第267話 ニコラとルークの今後

「それでレオン、何があったんだ?」

「うん、説明するよ。皆座って。――王立学校の遠征で魔物の森に行くって話はしたよね? 実はその遠征でちょっとトラブルがあって、俺の魔法の秘密が大勢の人にバレちゃったんだ。それでその秘密が知られると、俺を欲しがる人や逆に消そうとする人も出てくるから、その影響で皆にも危険が及ぶ可能性があるってことで護衛がついたりしたんだ。俺の家族もその影響で安全なところ、公爵家の屋敷に今はいるよ」

「魔法の秘密って、なんなんだ?」

「実は話してなかったんだけど、俺って全部の属性魔法が使えるんだ。さらに他の誰も使えない魔法も使える」


 そう言っても皆はいまいちピンと来てない様子だ。実際にやってみせたほうが早いかな。


「じゃあ実際にやってみせるね。まずこれが火魔法」


 俺はまず指先に火を灯らせた。そして次は水魔法、風魔法と全ての魔法を使っていく。皆は俺が魔法を使えば使うほど顔が驚きの表情に変わり、ポカンと口が開いていく。


「あと他の人が使えない魔法が三つあって、まずはバリア。これはどんな形にもできるんだ。ほとんどの攻撃を防ぐよ。それから転移。――ほら、一瞬で他の場所に移動できるんだ」


 転移で皆の背中側に移動し、後ろから声をかけた。後ろを振り返った時の皆のお化けを見るような顔に、ちょっと笑いそうになったのは内緒だ。


「あとはアイテムボックス。こことは違う時空間っていうのかな。そこに物を収納できる魔法なんだ。例えばスープとか、串焼きとか。焼きたてのパンとか」


 俺はアイテムボックスから次々と食材を取り出していく。すると今までずっと無言だった皆の中から、ニコラが遂に口を開いた。


「レ、レオン、ちょっと待ってくれ。俺達は何を見てるんだ? これは……夢?」

「ううん、現実」

「全部の魔法が使えるなんて、あり得るのか? 今まで聞いたこともない」

「まあそうだよね。使徒様だけがあり得るんだってさ」

「しとさま、ってなんだ?」


 案の定ニコラ達は使徒様って単語に首を傾げている。ニコラ達にも最低限の説明はしないとだな……


 それから俺は家族皆に話した時のように、俺が使徒様だということ、それによって様々なところから狙われる危険性があること、さらに貴族になることなどを話した。

 話を聞いた皆はげんなりとした顔をしている。やっぱり難しいよね……。でもなんとか大筋だけでも理解してもらいたい。そう思ってまた口をひらこうとしたところで、おじさんが顎に手を当てて思案顔をした。


 もしかしておじさん、理解できたの!?


「レオン、正直に言っていいか」

「もちろん! なんでも聞いて」

「何を言ってるのかさっぱりわからん!」


 そっちかい! 俺は思わずずっこけそうになるのを寸前で堪えた。


「……えっと、どこまではわかった?」

「レオンが神様に選ばれた凄いやつで、貴族様になるってことはわかったな」


 それだけかよ! もっと色々話したんだけどな……でも仕方ないか。おじさん達は貴族になるわけじゃないし、とりあえずそれだけでも理解してくれればいいことにしよう。

 というかそう考えると、母さんと父さんは昨日かなり頑張って話を理解してくれてたんだな。やっぱり少しでも教育を受けたり公爵家に住んだりしてると変わるのかも。


「とりあえずそこまで理解してくれたのならいいや。それで俺達は貴族になるから、屋敷を中心街の奥に建ててそこに引っ越すことになる。それを伝えたかったんだ」

「じゃあ、もう会えないってことか……?」


 ニコラが寂しそうにポツリとそう言った。


「ううん。今よりも気軽には会えなくなるけど会うことはできるよ。さっき見せた俺の魔法あるでしょ? あの一瞬で移動できるやつ。あれでこの家に飛んでくることもできるし」

「そんなことできるのか!?」

「うん。だから会えなくなることはないよ」

「レオン、マリーとも会えるか……?」


 そう聞いたルークは今にも泣きそうだ。


「もちろん会えるよ。今すぐは無理だけど落ち着いたら必ず」

「そっか、じゃあ、待ってるぜ……」


 ルークの恋は前途多難だよね……。マリーは身分が大公の娘になっちゃうし、二人が結ばれるのは難しい気がする。でもこんなに落ち込んでるルークの様子を見てると応援してあげたくなる。

 ルークも貴族になるとか、せめて商会長とかになればまだ可能性はあるだろうか……


「ルークは道具屋を継ぐんだよね?」

「そうだけど、なんで今その話なんだ?」

「道具屋を継ぐんならそれをもっと大きくして商会にすれば、例えばだけど俺たちの家の御用商会にすることもできるなと思って」

「ごようしょうかい?」

「そう。いつも注文する商会ってこと」

「それになったら、マリーともっと会えるのか?」

「うーん、それはわからないけど、今のままより近づくことは確かかな」


 俺がそう言うとルークは途端に瞳を輝かせた。そして期待に満ちた表情で口を開く。


「じゃあ俺、ごようしょうかいになる!」

「うん。そのために勉強したいこととかあったらいつでも俺に言ってね。紹介するしお金も貸すよ」

「わかった! レオンありがとう!」

「頑張ってね」


 この提案がルークにとっていいことなのかはわからないけど、何をやってもいいのかわからないままマリーと遠くなっちゃうよりは、やるべきことがある方がいいよね。

 本当に商会を立ち上げられれば、例えマリーとは結ばれなくても良いことだし、学ぶのはいくらでも学んだ方がいいし。


 そうして俺がルークと話していると、ニコラが少しだけ緊張した様子で口を開いた。


「レオンは、貴族になるんだよな?」

「そうだよ」

「じゃあ、護衛とか兵士を雇うのか……?」


 確かにその辺の人たちも雇わないとだよね。人選が大変だろうな……


「うん。雇うことになると思う」

「じゃあ、俺を雇ってくれないか!」


 ニコラはいつものクールな雰囲気を一変させて、期待を込めた目で俺にそう頼んできた。確かにニコラは兵士になりたいって言ってたけど、王都の兵士じゃなくていいのかな?


「王都の兵士じゃなくていいの?」

「ああ、貴族の屋敷に雇われる兵士は皆の憧れだ!」

「……そうなの?」

「そんなことも知らないのか! 王都の兵士は皆貴族に雇われたいと言っているぞ」


 全然知らなかった。でも確かに王都の兵士って基本的には平民しかいない。貴族は皆騎士になるから、わざわざ王都の兵士になる人はいないのだ。

 しかし貴族に雇われた私兵は貴族もいれば平民もいる。そうなると貴族に雇われる方が憧れってなるのかな?


 うーん、俺からしたらどっちも一緒というか、王都の兵士の方が理不尽な命令とかなさそうだけど。でもニコラが貴族に雇われたいと思ってるならいいか。


「雇うのは別にいいんだけど、貴族の人と一緒に仕事をするかもしれないし、言葉遣いや礼儀作法を学んでもらうことになると思うよ?」

「それでもいい! というよりも学ばせてもらえるならありがたい!」


 そうか、平民はそもそも学ぶ機会なんてないし、その辺のことを学べるって意味でも貴族に雇われたい人が多いのかな。下働きとかは別にして、貴族家の従者やメイドも憧れだったりするよね。


「後は俺の家で雇ったら、仕事中はこうして軽い口調では話せなくなるよ。もちろん仕事中以外なら今まで通りでいいんだけど」

「それは、レオンにも敬語を使うってことだよな?」

「うん。後はマリーや母さん、父さんにも」

「そうか……でも仕事中だけなら仕方ないしそれでもいい。俺を雇ってくれないか?」


 ニコラは真剣な表情で再度そう言った。そこまで覚悟してるのなら俺としても断る理由はない。ニコラなら信頼できるしこっちから勧誘したいぐらいだ。


「分かった。じゃあニコラは俺の家で雇うよ。ジャパーニス大公家って名前だから覚えておいてね」

「ジャパーニス大公家だな。覚えておく」

「うん。じゃあまた落ち着いたら雇うことになるから、それまでは今まで通りに過ごしていてくれる?」

「わかった。あっ、でも早めに学びだいんだが……」


 確かにできる限り早い方がいいか。ここにも先生を派遣するかな……うーん、そんなに大袈裟にするのもな。

 あっ、さっき外にいた護衛の人達にお願いしようかな。


「ロジェ、このお店にいる護衛の人達ってどこからの護衛なのか分かる?」

「タウンゼント公爵家だと思われます」

「ありがとう」


 じゃあリシャール様に話を通して、空いてる時間で少しずつニコラに礼儀作法とか教えてもらえるようにしよう。ルークも一緒にした方がいいかな。


「じゃあここに来てる護衛の人に教えてもらえるよう手配しておくね。ニコラとルーク、二人ともでいい?」

「ありがとう!」

「俺もいいのか! もちろんだぜ!」

「じゃあそうしておくね」


 二人はなんだかやる気満々のようで、希望に満ちた表情をしている。話がどんどん逸れていったけど、まあ良かったかな。


「レオン、色々とありがとう。この子達のことこれからもよろしくね」

「おばさん、もちろんだよ。これからも気軽に遊びに来てもいい?」

「ええ、いつでもいらっしゃい」

「ありがとう」

「レオン、無理しすぎるんじゃねぇぞ。お前もまだ子供なんだからな」

「おじさん、ありがとう」



 そうして皆に現状を話して今後の話をした後、アイテムボックスに入っていた食事で一緒に昼食を取り、俺はおじさん達の家を後にした。


 そして最後は従業員寮だ。従業員の皆は使徒様のことも貴族の制度も知っていたのでスムーズに話は進んだ。反応としてはかなり驚いてはいたけれど、雇い主が大公家に代わるということを純粋に喜んでくれた。

 商会だと何かあって潰れることもあるけど、大公家ならその心配もないからね。結構皆は強かだ。頼もしい従業員だな。


 そうして三か所を周りとりあえずすぐに現状を伝えるべき人達には伝えて、俺は公爵家に帰った。最近忙しすぎるな……

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