第268話 五人でのお茶会

 それから数日間、俺はまた王宮に通い詰めてお披露目の準備をした。そして今日はやっと一日仕事がない日だ。

 もう本当に疲れた。魔物の森から帰ってきてその日からずっと働き詰めだ。アレクシス様容赦ない!


 でも今日は皆とのお茶会があるから、疲れた体も少しは軽くなっている。帰ってきてからずっと忙しかったので、公爵家に着いて解散してから一度も五人で集まれてないのだ。今日はついに五人でのお茶会ができる。

 場所は公爵家の応接室だ。


「リュシアン、もう本当に疲れた……」

「レオンはかなり忙しそうだったな。でも使徒様としてお披露目をするのだから仕方がない。それに婚約発表もするのだろう? ここまで短い準備期間でその二つをやるのだから、忙しいに決まっている」

「それは分かってるけど、俺はまだ子供なんだよ。アレクシス様はそこのところわかってない!」

「レオンは子供に見えないからな……」


 まあそうなんだけどね。多分アレクシス様も元々俺のことを子供と思ってなくて、さらに使徒様だったことが判明しちゃったから、すっごく有能でなんでもできるとか思ってるんだ。そんなことないのに……


「失礼いたします」


 そんなことを話していたら部屋にロニーがやってきた。


「あっ、ロニー!」

「レオン来たよ。リュシアン様、お久しぶりです」


 この前従業員寮に行った時はあんまり話せなかったから、俺も久しぶりの気分だ。


「レオン疲れてるね」

「そうなんだよ。もう凄い疲れてる。仕事量が半端ないんだ……」

「色々凄いことになってるみたいだもんね。僕詳しいことは全然知らないんだけど、話してくれる?」

「うん。ステファンとマルティーヌが来たら話すよ」

「ありがとう」

「ロニー、レオンはマルティーヌと婚約するんだぞ」


 リュシアンは少し揶揄うような口調でそう言った。するとロニーは少しだけ驚いたような表情をした後に口を開く。


「やっと告白したの? レオンはヘタレだからできないかと思ってたけど」

「……え、なんで知ってるの」


 マルティーヌが好きなことは誰にも言ってなかったのに……


「レオンは分かりやすいから誰でもわかるよ。マルティーヌ様も僕達しかいない時はわかりやすかったし、なんでくっつかないのかなと思ってたんだ。でも貴族様は色々あるんだろうと思って口出しするのはやめてたんだけど……」


 俺はそんなロニーの言葉を聞いてガクッと体の力が抜けた。そして顔が少し熱くなる。絶対にバレてないと思ってたのにバレバレだったなんて、めちゃくちゃ恥ずかしい。

 というか俺、そんなにわかりやすかったら貴族向いてないじゃん。これからはもっと気をつけよう……


「今凄く恥ずかしい……」

「ははっ、レオンが照れてるの珍しい。でも良かったね。おめでとう」

「ロニー、ありがとう」


 そこまで話したところでステファンとマルティーヌも部屋にやってきた。


「あっ、二人とも来たね」

「待ったか?」

「ううん。全然大丈夫」

「マルティーヌ様もお疲れのご様子ですね」

「ええ、お母様がドレス作りに張り切ってるのよ」


 マルティーヌとは数日前に会ったきりだけど、その時よりも疲れている様子だ。でもドレスはもう決めたよね?


「ドレスはもう決めたはずだけど、変更になったの?」

「違うわ。お母様が春の月を祝うパーティーで着るドレスをもっとたくさん仕立てましょうって張り切ってるのよ」


 そっちか……確かにエリザベート様凄く張り切ってたよね。あのテンションに毎日付き合ってたら流石に疲れるだろう。


「頑張れ……」

「私も楽しいからいいのよ。ちょっとお母様が張り切りすぎてるだけで……」


 そうして俺とマルティーヌが顔を見合わせて、お互いを労うように笑い合っていると、リュシアンが改めて口を開いた。


「マルティーヌ、レオン、改めて婚約おめでとう」


 それにステファンとロニーも続く。


「二人ともおめでとう。レオンとは義兄弟になるんだ、これからもよろしく頼む」

「マルティーヌ様、レオン、ご婚約おめでとうございます」


 俺は皆からそうして祝われて、今までは忙しくて感じている暇がなかった嬉しさを感じた。胸がポッと温かくなったようだ。


「皆ありがとう。嬉しいわ」

「リュシアン、ステファン、ロニー、皆ありがとう」

「マルティーヌはやっと婚約者が決まったな」

「ああ、レオンがいなかったら一生決まらないところだった」


 リュシアンとステファンが苦笑しながらそう話す。そんな二人の会話にマルティーヌが少し拗ねたように口を開いた。


「私は素敵な婚約者が現れるのを待っていたのよ。実際今まで断っていて大正解だったわ」


 俺はその言葉を聞いて頬が熱くなるのを感じた。素敵な婚約者って、なんか照れる……


「確かにレオン以上の婚約者はいないな」

「何せ大公だからな」

「そうよ。それに性格もレオン以上に素敵な人はいないわよ」


 マルティーヌはそう言って俺に向かって笑顔を見せた。うぅ……だから心臓に悪いって。マルティーヌは結構ストレートに言うんだよね。凄く嬉しいんだけど、とにかく照れる。俺は奥手な日本男児なんだ。


「ありがとう……」

「レオン、顔が真っ赤だよ?」


 隣に座っていたロニーに顔を覗き込まれながら、少しだけ揶揄うようにそう言われた。


「それは言わないで……!」

「はははっ、レオンが照れてるのはなんだか新鮮だな」


 そうして皆で笑い合って、部屋には和やかな楽しいムードが漂った。俺はめちゃくちゃ恥ずかしいけどね!


「え、えっと、王立学校の様子はどう?」


 俺は恥ずかしさに耐えかねて無理やり話題を変える。それに乗ってくれたのはリュシアンだ。


「そうだな。レオンが使徒様だということは噂でかなり広がっている。しかし信じていない者も一定数いるな。それから魔物の森についての話もかなり広がっているぞ。本当に危機的状態なんじゃないかと、皆の間で不安が広がっている様子だ」


 おおっ、じゃあ魔物の森への遠征は効果あったってことだよね。それなら良かった。これで少しでも協力的な貴族家が増えたらいいんだけど。


「それからお披露目の話もかなり話題になっている。全ての貴族家に招待状が届いたからな」

「その招待状ってどんな内容だったの?」

「確か使徒様御降臨に伴うパーティー、だったな」


 御降臨って、確かにそうなのかもしれないけど大袈裟だよ……そんなパーティーの主役になるのか。改めて考えたらかなり緊張する。


「使徒様が俺だってことはまだ公式には明かされてないんだよね?」

「そうだ。だから様々な憶測が飛び交っているぞ。ただレオンがバリアや転移を使うところを見た者が多くいるから、レオンが使徒様ではないかって説が一番有力だな」


 実際に見た人がいるんだからそうなるよね。でももうお披露目するんだし、俺的にはレオンが使徒様って噂が広まった方がありがたいな。その方がパーティーの時に出ていきやすい。

 使徒様は可憐な美少女で慈悲の心を持つ素晴らしいお方だ、なんて噂が一人歩きしてたら出ていきにくいなんてものじゃない。


「じゃあ王立学校も落ち着かない感じ?」

「そうだな……ただ普通に授業は行われているぞ」

「休み時間に少し騒がしい程度よね」


 その程度で収まってるのなら良かった。

 今までは毎日通うの面倒くさいなとか思ってたんだけど、もう通えないってなると王立学校に行きたくなる。ちょっと皆が羨ましい。


「レオンはもう王立学校には来ないの? レオンの机とかはそのまま置いてあるけど……」

「うん。これからは忙しくなるし、もう通うことはないと思う。でも卒業試験だけは受けさせてもらえるみたいなんだ」

「そうなんだ、それは良かったね。確かにレオンは王立学校に通ってる場合じゃなくなるよね……」

「うん。魔物の森にも行かないといけないし、アレクシス様の側近もやることになったし。あっ、この話してなかったっけ」

「聞いてないよ」

「実はね……」


 それからは皆に、というよりもリュシアンとロニーに、魔物の森に数人の騎士と向かう予定のことやアレクシス様の側近をやることなどを話した。


「魔物の森の奥まで行くなんて……本当に大丈夫なの?」

「かなり危険ではないのか?」


 この話を知らなかったリュシアンとロニーが険しい顔をしてそう口を開く。やっぱりそう思うよね。


「うん。俺の魔法と魔法具を駆使すれば大丈夫だよ。心配しないで」


 実際は奥にいる魔物がどの程度の強さなのかもバリアで防げるのかもわからないけど、でも大丈夫だと信じたい。それにヤバい時は撤退すればいいし、ミシュリーヌ様も助けてくれるだろう。


「本当に……?」

「大丈夫。俺にはミシュリーヌ様がついてるから」


 そう言うと二人は少し表情をやわらげた。やっぱり神様への信頼は厚いな。実際はかなりのポンコツなんだけどね……。それでも神様だということに変わりはない、はずだ。


「そうだよね。……レオン、この国をよろしくね」


 俺はロニーにそう言われて、初めて俺の働きに世界中の人の命がかかっているということを実感した。そしてそれと同時に気が引き締まった。


「うん、任せて。絶対に救ってみせるから」

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