第260話 お披露目の衣装
そして次の日、俺はまた王宮に来ている。
今日は執務室に行くとすぐに俺だけ別の場所に案内された。そこにはエリザベート様とマルティーヌ、それから仕立て屋さんが待機しているらしい。
王宮の使用人に連れられて歩くこと数分、煌びやかなドアの前に着いた。
「レオン様がお越しです」
その声に反応して、部屋の中にいたマルティーヌのメイドさんが部屋のドアを開けてくれる。
中に入るとソファーに腰掛けたエリザベート様とマルティーヌ、それから仕立て屋だろう方達が五人いた。テーブルの上には大量の布と装飾品が置かれていて、紙には沢山のデザインが描かれているようだ。
「レオンいらっしゃい」
「エリザベート様、お久しぶりでございます」
「ええ、これからはもっと頻繁に顔を出すのよ。私達は家族になるのだから」
「かしこまりました。ありがとうございます」
「ではレオンはそこに座りなさい。今日は忙しいわよ!」
エリザベート様はかなり楽しそうな様子だ。俺達の婚約を喜んでくれているようで良かった……
前に凄い衣装をもらった時にも思ったけど、エリザベート様は服とか好きなんだろうな。
「マルティーヌおはよう」
「レオンおはよう。……お母様凄く張り切っているから今日は長くなるわよ」
マルティーヌに小声でそう言われた。
「確かに、エリザベート様楽しそうだね」
「ではあなた達、まずはレオンの採寸をしてちょうだい。レオン、衝立の向こうで採寸してもらいなさい」
エリザベート様は仕立て屋の方にそう告げて、俺にも衝立の向こうに行くように指示した。
「分かりました。ではよろしくお願いします」
「かしこまりました。衝立の向こうまでお願いいたします。私と一緒に一人来なさい」
仕立て屋の五人の方は壮年の男性と女性が一人ずつソファーに座り、他の三人の若い方が後ろで立って待機している。今回口を開いたのはソファーに座っていた男性だ。
多分俺の担当がこの男性で、マルティーヌの担当が座っている女性、そして後ろの三人がその補助って感じだろう。
そうして仕立て屋の方二人とロジェと共に衝立の向こうに行き、丁寧に採寸をしてもらった。
「レオン、マルティーヌのドレスの布だけどどちらがいいかしら?」
採寸から戻るとエリザベート様にすぐそう聞かれる。えっと……この二つの布に何か違いがあるの?
「……どのような違いがあるのでしょうか?」
「もう、これだから殿方はダメなんだわ。アレクシスもいつ聞いてもどちらでも同じだ。どちらでも似合っている。それしか言わないのよ! レオン、それではダメよ!」
「は、はぁ……」
「いい、まずこちらの布の方が少しだけ目が細かいでしょう? それからこちらの方が生地は薄いわ。もう一つの布は目が荒いけれど分厚い布ね。あ、それからこっちの布は……」
それから数分間、エリザベート様にここにある布の違いをレクチャーされた。うん、もう何が何だかわからなくなってきたよ。
「それでレオン、どの布がいいと思うかしら?」
はい、よくわかりません。そう答えたい! でも絶対に選ばないといけない雰囲気だ。
……どうしよう。確か最近の流行は薄くて綺麗な布を何枚も重ねたドレスだったはず。カトリーヌ様がそんな話をしていた気がする。
ということは、目が細かくて薄いやつを選べば大きくは外れないだろう……
「そうですね。こちらの綺麗な薄い布を何枚も重ねるのはどうでしょうか……?」
「まあ、やっぱりレオンもそう思うのね! 私もその布がいいと思ったのよ」
ふぅ〜、正解だったらしい。本当に良かった。
「マルティーヌはどう思うかしら?」
「そうですわね……、そちらの布は上に数枚重ねる形にして、こちらのしっかりとした布をその下に重ねるのはどうでしょうか? 冬は寒いですもの」
「確かにそうね。ではこちらの布を一番下にして、上にこちらの布を数枚重ねる形を基本にしましょう」
やっと布の種類が決まってきたみたいだな。
「では次はデザインを決めましょう。婚約発表ですしマルティーヌはまだ成人していません。露出は極力減らしてスカートはくるぶしまでの長さにしましょう。何か良いデザインはあるかしら?」
「かしこまりました。こちらはいかがでしょうか?」
仕立て屋の女性がすぐさま一枚のデザイン画を取り出して机の上に広げる。
「こちらはハイネックのドレスとなっておりまして、上半身はピッタリとしたスタイルを際立たせるもので、スカート部分はふんわりとボリュームを作り出すデザインです」
「あら、可愛いわね」
「お母様、私こちらのデザインが気に入りましたわ」
「ありがとうございます。ではこちらのデザインを基本として、色々と変更を加えていくのでよろしいでしょうか?」
「ええ、それでお願いするわ」
「かしこまりました。では先ほど皆様が選ばれた布ですが、スカート部分は重ねる枚数を増やしてボリュームを作りだし、逆に上半身は薄い布だけにするのはいかがでしょうか?」
「それはいいけれど、透けているのは相応しくないわ。薄い布では透けないように結局何枚も重ねることになるでしょう?」
確かに俺たちが選んだ薄い布はレースみたいな感じだ。これ一枚だけは流石にダメだろう。
「ではお母様、上半身は薄い布を使わずにこちらのしっかりとした布だけを使うのはいかがでしょうか?」
「それもいいけれど、できればこの綺麗な布を使いたいのよね……。レオンはどう思うかしら?」
エリザベート様、そこで俺に聞くのですか! そこは仕立て屋に聞いてください……
「私に聞かれましてもドレスには詳しくなく……」
「それでもいいわ。マルティーヌもレオンが考えてくれたら嬉しいと思うわよ」
エリザベート様はそう言って綺麗に微笑んだ。うぅ……俺には荷が重いです。
でも何かしら言わないとだよね。えっと、上半身が透けるのは嫌だけど薄い布を使いたくて、薄い布を重ねるのはスカートと被るから避けたいってことだよね。
「ではそちらのしっかりとした布の上に、薄い布を一枚だけ重ねるのはいかがですか?」
確か日本にもそんな服あったよね。俺からしたらその重ねてる薄いレース意味なくない? って思ってたけど、結構着てる人がいたってことは人気のデザインだったのだろう。
確かに透けてるけど素肌は見えないってところが良いのかもしれない。スカートとかでも結構そういうのあったよね。透けない布のミニスカートの上にめっちゃ透けてるレースのロングスカートが重なってるやつとか。
確かにあれは、良かった。
「一枚だけでは貧相ではないかしら?」
「いえ、一枚だけなので下の布が透けて見えるというところがおしゃれだと思ったのです。もちろん素肌が透けて見えるのは避けるべきだと思いますが、下の布が透けて見えるのは良いのではないでしょうか? 上の薄い布を白にして、下の布の色がうっすらと透けて見えるのも良いかなと思いました……」
なんか思わず力説しちゃったけど、これ結構恥ずかしいこと言ってない? 大丈夫かな、セクハラとか言われないかな? そう思って緊張しながらエリザベート様の答えを待っていると、エリザベート様は瞳を輝かせて興奮気味に口を開いた。
「レオン、それは素晴らしいわ! 今までにないような新しいデザインで、マルティーヌの婚約発表の場にふさわしいわね。レオンの案を採用しましょう。そちらでデザインを描き直せるかしら?」
「もちろんでございます」
なんか、凄く好評みたい……良かったのかな?
「マルティーヌ、エリザベート様が凄く乗り気みたいだけど良かったの?」
「勿論よ。新しいデザインの服なんて嬉しいわ。……もしかして、レオンの前の世界のデザイン?」
マルティーヌは他の人には聞こえない声量でこそっとそう聞いてきた。
「……そうだよ」
「他にもこの世界にないような服がたくさんあったの?」
「そうだね……かなりあったかな」
「じゃあ、今度その話を聞かせてね。それで私の新しい服を作るわ」
「分かった。思い出しておくよ」
次のシェリフィー様にもらう本、服のデザイン一覧の本にしようかな。俺の記憶は当てにならなすぎる。
「マルティーヌ、袖口のレースはどちらがいいかしら? それから首元の形だけれど……」
――それから数時間かけて、やっとマルティーヌの服のデザインや色、それから靴と装飾品が決まった。本当に疲れたよ。
マルティーヌのドレスは二週間後に着る物はその期間でできる限りのものを、そして冬の終わりに着る物は時間をかけて布から最高級品を作るらしい。二週間じゃ作り終わらない服って凄いよね。
「ではマルティーヌのドレスはこれで決まりね。次はレオンの礼服よ!」
そうしてそれからまた二時間ほどかけて、俺の礼服も決めた。俺の礼服はなんだかキラキラゴテゴテしていて本当にこれ着るの? ってデザインになった。この世界では身分が上がるほど男性も色々と着飾るのが普通らしい。
ジャケットは前側は短めなのに後ろは膝より少し長いほどの長さがある。なんでも、身分が上がるほどジャケットの後ろ側の長さが長くなるらしい。
俺は大公となり使徒という立場なので、ほぼ王族の方々と同じような服装で良いそうだ。というか、王族と同じ服装をしてくれると仲の良さが強調できてありがたいらしい。
ジャケットやズボンの色は濃いめの青と決まった。この国の王族は正装では基本的に青を纏うらしく、俺もこれからは青を纏っていくことになるらしい。なのでマルティーヌのドレスも薄い水色だ。
「ではあなた達、二人の衣装を頼んだわよ」
「かしこまりました。仮縫いは数日で終わりますので、終わり次第ご連絡いたします」
「分かったわ」
「では本日はこれで失礼いたします」
そうして仕立て屋の方達は帰っていった。この後お店で早速仕事に取り掛かるんだろう。これからほとんど休みなく作業するんだろうな……
頑張ってください。俺は心の中でそう応援して五人の方を見送った。
「とっても楽しい時間だったわ!」
エリザベート様は、仕立て屋の方達が帰った後にお茶を飲んで休憩している時、満足そうにそう言った。
エリザベート様全然疲れてなさそうなんだよね……凄すぎる。俺は一日中鍛錬してるのより疲れた気がする。
「そうですわね。素敵なものが仕上がりそうで安心しました」
マルティーヌもそう言ってエリザベート様に同意している。マルティーヌも服とか好きなんだね……やっぱり親子だな。
俺はもう、布なんてしばらく見たくないよ……
「マルティーヌ、お披露目が終わって時間が作れたら今度はレオンとお揃いの普段着を作るのはどうかしら? 色を揃えたりデザインを似せたりするのもいいんじゃない?」
「お母様! それは素敵ですわ」
「装飾品も二人で合わせてもいいわよね」
マジですか……俺は服なんてなんでもいいのでその場にいなくてもいいですよね?
「レオン、またその時は時間を作ってくださいね」
やっぱりそうですよね〜、俺も来ないといけませんよね。でもまあ、マルティーヌが楽しそうなところを見てるのは嬉しいからいいんだけど。
「かしこまりました」
「楽しみだわ!」
そう言って満面の笑みを浮かべたマルティーヌを見ていると、今日の疲れは全て吹き飛んだ気がした。うん、また服を作るのも悪くないかも。
そうしてその日は衣装を決めるのに一日を費やした。帰り際にアレクシス様にまた明日も来てくれって言われたからまた明日も王宮だ。……俺、忙しすぎるよね。
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