第266話 久しぶりのマルセルさん

 昨日は家族皆に俺のことを話したので、今日は他の人達にも話をして回る予定となっている。まずはマルセルさんのところに行き、次はニコラ達の家、最後は従業員寮だ。


 俺はいつも通りの朝を迎え、ロジェとともに馬車でマルセルさんの工房までやってきた。

 もちろんロジェには今までのことを全て説明してある。ロジェは少し驚いていたけれど、俺が使徒様だってことを意外にもすんなりと受け入れてくれた。逆に使徒様でない方が驚きますって言われたぐらいだ。


 ロジェが入り口のドアをノックすると、すぐにマルセルさんが顔を出してくれた。


「マルセルさん、お久しぶりです」

「レオン! 心配してたんじゃ。危ないからとわしのところにも護衛が増えとるし、何があったのかと思ってたんじゃよ」


 マルセルさんは俺の顔を見て安堵した表情を浮かべ、そう言ってくれた。ここまで心配してくれる人がいるって幸せだよね。


「心配してくれてありがとうございます。とりあえず俺は大丈夫です。詳しい話をしたいので中に入ってもいいですか?」

「もちろんじゃ」


 そうしてマルセルさんの工房に入り勧められた席に着く。工房の中はいつものように雑多な様子で、俺はなんだか気持ちが落ち着くのを感じた。

 ここ数日はとにかく忙しくて気を張っていたから気づかなかったけど、結構疲れていたみたいだ。


「それで、何があったんじゃ?」

「はい。実は魔物の森の遠征で…………」


 それからは魔物の森で俺の魔法がバレたところから、王都に帰ってきてミシュリーヌ様と会い、使徒様としてお披露目をすることになったところまでを簡潔に話した。

 話している最中、マルセルさんは驚いた様子を見せながらも口を挟まず最後までしっかりと聞いてくれた。


「やはり、使徒様だったんじゃな……」

「そうだと思っていたのですか……?」

「レオンが使徒様である方が、全てのことに納得がいくとは思っておったわい」

「そうだったのですね」


 まあ、全属性を使うし誰も知らないような知識を持ってるし、あまつさえ使徒様が使っていたとされる魔法まで使えるし。使徒様じゃないって方が疑問だよね……

 俺も自分でそう思うよ。でも今までは本当に使徒様じゃないと思ってたんだ。まさか女神様があそこまで抜けてて自分の使徒に連絡も取れないなんて予想できないし……


「俺は使徒ですが、別に何かが変わるわけではないので今まで通りに接してください。変わるところは俺と家族皆が正式に身分を得ることぐらいです」

「そうじゃな。レオンがそう言うならそうするわい」

「ありがとうございます」

「それにしても大公位とは驚いた。レオンの家族もだとは……。これからは気軽に遊びに行けなくなるな」


 マルセルさんは少しだけ寂しそうにそう呟いた。


「いえ、確かに公の場などで親しく話すことは難しいかもしれませんが、屋敷には気軽に遊びにきてください。私達がこの工房を訪れても良いですし」


 マルセルさんとあまり会えないとなったら皆も寂しいだろう。マリーなんてまた号泣しそうだ。


「良いのか?」

「もちろんです! 当主は俺になるんですから、屋敷の中は自由です」


 実際はそう上手くいかないことも多いだろうけど、俺はそう言って笑顔を見せた。

 でも転移魔法があるし、いつでもこっそり会えるよね。マルセルさんを屋敷に連れてきても良いし、皆をこの工房に転移させても良いし。

 

 ……そうだ。マルセルさんはこの工房に住み続けること前提で話してたけど、あの広い敷地の中に工房を作るのもありなのかな?


「マルセルさん、俺の屋敷を建てる敷地内にマルセルさんの工房を作るのはダメなのでしょうか……?」


 俺がそう言うとマルセルさんはかなり驚いたような顔をした後、嬉しそうに破顔した。しかし首を横に振る。


「そう言ってくれるだけで嬉しい。ただそれはやめておいた方がいいな。わしは準貴族で既に実家とも縁が切れているとはいえ、一応貴族に連なる者じゃ。わしの実家が何かを言ってこないとも限らん。大公家と親密な関係だと言いふらす可能性は高い」


 確かにそうか……貴族って面倒くさいな。良い案だと思ったんだけど。


「……では止めておきます。忠告ありがとうございます」

「いや、いいんじゃよ。わしはこの工房を気に入っとるからな。レオンの屋敷もそこまで遠くない。それに食堂も続けるんじゃろう?」

「はい。どんな形になるのかはわかりませんが、食堂は続けます。始められるのはもう少し先になりますが」

「では食堂にも遊びに行くかのぉ。食堂ならすぐそこじゃしな」

「是非来てください! マリーも喜びます」

「マリーちゃんが喜んでくれるなら毎日でもいいな」


 マルセルさんはそう言ってデレっと笑み崩れる。出たよマルセルさんの、親バカじゃないから……祖父バカ?


「毎日は流石にやりすぎだと思いますけど、いつでも遊びに来てください」

「ああ、そうするわい」



 そうしてそれからはマルセルさんと一時間ほど雑談をしてから工房を後にした。久しぶりの魔法具談議、めちゃくちゃ楽しかった……


「レオン様、昼食の時間まで後一時間ほどですがいかがいたしますか?」


 馬車に戻るとロジェにそう問いかけられた。確かにマルセルさんのところに長居しすぎたよね。うーん、ニコラ達のところで一緒にお昼ご飯を貰えばいいかな。

 そうだ、俺の魔法のことを明かせるんだし、アイテムボックスからいくつか食べ物を提供すればいいか。


「予定通り道具屋に行くのでいいよ。そこでお昼ご飯を食べることにする。ロジェもそこで一緒にお昼でいい?」

「問題ありません」

「じゃあ道具屋までよろしくね」

「かしこまりました」


 そうして道具屋に向かうと、お店にはお客さんが数人いて賑わっている様子だった。見たことない店員さんが何人かいるけど、多分護衛の人なんだろうな。威圧感ないように店員に扮してるのだろう。

 俺は馬車から降りて、そんな店先で商品を並べているおじさんに声をかけた。


「おじさん久しぶり!」

「おおっ、レオンじゃねぇか! お前に何かがあって俺たちも危険だって言われて心配してたんだ。無事でよかった」


 おじさんはそう言って俺の頭をぐしゃぐしゃにかき回す。


「心配かけてごめんね。話があるんだけど皆を集められる? お店が開いてるから難しいかな……?」

「いや、店は大丈夫だ。皆家の中にいるから行くぞ」


 おじさんは護衛の人だろう店員さんに店番を任せると、ズンズンと店の奥に入っていき居住スペースに向かった。おじさんに一歩遅れて俺も慌てて店に入る。


「皆、レオンが来たぞ!」


 おじさんはリビングに入ると開口一番そう告げた。するとリビングにいたおばさんとニコラ、ルークが椅子から立ち上がり俺のところに駆けてきてくれる。


「レオン大丈夫だったのか!」

「ニコラ、心配かけてごめんね。全然大丈夫だよ」

「レオン心配したんだぜ」

「ルークもごめんね」

「本当に無事で良かったわ。私達は何が起きているのかわからなくて。ロアナ達は無事なの?」

「うん! 母さんも父さんもマリーも皆無事だよ」

「そう、それなら良かったわ」


 おばさんはそう言って体の力を抜き、少し疲れたような笑顔を見せた。だいぶ心配させちゃったみたいだな……

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