第261話 家族の今後

 そして次の日、俺はまた王宮に向かっている。今日の行き先はアレクシス様の執務室だ。


「陛下、おはようございます」

「アレクシス様、おはようございます」


 リシャール様と共に執務室に入ると、中にはアレクシス様しかいなかった。すでに人払いがされているようだ。


「レオン、連日来てもらってすまないな」

「いえ、こちらこそ連日私のことに時間を割いてくださり感謝しております。ありがとうございます」

「それは当然のことだ。それで早速今日なんだが、レオンの屋敷をどのように作るかについて話し合いたい。それからレオンの家族の今後の扱いについてもだ」


 家族の今後の扱いか……。確かに俺が使徒ってなったら今までのようにはいかないよね。

 家族とは公爵家で少しは話しているけど、時間が取れなくてまだ俺が使徒だということは話してないんだ。ちゃんと時間をとって話さないと。というか、皆は使徒様って言われてもよくわからないだろうな……


 とりあえず、貴族になるってこととマルティーヌと婚約することは話さないとだな。


「私の家族はどのような扱いになるのでしょうか」

「それが前例がないので難しいのだ。レオンが大公となるのだから平民のままというわけにもいかないが、どのような爵位を与えるのかが問題でな……」


 母さん達も爵位を貰うことになるのか。そうなれば生活は一変するよね。できればそれは避けたいんだけど……


「あの、平民のままではダメなのでしょうか?」

「そうだな、対外的にあまり良くない。それに爵位は武器になるんだ。平民のままでいるよりは身の安全が保証されるだろう」

「……確かにそうですね。ではもし爵位を頂くとなれば、どの程度の爵位となるのでしょうか?」

「そこで今悩んでいるのだが、第一候補は使徒様をこの世に生み出した者ということで一代限りの伯爵位を与えるというもの。第二候補は形式的にまずはレオンの父へ大公位を与えその場でレオンに爵位を譲るという形にして、レオンの父を前大公、母を前大公の妻、そして妹をその子供という形にすること」


 父さんを形式的に大公にしてすぐ俺に爵位を譲るなんて、そんなことできるんだ。伯爵位と前大公、どっちがいいんだろうか。


「第一候補を選んだ場合にマリーはどうなるのでしょうか? 確か爵位は基本的に成人しなければ得られないのですよね?」


 俺は使徒だから特別に成人しなくても爵位をもらえるって話だったはずだ。


「そうだ。その規則を曲げることはできないので、妹君は十五歳になった後で叙爵することになる。そこが第一候補のデメリットだな。逆に第二候補の場合はすぐに大公の娘という肩書きは得られる。しかし爵位は継げないので成人すれば準貴族となる。第二候補はそちらがデメリットだ。ただそのデメリットはどこかの貴族に嫁げば解決するし、さらに準貴族とはいえ実家の爵位によって扱いは変わるから、そこまで悲観することでもないだろう」


 どっちが良いのだろうか、俺には判断がつかない。というかどちらを選んでも、家族皆には貴族になってもらわないといけないんだよね……


 そうなれば当然貴族としての立ち居振る舞いが求められるだろう。できる限り公の場には出なくても良いようにしてくれるだろうけど、貴族となったからには完全に表に出ないのは難しいと思う。

 そうなったら、皆には今までとは比べ物にならないほど、きつい教育を受けてもらわないといけなくなる。それに食堂を続けられるのかもわからないよね……


「アレクシス様、爵位を頂くのが一番だと分かってはいるのですが、もし私の家族が貴族の身分を得なければ今まで通りに生活することができますか?」

「……いや、それは難しい。レオンが使徒様として公表されれば、レオンの家族には少し調べれば辿り着けるだろう。そうなれば少しでもレオンと縁を結ぼうと、貴族や商人などが群がるのは容易に想像できる。レオンが家族には近づかないようにと言えば表立っては無くなるだろうが、それでも狡猾な方法でレオンの家族に近づく者はいるだろう。やはりそう考えるとレオンの家族に爵位を与え、レオンではなく家族にも力を持ってもらった方が良い」


 結局爵位を得なくても今まで通りには過ごせないってことか……


「では、爵位を得たらどうなりますか?」

「まず住む場所がレオンの屋敷となる。ただレオンの家族に王宮で仕事をしろなどとは言わないので、そこは心配いらない。貴族としてやることはレオンの家族として公の場に出ることだけだな。それも機会はあまりないだろう。というよりも極力減らそう」


 そうするとやっぱり貴族になった方が良いかな……

 でも、できる限り今まで通りの生活を続けさせてあげたい。せめて食堂を継続できないかな。


「アレクシス様、食堂を続けることってできるでしょうか?」

「それは構わないが……、ジャパーニス大公家の店にする必要はある。大公家の店ならば下手なちょっかいを出してくる者はほぼいないだろう」

「本当ですか!」


 食堂続けられるのか! それは良かった、本当に良かった……。母さんも父さんもマリーも皆食堂での仕事が好きだと思うから、それを奪うことにならなくて良かった。

 今までのようにはいかないかもしれないけど、ずっと食堂を続けられるように俺も頑張ろう。この機会に食事に手を出してもいいかもしれないな。


「ああ、食堂を続けるという点にしても、貴族となった方が今までと同じ生活を送れるだろう。全く同じようには無理だが……」

「それは仕方がないことです。ありがとうございます! では家族にも意見を聞いてからお返事をするのでも良いでしょうか? 基本的には貴族になる方向で、第一候補と第二候補のどちらが良いか家族とも話し合いたいと思います」

「分かった。では話し合ったら結果を教えてくれ」

「かしこまりました」


 俺的にはマリーも貴族の一員となれる第二候補がいいかなと思ってるけど、そこは皆の意見も聞くべきだろう。貴族の仕組みを理解してもらうのは大変だと思うけど、これからの皆には大切な知識だしちゃんと話そう。



「では次の話だ。レオンの屋敷なんだが、できる限り早く建設を始めたいと思っている」

「私の屋敷は新しく作るのですか?」

「そうだ。場所はもう決めてある。……ここだ」


 アレクシス様は王都の詳細地図を取り出し、俺に屋敷の場所を示してくれた。ここって……タウンゼント公爵家にめちゃくちゃ近いじゃん。空いてる土地なんてあったっけ?


「こんな場所に空いている土地がありましたか?」

「ああ、実はここには二つの屋敷があるんだが、今はもう使われていないので取り壊すことにした」

「何の屋敷だったのですか?」

「王位を継がなかった王族が前に住んでいた屋敷だ」

「そのような屋敷があったのですね」


 王都にある屋敷は全部誰かが住んでるのかと思ってたけど、意外と無人の屋敷もあったんだな。


「すでに取り壊しの予定は立てているので、それが終わり次第新たな屋敷を建てる。取り壊すのにそうだな……五週間ほどかかるだろう」

「あの……、取り壊さなくてもその屋敷をそのまま使うのでも良いのですが」


 王族の人が住んでたならかなり豪華な屋敷だろうし、この世界って貴族や王族の家は石やレンガで作られてるから壊すの大変だろうし、使えるならそのまま使った方が良いよね。


「いや、それはダメだ。まず使徒様の住む屋敷が中古などあり得ない。さらにそれらの屋敷は公爵家と同程度の広さなのだ。使徒様の、大公家の屋敷はもっと広くしなければいけない」


 いや、公爵家と同程度とかめちゃくちゃ広いじゃん! あれより広かったら逆に不便だよ。というか公爵家でも広すぎると思ってるからね。


 でも身分の問題で広い家にしないといけないんだろうな……ちょっと面倒くさい。


「あの、どれほどの広さになるのでしょうか?」

「ちょうど隣り合っている屋敷をどちらも取り壊して一つの敷地にするので、公爵家の屋敷の二倍近くだな」


 二倍、あの広い屋敷の二倍……


「それは広すぎじゃないですか……?」

「いや、使徒様の屋敷としては普通だろう」


 そうか、そうなのか。もう何も言うまい。ありがたく土地をもらおう。


「では、ありがたくそちらの土地をいただきます。ちなみになのですが、土地の代金と取り壊し費用、それから屋敷を建てるお金は合計どれほどになるのでしょうか?」


 お金はたくさんあるから足りないってことはないと思うけど、万が一足りなかったらヤバいから聞いておかないと。そう思って何気なく尋ねた言葉に、アレクシス様から思わぬ言葉が返された。


「どれほどかまだ正確にはわからないが、レオンが気にする必要はない。屋敷は王家からの贈り物とするからな」

「……え!? いや、流石にそれは悪いです!」


 絶対めちゃくちゃ高いのに、それを贈り物ってあり得ないよ! それに俺にもお金を使わせて欲しい。


「いや、レオンが王家への忠誠を誓ってくれるだろう? そのお礼の意味も込めて、王家から何かしら贈り物をする必要があるのだ」

「ではもう少し安いものにしていただければ……」

「いや、屋敷ぐらいインパクトあるものの方が良いのだ。言い方は悪いが、レオンをこの国に縛るという意味もある」


 確かに屋敷にはそういう意味もあるのか……そう言われると断りづらい。ここはありがたく貰っておくべきかな。


「では、ありがたく頂戴いたします」

「そうしてくれるとありがたい。ではどのような作りにするのか決めていこう」

「かしこまりました」

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