第255話 レオンの今後
「レオン様、レオン様? いかがいたしましたか?」
あっ……戻ったんだ。
目の前には俺に本を手渡したばかりのリシャール様がいる。本当に時間が止まってたんだな……、なんだか変な感じだ。
「今、ミシュリーヌ様に会いに行っていました」
俺はなんて言ったらいいのか分からず、とりあえずそう口にした。するとアレクシス様とリシャール様は俺の言葉を完全に信じてくれたようで、かなり驚いている様子だ。使徒様の信頼度が凄い。
「な、なんと! そのようなことができるのですか!?」
「ミシュリーヌ様にお会いになられたのですね!」
「はい。あっ、ミシュリーヌ様にこの本と一緒に杖があると聞いたのですが、ここにあるでしょうか?」
「ございます。リシャール」
アレクシス様がそう言うと、リシャール様が奥から杖を手に戻ってきてくれる。そして跪いて俺に掲げた。
「こちらでございます」
「ありがとうございます」
俺は恐る恐るリシャール様から杖を受け取った。
杖は予想よりかなり軽い。パッと見たところは何の変哲もない普通の杖だ。縦にすると俺の胸あたりまでの大きさで、材質は多分木かな? 豪華でおしゃれな杖だけど、特に何か力がありそうとかではない。
本当にこれで合っているのだろうか? ……ミシュリーヌ様に聞いてみようかな。
「あの、ミシュリーヌ様と連絡が取れるのか試してみても良いでしょうか?」
杖がこれで良いのかも確かめたいし、本当に連絡が取れるのかも試してみたい。さっきのは現実だと思うけど、こうして下界に戻ってくると夢だったんじゃないかと思ってしまう。
「もちろん何でもなさって下さい」
「ありがとうございます。では試してみますね」
そうして俺は神の遺物である本をしっかりと抱え直し、ミシュリーヌ様に呼びかけた。
「ミシュリーヌ様、聞こえますか?」
『レオン? 聞こえてるわよ〜』
すると本当にミシュリーヌ様の声が聞こえて来る。これ凄い、めちゃくちゃ便利じゃん。
「本当に話せるんですね、凄いです」
『私の力なんだから当たり前じゃない。それよりも近くの二人に跪かれてるわね』
「……あれ? ミシュリーヌ様って下界の様子を見れるんですか?」
『もちろんどこでも見れるわよ』
「じゃあ、覗きとかし放題なんじゃ……」
『失礼ね! そんなことしないわよ!』
「ちょ、ちょっとした冗談じゃないですか……」
神様って本当になんでもありなんだな。俺が今までバレないように教会を避けてた意味、マジでなかった。
『もう、本当に失礼なんだから。それで何の用なの?』
「すみません、一つ聞きたいことがあって。この杖が神物で合っていますか?」
俺はミシュリーヌ様が上から下界を見ているのかなと思い、杖を上に掲げた。
『ええ、それで合っているわ。なくさないようにレオンのアイテムボックスにでも入れておきなさい』
「そうなのですね。良かったです!」
これで穴を塞ぐための杖はゲットだ。あとはその穴に辿り着けばいいだけだな。
『じゃあ早くその二人を神の領域に連れて来なさいね。私は神託したらケーキを楽しむんだから。シェリフィーがとりあえず一つなら良いって言ってくれたのよ!』
ミシュリーヌ様は凄く嬉しそうにそう言った。うん、ミシュリーヌ様は期待を裏切らないね。
「それは良かったですね。じゃあ急ぎます」
『頼んだわよ』
ミシュリーヌ様ってスイーツのこととなると周りが見えなくなるし、新しいスイーツを開発するために必要なんだって言えば何でもやってくれそうだよね……
俺が悪い使徒だったらどうするつもりだったんだか。
そんなことを考えつつ、俺はアレクシス様とリシャール様の方に向き直る。
「アレクシス様、リシャール様。ミシュリーヌ様と話すことができました」
「このように気軽に話ができるとは……素晴らしいです。やはりレオン様は使徒様なのですね」
「はい、私は使徒みたいです。今まで否定していたのにすみません……」
俺は今まで散々否定してきたので、二人に頭を下げて謝った。すると二人は途端に慌て始める。
「レオン様、私たちに頭を下げるなどおやめ下さい! 何か理由があるのでしょうし、私達は気にしていませんので」
「ありがとうございます。……あの、お二人にもいつも通りに話していただけたらと思うのですが」
俺はミシュリーヌ様に神託をしてもらう前に、とりあえず自分でそう言ってみた。
「いえ、使徒様に対してそのようなことはできません」
しかしすぐにそう断られてしまう。
やっぱりダメかぁ。もうミシュリーヌ様に神託をしてもらうしかないな。そしてその後に色々話し合いをしよう。こんなに敬われてたら話しづらすぎる。
「分かりました。アレクシス様、こちらの杖と本をいただいても良いでしょうか? これから必要になるのですが」
「もちろんでございます。どうぞご自由にお持ち下さい」
「ありがとうございます。では遠慮なくいただきます。それからこの後なのですが、まずは私と一緒に中心街の教会へ向かっていただけませんか? そこでミシュリーヌ様からお二人に対して神託があるそうです」
「なっ……それは本当ですか!?」
そんなに驚くことなんだね……
「はい。出来るだけ早くとのことです」
「かしこまりました。今すぐに手配いたします」
リシャール様はその言葉を聞いた途端に立ち上がり、すぐに手配をするために部屋を出て行った。
あのミシュリーヌ様だからそんなに急いだりする必要はないんだけど、俺はそれを言うのはやめておいた。ミシュリーヌ様はなんだかんだ神様だし、ミシュリーヌ様が敬われている方が今後俺がやり易いし。
もしミシュリーヌ様の正体がバレて信仰心がなくなったら、俺もかなり生きづらくなるだろう。今後一番気をつけないといけないところはそこかも。
そうしてリシャール様がすぐに教会へ向かう段取りを整えてくれて、俺達は最速で王都の礼拝堂に辿り着いた。すでに人払いもされているようで中には誰もいない。
「ミシュリーヌ様、着きましたよ〜」
俺は礼拝堂の中に入るとまた本を手に持ち、ミシュリーヌ様に話しかけた。
『むぐっ、ちょ、ちょっと、待ちなさい、もぐっ……』
はぁ〜ミシュリーヌ様、絶対我慢できずに何か食べてるよ。この後食べるって言ってたケーキかな。
「ミシュリーヌ様、何か食べてますよね?」
『……さっきも言ったでしょ。ケーキよ』
「神託をしてからケーキを楽しむんじゃなかったのですか?」
『……こ、これはあれよ。つまみ食い……、味見よ!』
いやつまみ食いって言ったし、それに手作りな訳でもないケーキに味見なんか必要ないから。
やっぱりミシュリーヌ様には我慢を覚えてもらわないとダメだな。別にそのケーキを今食べるのに問題はないんだけど、我慢できないってところに問題がある。
「ミシュリーヌ様、神力を全てスイーツに使うのならば神力は増やしてあげませんからね」
『なっ、そ、それはダメよ! 無駄遣いしないから、お願いします……』
「ちゃんと自制してくださいね」
『分かったわ……だから、神力を増やしてね。お願いよ』
涙目で俺に神力を乞うミシュリーヌ様の様子が思い浮かぶな……それでいいのか女神様。
それに何故か俺が神様を説教して、神様が俺に神力を乞うっていう意味不明な構図になってるし。
まあ、もう気にしない方がいいな。神様に対するイメージなんて俺が勝手に思ってた先入観だし、ミシュリーヌ様みたいな神様もいるんだろう。
なんだかんだミシュリーヌ様って、この世界を助けようとしてるから良い神様だと思うし。
「分かりました。ではミシュリーヌ様、神託をお願いします」
『分かったわ!』
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