぅ〜、俺はここまででかなり疲れていたけど、最後のロレシオにも聞かなきゃ公平じゃないのでそちらに話を振った。


「ロレシオは?」

「私は今まで近衛として王族の方々をお守りしてきましたが、今度はお近くで使徒様ご一家をお守りさせていただけるなど光栄の極み。ぜひ私を雇っていただけたらと思います。命をかけてお守りいたします」

「ロレシオありがとう。他の皆もありがとう。じゃあ皆をジャパーニス大公家で雇いたいと思う。これからよろしくね」

「ありがとうございます。よろしくお願いいたします!」


 四人は声をそろえて頭を下げた。さすが騎士って動きだ。


「じゃあこれからの話なんだけど、皆は騎士をいつ頃辞められるのかな?」

「陛下から、レオン様がお望みならば今すぐにでも辞めて構わないと言われております。既に引き継ぎも済ませてありますので、今この時からでも」


 マジか……本当にありがたいな。でも今日から来てもらうとして、公爵家に皆が住んでも良いのだろうか。客間には騎士用の部屋も併設されてたから、住む場所は大丈夫だと思うけど……

 というか四人だと一人につき一人ついてもらうことになるから、本当なら交代要員も入れて二、三人は護衛が欲しいところだな。やっぱり早めに増やすべきか。


 まあそれは後で考えよう。今はこの四人だ。


「ロジェ、リシャール様に話が聞けそうなら、四人が公爵家に住んでも良いか聞いてきてくれる?」

「かしこまりました」


 ロジェは綺麗に一礼すると、素早く部屋から出ていき執務室に向かってくれた。


「俺は今タウンゼント公爵家に住んでて、ジャパーニス大公家の屋敷は建設中なんだ。だから半年ぐらいは、タウンゼント公爵家で暮らしてもらうことになるかもしれないけど良いかな?」

「問題ありません」


 そうして話しているとすぐにロジェが戻ってくる。


「レオン様、騎士の方が住むことに関しては問題ないそうです」

「ありがとう。じゃあそういうことだから、今日から早速来てもらおうかな。これから荷物をまとめて元の職場に挨拶をして、今日の夕方に俺が公爵家に帰る時までにはまた執務室に来てくれる?」

「かしこまりました」

「じゃあまた夕方に。屋敷に戻ったら家族を紹介して、誰が誰の護衛になるか決めるからね」

「はっ!」


 そうして四人の騎士との顔合わせは終わった。ちょっと癖が強めの人もいたけど、皆良い人みたいで良かったな。

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