第269話 お披露目前日

 明日は遂にお披露目の当日だ。俺は今日から王宮に詰めて最終チェックをする予定となっている。

 いつもはすぐにアレクシス様の執務室に向かうけど、今日は直接お披露目の会場となるホールに集合だ。まずはそこで全体の流れを覚えるらしい。


 リシャール様と共にホールに向かうと、そこではたくさんの使用人が忙しく作業をしていた。しかし俺たちが中に入ると、全員その場に跪き頭を下げる。奥にはアレクシス様とエリザベート様、それからマルティーヌもいるようだ。


「リシャール、レオン、こっちに来てくれ。皆は気にせず仕事を続けてくれ」


 アレクシス様がそう言うと跪いていた使用人達はまた素早く動き始めて、ホールの準備を再開した。

 ホールには煌びやかなシャンデリアが輝き、幾つものテーブルが設置されている。まだ飾り付けなどは途中のようだ。

 この国のパーティーは基本的に立食形式なので、椅子は少ししか置かれていない。休みたい人や気分が悪くなった人は休憩室を借りられるようになっている。


 そんなホールの様子を横目に見つつ、俺達はアレクシス様達の元に向かう。


「陛下、王妃殿下、王女殿下、おはようございます」

「おはようございます」

「二人ともおはよう。朝早くから悪いな」

「いえ、当然のことです」

「私のためにご尽力いただきありがとうございます」

「それこそ当然だ」


 そうしてアレクシス様と話していると、マルティーヌが笑顔で俺に話しかけてくれた。


「レオンおはよう。遂に明日ね」

「うん。結構緊張してるんだ。こんなに大きなホールでお披露目するなんて……」


 このホールの奥には階段がありその上に舞台があって、その舞台に直接出られるドアがある。俺は当日そこから舞台上に姿を表す予定だ。めちゃくちゃ目立つよね……


「大丈夫よ。私も隣にいるわ。それにお父様もお母様もお兄様も」

「そうだね。頑張るよ」

「ええ、私達もいますから気負わずに」

「はい。エリザベート様、ありがとうございます」


 ホールの雰囲気に気圧されてちょっと緊張してたけど、二人の笑顔に少し和らいだ。


「ではレオン、早速当日の流れについて確認しても良いか?」

「はい。よろしくお願いします」

「明日のパーティーの開始時間は十二時だ。今回は昼のパーティーになる。十時ごろから騎士爵の者が段々と集まり始め、十一時半過ぎには公爵家の者が会場に来る予定だ。リシャールもそのぐらいには来るだろう?」

「はい。当日は十一時半に屋敷を出ますので、それから十分ほどでここに着くかと思います」


 騎士爵の人は十時に来るんだね。待ち時間長くて大変そうだ。


「そして貴族が皆集まったところで私達が会場に出て、パーティーは始まることになる。とりあえず舞台上に行ってみよう」


 そうして連れてこられた舞台の上は、会場全体を容易に見渡せる場所で少し怖いほどだった。


「この舞台に出てきたらまずはそのまま席に着く。基本的には貴族は立食だが王族だけは座るのが基本だ。レオンも王族と同じ扱いになるからな」

「分かりました」

「そして私達が席に着いたら正式にパーティーの始まりだ。私が開始の挨拶をしてそのあとは自由に談笑となる。しかし明日はこの挨拶の時にレオンが使徒様だと公にし、その後にレオンの挨拶と宣言。それからマルティーヌとの婚約を発表する。それが終わってから談笑タイムだ」


 最初からハードだな。でもお披露目しないとなんで俺がそこにいるんだって話になるもんね。頑張ろう……


「談笑タイムは貴族が家ごとにレオンの元を訪れる時間となるだろう。公爵家から順番に来るのでその挨拶を聞くのがレオンの仕事だ。貴族は階段を中腹まで上がり、そこで跪き挨拶をする決まりだ」


 そんなルールがあるんだ。だから階段の途中に踊り場みたいな広い場所があるんだな。真っ直ぐの階段なのに必要なのかなって思ってたんだ。


「全ての家からの挨拶を受けなければいけないのですか?」

「いや、基本的には伯爵家か子爵家までだな。王族としての披露目の時もやるのだが、基本的にはそこで打ち切る。レオンが最後までやると言うのなら止めはしないが……」

「いえ、伯爵家まででお願いします」


 俺のことを憎い貴族もいるだろうし、そんな貴族の挨拶をずっと受けなきゃいけないなんて拷問でしかない。できる限り人数は少なくするべきだろう。


「ではそのように取り計らおう」

「よろしくお願いします」

「そしてその挨拶が終わり次第、ダンスの時間となる。階段の下にテーブルが置かれていない広い空間があるだろう? あそこがダンススペースだ。明日のファーストダンスはマルティーヌとレオンだ。そのあとは誰でも自由に踊れることになる」


 そうだった……ダンスもあるんだよね。

 ファーストダンスとはパーティーで最初に踊るダンスのことだ。この国のパーティーでは必ずと言っていいほどダンスを踊るんだけど、最初の一曲は必ず主役の二人だけでダンスを踊るのだ。そしてその後は誰でも自由に踊って良いことになる。

 毎年冬に開かれる王宮でのパーティーは、アレクシス様とエリザベート様がファーストダンスを踊っているし、貴族が開くパーティーはその貴族家の当主と妻が踊ることが多いらしい。


 このダンスも俺が緊張してる原因なんだよね……。ダンスはちゃんと練習してたし、ここ数日復習してたから大丈夫だとは思うけど心配だ。


「マルティーヌ、明日のドレスでダンスの練習に付き合ってくれない? 服が違うとまた感覚が違うかもしれないから……」

「もちろんいいわよ。お母様、もうドレスはありますよね?」

「ええ、昨日届いているわ」

「じゃあ練習しましょうか」

「うん。ありがとう」


 当日の服で練習すれば少しは緊張も和らぐだろう。いつもの服と違ってマルティーヌのドレスの裾を踏んじゃったとか、そんなミスをしたら目も当てられない。俺は別にいいんだけど、マルティーヌに恥をかかせるのだけは嫌だ。


「では早めに準備を終えてしまおう」

「ありがとうございます」

「そしてダンスの後だが、レオンの要望通りにスイーツのお披露目をする予定だ。ヨアンという料理人は数日前から必死に準備をしているぞ」

「時間を作ってくださり、ありがとうございます」


 実はお披露目の中で何かやりたいことはあるかとアレクシス様に聞かれて、スイーツのお披露目がしたいと何気なく口にしたらそれが採用されたのだ。

 なので明日のパーティーでは、ヨアンが作った渾身のスイーツがたくさん並ぶことになっている。ヨアンとポール、リズは数日前から王宮の厨房の一つを借りて準備に尽力してくれてるので、明日は素晴らしいものが出来上がるだろう。


 別にここで大々的にお披露目をしなくてもお店は上手くいく気もしたんだけど、どうせなら使徒様というネームバリューも使って、ジャパーニス大公家のお店として大々的に広めることにしたのだ。

 多分これで貴族のハートをがっちりと掴めるだろうから問い合わせが殺到するはずだ。そして少し焦らして春に開店すれば、お店は大繁盛間違いなしだろう。

 春の開店までの間に予約でホールケーキのみの販売をしてもいいかもしれない。いずれにしてもお店は大成功だ。


 俺はそんなことを考えて自分の顔が緩んでいくのを感じた。ふふっ……お金はたくさんあるけど、やっぱりお店が成功するかもって思ったら嬉しいな。

 ロニーも忙しくなるけど協力してくれるって言ってたし、というかこの提案を最初にしたのはロニーだし、皆も協力して頑張ってくれるだろう。使徒になっても食文化向上は頑張ろう。


「そしてスイーツのお披露目をしたら私達は下がって、パーティーも終わりだ。流れはわかったか?」

「はい。大丈夫です」

「では場所を移動しよう。レオンはこれからもたくさんやることがある。衣装の最終チェックをして、身体中を磨き上げなければいけないからな」


 え、身体中を磨き上げるって、それ男もやるんですか!?


 それからはマルティーヌとダンスの練習をして軽く昼食を食べた後、俺は三人の使用人に隅々まで磨き上げられた。お風呂でいつもより念入りに洗われた後、全身をオイルのようなものでマッサージされて指先まで綺麗にされた。爪もいつもより丁寧に整えられたし、かなり疲れたよ。

 女性は毎日これをやってるって聞いた時はマジで尊敬した……俺には無理だ。

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