第262話 レオンの屋敷
アレクシス様は執務机の方まで歩いていき、引き出しから何枚かの紙を取り出してテーブルに並べた。
「取り急ぎいくつか屋敷のデザイン画を取り寄せておいた。ここから大まかなデザインだけは決めてしまいたい。詳細はまた後で詰めることになるだろう」
「かしこまりました」
テーブルの上に並べられたデザイン画を見比べてみると、どれも似たようなものであまり違いがわからない。
……ぶっちゃけどれでもいい気がする。
「あの、どのような基準で決めれば良いのかよくわからないのですが……」
俺が困ったようにそう聞くと、リシャール様が助け舟を出してくれた。
「例えばだが、こちらとこちらはかなり作りが違う。こちらは使用人の住む場所も同じ屋敷の中にあるタイプだ。そしてこちらは使用人が別館に住むタイプの作りだ」
へぇ〜、この二つはそういう違いだったのか。それだと俺は前者がいいかな。使用人の人たちとも仲良くなりたいし。それに公爵家も前者の作りだよね。そっちの方が慣れていていいだろう。
「その二つのタイプならば前者が良いです」
「分かった。ではこちらとこちらは却下だな。こうして少しずつ減らしていき残ったものを選べば良い」
「ありがとうございます。ではそうして選んでみます」
次は何階建てかで選ぼうかな。デザイン画には三階建てと四階建てのものがある。でも確かこの国の貴族の屋敷って、あんまり階数を高くしない方がいいんだよね。基本的には爵位が上がるほど横にでかくなるのだ。
「こちらの四階建てのものはなぜここにあるのでしょうか? 貴族の屋敷は三階までが多いと思っていたのですが」
「ああ、そちらは最近流行っているデザインらしい。四階というよりも広めの屋根裏部屋があるという感じだな。その屋根裏部屋を使用人の居住空間にするそうだ。ただ流行っているのは下位貴族が多いので、強く気に入ったとかでなければ省いて良い」
それじゃあ省いてもいいかな。わざわざ屋根裏部屋を使用人の部屋にしなくても、俺の屋敷は部屋が余りまくるだろうし。
「ではこちらも省かせていただきます」
あとは……、お風呂の大きさで決めようかな。さっきから一つ気になっているやつがあるんだよね。基本的に貴族の屋敷のお風呂は各部屋に個人用のものがあるだけなんだけど、一つのデザインだけは大浴場のようなものが設置されているのだ。
広い大浴場欲しいよね。絶対に気持ちいいよね。うん、これに決めちゃおうかな。
そんな決め方でいいのかって感じだけど、どんなデザインの屋敷だって住み心地はいいだろう。プロが考えたデザインなんだし。
「ではこのデザインに決めたいと思います」
「こちらだな。ではこのデザインを基本にして詳細な設計図を書いてもらう。何か伝えたい要望などはあるか?」
そうだな……俺の屋敷で重視したいと言ったらやっぱり厨房かな。広くて最新設備の整った厨房が欲しい。あとそれとは別に、俺が個人で使える小さめの厨房も欲しいな。何か作りたい時に厨房に俺が行ったら、多分料理人さん達は迷惑だろう。
それに母さんと父さんも一緒に住むのだから、二人がいつでも使える厨房も欲しい。
「まず、この大きな厨房の他に小さな厨房が二つ欲しいです。私専用と私の家族専用のものにします。あっ、要望は紙に書いておきますね」
アイテムボックスから紙とペンを取り出して要望を書き込んでいく。
「小さめの厨房か。どの場所に欲しいのかも書いておくといい」
「かしこまりました」
厨房の中に、テーブルと椅子が置けて休憩できるぐらいのスペースも欲しいと書いておこう。そこで試食とかもできたら便利だろう。
よしっ、他に何かあるかな。うーん、そうだ。食堂も大きなもの以外に小さめの食堂を作ってもらおう。皆が大きな食堂が落ち着かなかったらそっちで食べてもいいし。
とりあえずこんな感じかな……
「アレクシス様、屋敷については今思いつくのはこの程度です」
「分かった。ではこちらで設計図を書いてもらおう。あとはその後に設計士と相談して詳細を詰めれば良い」
「かしこまりました」
「では屋敷はこれで終わりだが、庭もどのようにしたいか決めてもらえるか?」
「庭、ですか……?」
庭なんてわからないな。公爵家の庭は花が綺麗に咲いていて凄いけど、ちゃんとみたことはない……
「そうだ。例えばだが表の庭よりも屋敷の裏の庭を広くしたいとか、訓練する場所をどこにしたいかなどだ」
なんだ、そういうことか。それなら俺でも考えられる。
裏庭は広く欲しいかもしれない。基本的には裏庭を訓練する場所にしよう。あとは家庭菜園もできたら楽しいだろうから、畑にする場所も取っておこう。マリーと一緒にやったら楽しそうだ。
あとはあれだ、東屋を作ろう! 綺麗な庭を見ながらピクニックみたいな感じで皆も楽しめるだろう。それに、マルティーヌとのお茶会にも良いだろうし……
「レオン、なんだか楽しそうだな」
色々と楽しい妄想を膨らませていたら、アレクシス様が少し揶揄うようにそう言ってきた。
ヤバい、考えてたら楽しくなってきてニヤニヤしてたかも。めちゃくちゃ恥ずかしい……
「すみません。考えていたら楽しくなってきてしまって……」
「子供らしくて良かったぞ」
「もう、子供扱いしないでください」
俺が少しだけむくれたようにそう言うと、リシャール様が隣で笑い出した。
「はははっ、最近のレオン君は私たちの前でも体の力が抜けていて良いな」
「確かにそうだな。前はもっと遠慮というか緊張している様子があったが、最近は自然体になってきた」
……そう言われると、確かにそうかも。最近は二人の前でもかなり自然体でいられる気がする。いや、最近というか俺が使徒様だと分かったからかな。
今まではどうしても色々と迷惑をかけてるなって気持ちが抜けなかったから遠慮があったけど、使徒だと分かったことで俺でも正式に役に立てるって分かったし、前よりも気持ちが楽になった。
「もっと気を抜いてもいいんだが、それは追々だな」
「はい。あの、ありがとうございます」
俺が色々な気持ちを込めて一言そう告げると、二人は優しい笑顔で笑いかけてくれた。何度も思うけど、本当に良い人達だ。
「では話を戻すが、庭の要望も紙に書いておいてくれ。それは庭師に渡しておく」
「かしこまりました」
そうして俺はどんな庭にしてほしいか妄想を膨らませて色々と書き込み、アレクシス様に紙を手渡した。
「確かに受け取った」
「よろしくお願いいたします」
「取り壊しが終わるまでには設計図も出来上がるので、その頃には設計士とレオンで話し合いをしてくれ。そして実際に着工してから半年程度で出来上がるだろう。庭も含めたらもう少しかかるだろうが、住めるようになるまでは半年程度だろう」
半年って、かなり早いよね? 相当大きな建物なのにそんなに早いの?
「そんなに早くできるのですか?」
「ああ、土魔法が使える者と身体強化が使える者を総動員してかなり急がせるからな。早くできるだろう」
確かにそうか、魔法を使えばスピードアップできるんだな。
「あの、俺も手伝えるので何かあったら言ってください。石とかも自在に作り出せますし、重いものもいくらでも持てますし、アイテムボックスに仕舞って重いものの移動も一瞬ですし……」
あれ、よく考えたら俺って大工になるべきなんじゃないか……?
「使徒様の魔法をそのようなものに使うのもどうかと思うのだが、確かに期間短縮はありがたい。では力を貸してもらいたい時は連絡をすることにしよう」
「はい。よろしくお願いします」
そうして屋敷についてと家族の扱いについての話をして、今日の話し合いは終わりとなった。自分の屋敷、ちょっと楽しみかも。
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