第272話 ダンスとスイーツ
貴族からの挨拶が終わり、それからしばらくは食事を食べつつパーティーの雰囲気を楽しんだ。
そしてついにダンスの時間だ。ダンスホールだけに強い光が当てられ、周りの光が少し落とされた。
「此度のファーストダンスはレオンとマルティーヌだ」
アレクシス様のその声に合わせて楽器が奏でられ、俺とマルティーヌはゆっくりと階段を下っていく。そしてダンスホールの中央で立ち止まると、ダンスの音楽が流れ始めた。それに合わせてマルティーヌと共に踊る。
滑らかに、優雅に、微笑みを絶やさず、背筋を伸ばして。ダンスの先生に注意されてきたことを頭の中で復唱しながらダンスを踊っていく。
ダンスも中盤になりこのままいけば完璧だ。そう思ったその時、マルティーヌが練習と少しだけ違う動きをした。
「どうしたの?」
「レオン、もっと楽しく踊りましょう? 別に完璧でなくてもいいのよ」
俺はそう言われてハッと気づいた。失敗しちゃいけないと思いすぎて全く楽しめてなかったことに。パーティーのダンスなんだから楽しんでこそだよね。
そう思った途端、体に入っていた余分な力が抜けてさっきよりも気持ち良く踊れるようになる。
「マルティーヌありがとう。大切なことを忘れてたよ」
「そうよ。せっかく公の場で初めて二人で踊るダンスなんだから楽しまなきゃ損だわ」
「そうだよね」
俺はさっきまでの微笑みではなく、心からの笑顔を浮かべてマルティーヌに笑いかける。するとマルティーヌも楽しそうに笑ってくれた。
さっきまではマルティーヌの顔も見てなかったな……本当に余裕なかったみたいだ。
それからは自分らしく楽しくダンスを踊った。煌びやかなホールで着飾ったマルティーヌとダンスをする。夢みたいな時間だ。
ダンスが終わり音楽が止まると、俺達には割れんばかりの拍手が送られた。周りを見回してみると、ほとんどの人がキラキラした瞳で俺達のことを見ている。
拍手をするのはマナーだけど、貴族達の瞳を見ると本心からの拍手だとわかる。なんだか嬉しいな。こうして全員と仲良くなれたらいいのに。
「レオン、戻りましょう」
「うん」
それからは貴族達が思い思いの相手とダンスを踊る様子を舞台から眺めた。こういうパーティーは年頃の男女が相手を探す場でもあるようで、初々しい二人のダンスがあちこちに見られて微笑ましい。俺達もそんなふうに見られていたと考えたらちょっと恥ずかしいけどね。
そうしてパーティーも終盤となり、ついにスイーツのお披露目だ。
「皆の者、パーティーの最後にジャパーニス大公家が新たに始めるスイーツ専門店、シュガニスのスイーツをお披露目したい。今までにない画期的なスイーツだ。楽しんでくれ」
俺が会場に向かってそう告げると、ヨアン達料理人や給仕担当のアンヌ達、それからロニーがスイーツを運んで会場に入って来た。王宮の使用人達も手伝ってくれているようだ。
各テーブルにカットされたケーキが全種類並ぶように盛り付けてある。そしていくつかはカットされていないホールケーキも見える。これはいい宣伝になりそうだ。
「あれはなんですの? 美しいわ」
「大公様はスイーツと仰られていましたわ」
「あれほど美しいスイーツなどあるのかしら」
そんな会話がそこかしこで聞こえる。貴族の奥様方や御令嬢の心はバッチリ掴めてそうだ。
「こちらはケーキというスイーツだ。いくつか種類があるので、どのようなものかは近くにいる給仕の者に聞いてくれ」
そう言って下の様子を何気なく眺めていると、ロニーが俺の方を見ていてバチッと視線があった。するとロニーは頼もしい笑顔で微笑んで貴族の方に向き直る。
ロニーは王立学校で学んでるし、アンヌにも作法をより良くできるように学んでるみたいだし、こういう場でも全く浮いていない。ロニーは本当に凄い。最初に会った時は孤児院出身でおどおどしてるって印象だったのに、今では凄く頼もしくて仕事も任せられる。
「レオン、私達も食べましょう」
皆が働いている様子をじっと眺めていたら、いつの間にか俺達にもケーキが運ばれて来ていたようだ。マルティーヌに呼びかけられて俺も席に着く。
「今日のパーティーは大成功だったな」
「ええ、レオンもマルティーヌも堂々としていて素晴らしかったわよ」
「本当ですか! 嬉しいです」
「良かったです」
やった。アレクシス様とエリザベート様のお墨付きなら本当に上手くできてたんだろう。良かった。
「しかし使徒様モードのレオンは、まだ慣れていない感じが残っているな」
アレクシス様はそう言って少しだけ苦笑した。確かに使徒様モードは全然慣れてない。俺でも違和感が凄いんだよね。まずあんな口調使ったことないし。
基本的には今まで通り過ごして、こういう場でのみあのモードを使うとするとずっと慣れないだろうな……
「自分でも違和感が凄いです。……もう少し大人になったら似合うようになるかもしれません」
今の俺は十歳、もう少しで十一歳だからね。まだまだ外見も子供で威厳なんか出てこないんだ。
……いや、でもステファンには威厳あるな。
「レオンは大人になっても似合わなそうだ」
そう思っていたらステファン本人にそう言われた。うぅ……やっぱりそうなのかな。なんで威厳が出ないんだろうか。外見? 内面?
「どうやったら威厳って出るのかな?」
「そうだな……うん、レオンはそのままでいいと思うな」
「ちょっと諦めないで!」
「だがな……強いて言えば、顔つきか?」
顔つき、それ一番難しいやつだよ! 俺の顔つきはぽわんとしてるってこと? 厳しい感じにすればいいのかな?
「どんなふうに変えればいいかな。眉間に皺を寄せてみるとか?」
俺は眉間に皺を寄せて目の二重を強調させるようにして、さらに腕を組んで少し踏ん反り返ってみた。
「どう? こんな感じ?」
「ぶはっ……はははっ、レオン、やめてくれ……」
ステファンに大爆笑された。別に変顔をしたわけじゃないのに!
「レオン、レオンは今のままでいいわよ。そのままで素敵よ」
マルティーヌにまで慰めるようにそう言われた。うぅ……厳しい顔そんなに似合わないかな。
アレクシス様とかは普段あまり厳しい雰囲気を出してないのに、王として公の場に出る時は一気に雰囲気が変わるんだよね。その技を身につけたい。
これは要練習だな。最悪バリアでちょっと空を飛ぶとかライトで輝かせるとか、そういう方法でいこう。
そうしてパーティーの最後は少しだけ気を抜いて、皆でケーキを食べながら雑談を楽しんだ。そして最後にお店の紹介と、近いうちにケーキの予約を受け付けることを宣伝し、パーティーは終了となった。
これからは使徒としても頑張ろう。そしてこの国を魔物の森から守りより発展させよう。そう決意を固めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます