第283話 魔物の森での過ごし方

「レオン、バリアの魔法具はどんなものかな? 実物を見せてほしい」


 トリスタン様にそう言われた。


「はい。ですがまだ実物はなくて、というのも形を決めかねているんです。実戦でバリアを咄嗟に張ったり消したりしたいので、それをやりやすい形状はどんなものだろうかと考えているのですが……」

「ふむ、確かにそれは重要だね」


 連結魔石と魔鉄を触れ合わせていればバリアが発動するから基本的には触れていて、しかし咄嗟の時にはすぐに離すことができるような、そんなふうにしたいんだけど……


「何か案はありますか? こちらの連結魔石と魔鉄を触れ合わせればバリアが発動、離せばバリアが消えます。魔鉄はどのような形状にでもできます」


 そう説明をしつつアイテムボックスからその二つを取り出した。すると三人はそれをじっと眺めて深く考え込む。


「やはりネックレスでしょうか?」

「でもそれだと離すのが大変じゃないかな?」

「確かにそうですね。では指輪にして……」


 三人はそうしてしばらく悩んでいるけれど、良い案が思いつかないみたいだ。俺も色々考えているけどこれだというものがない。



 それから数十分悩んだ結果、とにかくバリアが何らかの拍子に消えないことを重視することにした。バリアを消すことは基本的にはやらない。しかしバリアを過信することなく、魔物や魔植物からの攻撃を受けたらしっかりバリアの中で剣を構える。バリアで防げたらラッキーくらいにしようという話になった。

 なのでバリアの形状を少し変えて、前側には剣を構えられるだけの幅を持たせることにした。


 そして魔法具の形は結局ブレスレット型にして、魔鉄で作ったブレスレットに連結魔石のブレスレットを嵌め込む形にした。しっかり固定されるようにしたのでこれならバリアが消えることはないだろうし、ちょっと大変だけど固定を外して連結魔石のブレスレットを外せばバリアも解除される。


「ではこれで完成で良いでしょうか?」

「うん、これで完成で良いんじゃないかな」

「俺は良いと思う」

「俺もだな」

「ではこれで完成とします。今皆さんに一つずつ配っておきますね。バリアに慣れておくのも大切だと思うので」


 そうして俺は、三人にそれぞれバリアの魔法具を作って渡した。


「ありがとう」

「魔力を込めてほしい時はいつでも言ってください。あっ、それから魔法具のバリアはもし壊された場合、復活までに三十秒ほどかかるので気をつけてください」


 これも実験したが基本的には三十秒近くかかるのだ。魔物の森での三十秒は結構長いと思う。


「そうなのか、気をつけよう。バリアがどの程度で壊れるのかも知りたいから、後で試しても大丈夫か?」

「はい。魔法具のバリアを壊しても、魔法具自体が壊れるわけではないので大丈夫です」

「分かった。では後で試しておく」


 よしっ、じゃあこれでバリアの魔法具は大丈夫かな。


「では話を戻しますが、先ほど説明したようにバリアの魔法具を使って魔物の森の奥まで向かいます。そして時空の歪みまで到達できたならば、こちらの杖をその歪みに投げ込めば終わりです」


 ミシュリーヌ様が下界に落とした、神の遺物である杖を三人に見せると、三人は揃って微妙な表情を浮かべた。


「これがそうなのだな……」

「特に、特徴はないんだね」

「凄い力を持つ杖なのだから、もっと豪華なのかと思っていた」


 そうなのだ。この杖は特徴がないどころかデザインがシンプルすぎて安物に見える。俺の予想ではミシュリーヌ様がデザインを凝る神力をケチったんだと思ってる。多分、いや絶対にそうだ。


「少し不安な見た目ではありますが、ミシュリーヌ様からこの杖の能力は保証されていますので安心してください」

「……それなら大丈夫だね。この杖はレオンのアイテムボックスに入れていくのかな?」


 ……そこはまだ迷っている。というのも、俺のアイテムボックスの中身は俺が死んだら誰も取り出せなくなると思うんだ。だから万が一俺が死んじゃって他の三人が生き残った時に、杖を三人が手に出来るところに仕舞っておいた方が良いんじゃないかとも考えている。


 でも今回の作戦って、俺が死ぬような状況になったのならほぼ終わりだよね……だってそうなればバリアの魔法具に魔力も補充できなくなるし、他の三人も余程の幸運じゃない限り生き残れないだろう。

 三人にアイテムボックスの魔法具を配って、そこにバリアの魔法具をたくさん入れておくことも考えたけど、そもそもアイテムボックスの魔法具の魔力が切れたら終わりだ。


 ……うん、やっぱり俺に何かがあった場合のことは考えないことにしよう。絶対そんなことにならないように頑張ろう。


「私のアイテムボックスの中に入れていきます」


 俺が決意を込めた瞳でトリスタン様を見返しつつそう言うと、トリスタン様は頷いてくれた。


「分かった。じゃあ私達はレオンを全力で守らないとね」

「よろしくお願いします」

「じゃあ後は、そうだ。食料はどうする?」

「それも基本的には私のアイテムボックスに入れていきます。数年は暮らせるほどの食料を持っていく予定ですので心配しないでください」


 でも待って……食料ぐらいはそれぞれのアイテムボックスの魔法具に入れておいても良いのかもしれない。アイテムボックスの魔法具って、魔力がなくなる前に俺がもう一度魔力を注げば中身が消えることはないんだ。

 だから定期的に魔力を注げば食料は分散して持っていられる。途中でアイテムボックスの魔法具のために魔力を消費してまで、そのリスク分散をする必要はあるのかって話だけど……


 でもよく考えたら、それぞれ持っていきたいものとか日用品もあるよね。荷物が全部アイテムボックスの魔法具に入れられるのなら便利だろう。いちいち俺に取り出してもらうのも面倒だろうし。

 うん、やっぱりアイテムボックスの魔法具は作ろうかな。そしてバリアの魔法具の予備も幾つかずつは持っていてもらおう。


「それからアイテムボックスの魔法具を皆さんに一つずつ渡しますので、その中にも食料をそれぞれ入れることにしましょう。荷物は基本的に全部その中に入れるということで」

「それはありがたいな」

「ではそちらも今作ってしまいますね。アイテムボックスの魔法具は魔力が切れたら中身が消えてしまうので、十分に気をつけてください。魔石の色が薄くなり始めたら早めに私に言っていただければ、すぐに魔力を補充します。魔物の森では毎晩魔力を込め直すことにしますね」

「ありがとう。アイテムボックスの魔法具はどんな形にするのか決まってるかな?」

「いえ、皆さんの要望で決めたいと思います」


 そうしてそれからアイテムボックスの魔法具の形も考えて、最終的にはネックレスと指輪になった。


「よしっ、じゃあとりあえず決めることはそのぐらいかな?」

「はい。あとはどのように戦うのか、戦う際の連携などについて話しましょう。私はトリスタン様の戦うところを見たことがないのですが……」

「レオン、トリスタン様はかなりお強いぞ。剣術の腕前は俺よりも強いぐらいだ」


 そう言ったのはフレデリック様。フレデリック様の腕前は訓練で見たことはあるけどかなり強かったと思う。それよりもってことは心配いらないな。


「それならば心配要りませんね。魔力属性と魔力量を聞いても良いですか?」

「私は土属性の魔力量が五だよ」


 おおっ、魔力が五。さらに土属性! なんだかんだ土属性って一番使えるんだ。


「それは素晴らしいです。確かフレデリック様も土属性でしたよね? 魔力量は?」

「俺も五だ」

「ちなみに俺は火属性で魔力量五だぞ」


 皆優秀! さすがここに選ばれてるだけある。


「皆さん素晴らしいですね。では基本的にはバリアの中から魔法で攻撃するので、その際に攻撃が被らないよう合図などを決めておきましょう。あとは剣で戦う場面もあるかもしれませんので、その場合の連携も後で確認しましょう。また、皆さんに魔法の授業をしたいと思います」


 俺のその言葉に、三人は途端に目を輝かせる。


「レオンが魔法の授業をするって話は聞いてたんだ。今までの倍以上の効率で魔法が使えるようになるんだろう? それは楽しみだ」

「私も早く知りたい」


 三人は今すぐに授業をしてくれと言わんばかりに身を乗り出してくるけれど、俺は苦笑しつつそれをいなす。さすがに今からはもう時間が遅い。


「今日は時間もかなり過ぎていますので、また後日連携の確認も兼ねてにしましょう。魔法の使い方を教えるのには時間がかかるので……」

「それならば仕方がない。では後日楽しみにしている」


 そうしてその日は色々な話し合いをして、後日皆の予定が合う日に連携の確認と魔法の授業をすることを決めて解散となった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る