第282話 同行の騎士達

 部屋に入ると三人の男性が跪いて頭を下げていた。俺はその髪型や体型から何となく見覚えがある気がするなと思いつつ、まずは挨拶をした。


「初めまして、レオン・ジャパーニスです。よろしくお願いします。頭を上げてください」


 その言葉に従って三人がゆっくりと頭を上げる。

 え……なんでこの三人がいるの!? 俺はその三人の顔を見て思わず数秒固まってしまった。だって全員知ってる顔だったのだ。


「トリスタン様とジェラルド様、それにフレデリック様!?」

「ははっ、凄く驚いてるね」

「だ、だって、え? 皆さんが一緒に行くんですか!?」

「そう決まったんだよ」


 マジで驚いた。いや、ジェラルド様は第三騎士団の団長だしまだ分かるかもしれない。フレデリック様も近衛騎士団所属だしまだ、分からなくもない。でもトリスタン様は何で? 戦えるのだろうか。そもそもそんな危険な場所に王族が行っても良いの?


 俺が大混乱で二の句を告げないでいると、トリスタン様は悪戯が成功したような顔をして立ち上がった。


「レオン、まずは座っても良いかな?」


 そしてソファーを示してそう口を開く。


「は、はい。座りましょう」


 俺は大混乱のまま、とりあえずソファーに腰掛けた。三人も俺の向かいのソファーに腰掛ける。真ん中がトリスタン様で俺から見て右側がフレデリック様、左がジェラルド様だ。改めて凄いメンバーだな……


「えっと、もう一度お聞きしますが、皆さんが魔物の森の奥まで付いて来てくださるのですか?」

「そうだよ」

「……どのように選んだのでしょうか?」

「私は王族だからだよ。使徒様が国のために魔物の森へ出立されるのに、王族が誰も付いていかないというのは流石にね。兄上が危険な場所へ行くわけにはいかないし」


 ……そうか、そういうのもあるのか。王族も大変なんだね。


「ではフレデリック様は?」

「私はマルティーヌ様にレオン様の手助けをするようにと命じられましたので、ご同行させていただきます」


 フレデリック様は俺に対して敬語を崩さずにそう言った。そっか、今は俺の方が身分が上なんだよね。

 でもフレデリック様にそれをやられるのは寂しい。


「あの、今まで通りに話してください。他人行儀みたいで寂しいので」

「……良いのですか?」

「はい。逆にこちらからお願いしたいです」

「では、今まで通りに話すぞ。ただレオンの方も敬語を使わなくても良いからな」


 フレデリック様はそう言って顔に笑みを浮かべてくれた。いつものフレデリック様だ。


「はい! そこは善処しますね。ジェラルド様も今まで通りにしてください」

「分かった。そうさせてもらう」

「ありがとうございます。……それで、ジェラルド様は何故選ばれたのでしょうか?」

「俺は自分で志願したんだ。この世界を救うメンバーに入れるなんて、こんなに光栄なことはないだろう? それに第三騎士団の団長として魔物の森にはかなり詳しいつもりだ。俺は役に立つぞ」


 確かに世界を救うか、そうだよね。それにジェラルド様がいてくれるのは実際ありがたい。魔物の森はどれだけ知識があるのかも大切なところだから。


「ジェラルド様、志願ありがとうございます。これからよろしくお願いします」

「おう、任せとけ!」


 ジェラルド様はニカッと気持ちのいい笑顔で笑いかけてくれた。うん、やっぱり敬われるのより今まで通りに接してもらえた方が嬉しい。


 そうして一通り挨拶が済んだところで、トリスタン様がまた口を開く。


「じゃあ挨拶も済んだところで、これからの詳しい予定を決めていこうか。それから魔物の森でどう行動するのかも詳しく聞かせてほしい」

「かしこまりました。皆さんはどこまで話を聞いているのでしょうか? 時空の歪みのことや魔人については聞いていますか?」

「ああ、兄上から説明があったよ。魔物の森は別の世界からやって来ているもので、今回はその繋がってる部分を塞ぎに行くんだよね? そして魔人はその別の世界に住む魔物が進化した存在で、今回の王宮襲撃事件の黒幕でもある。レオンのことも襲ったと聞いたよ」


 そこまで話してくれてるのなら話は早いな。


「その通りです。今回の私達の目的はとにかくその穴を塞ぐこと。そのために魔物の森の奥まで向かわなくてはなりません。魔植物と魔物、それから魔人がその障害となります。まずは魔植物と魔物ですが、この二つは基本的に私の魔法であるバリアで対処します」


 そう説明をしつつ、ソファーから立ち上がり自分を全て覆うような大きめのドーム型バリアを作った。


「基本的にはこんな感じのバリアをずっと張っていくので、警戒すべきは足元だけです」

「ほう、これがバリアなのか。足元にまでバリアを張ることはできないのか?」


 感心したような声を上げたのはジェラルド様だ。


「出来るのですが、それだと空気の問題や移動のしづらさという問題もあるので今回はなしとしています」

「ほう、分かった」

「そしてこちらのバリアなのですが、私が魔力を使うのではなく魔法具に頼ろうと思っています。まず私が魔力を使った場合に作れるバリアは一枚だけなのです。それで全員を覆うよりも、個人個人でバリアを張った方が安全だろうということで魔法具にすることにしました。また、私の魔力を温存したいという意図もあります。実はこのバリア有能ではあるのですが、一番の問題がこちらからの攻撃もできないということなのです。なので基本はバリアの中から魔法を使って攻撃、剣を使いたい場合はその時だけバリアを解除するということになります」


 バリアの一番の欠点がそこなのだ。普通に戦ってる時に自分でバリアを発生させて使うのにはかなり有能なんだけど、常時発動させておくのは意外と邪魔になる。でも魔物の森では常時発動のデメリットを考えてもメリットの方が大きいだろう。


「俺達もそれぞれで魔法具を持つということだな」

「はい、そういうことです。バリアの魔法具は基本的に攻撃を一切受けなければ数日は持つのですが、魔物の森では大事をとって一日ごとに魔力を込め直します。基本的には日が昇ったら移動開始して、日が沈み始めたら移動終了。魔植物を切り倒して開けた場所を作り、そこに夜用のバリアの魔法具を発動させてその中で寝ます。そしてその中にいる間に日中のバリアの魔法具には魔力を入れ直します」


 俺はそう説明をして、今度は俺と三人を大きな箱形のバリアで覆った。今度は足元にまでバリアがある。


「夜はこうして全てを覆ってしまいます。そして交代で見張りをしながら睡眠をとりましょう」

「こうして全部を覆ってしまえば、バリアが破られない限りは安全ってことだな」

「その通りです」

「バリアの魔法具の予備は持っていくのか?」

「私のアイテムボックスに大量に入れていきます。魔石と魔鉄も大量に入れていく予定なので、万が一全てが壊れるなんてことになってもまた作れます」

「それは心強いな」


 バリアの魔法具は今回の作戦の生命線だから、準備し過ぎだと言われるほどの量を確保するつもりだ。さらに他にもピュリフィケイションとか使えそうな魔法具はたくさん入れていく。

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