第253話 神界
「ミシュリーヌ様、この場所へは当然自力で辿り着かなければいけないのですよね?」
「そうよ」
「俺をこの穴の場所に落としてもらうことはできませんか?」
「それは無理ね」
「では、俺の魔力量を無限にしてもらうことはできますか?」
「それもできないわ。ただあなたの魔力量は使えば使うほど増えるから、無限に近づくことはできるわよ」
無限に近づくのじゃあダメなんだよな。やっぱり穴まで辿り着くのが厳しそうだ。辿り着きさえすれば、杖を投げ込めば良いんだから簡単だけど……
でも、どうにか頑張るしかないよね。
「……わかりました。かなり難しいとは思いますが、どうにか頑張ってみます」
「ええ、頼んだわ。私もできることは手助けするから」
「ありがとうございます」
まずは杖を手に入れるところからかな。本と一緒に落としたってことは宝物庫にあるだろうか。ミシュリーヌ様は知ってるのかな?
「あの、杖のありかってご存知ですか?」
「ええ、本と同じところに置いてあったはずよ」
じゃあ宝物庫にあるってことか。それなら良かった。
「分かりました。では頑張ります」
「頼んだわ。じゃあもう一つのやってほしいことの話に移っても良いかしら? レオンにはこの世界の文化を日本にできる限り近づけてほしいの!」
「日本に、ですか?」
この世界って日本に似てるところも多いなと思ってたけど、もしかして故意にやってたの?
「ええ、実は私は日本が大好きなのよ! だから食事も文化もできる限り日本に近づけてほしいの」
やっぱりそうなのか。……でも下界が日本文化になったからって、ミシュリーヌ様にメリットある?
「それをすることでミシュリーヌ様へのメリットってあるんですか? 日本風の生活を眺めたいとか……?」
「違うわよ。私は神力を使って何でも作り出せるけど、基本的には下界にあるものしか作り出せないの。だから私が日本の和菓子を食べたいと思っても今は無理。そこで下界を発展させてほしいのよ!」
ああ、やっぱりそういう仕組みになってたのか。だからさっきも和菓子をとかチョコをとか言ってたんだな。
「そういう仕組みになってるんですね」
「そうよ。だからレオンには感謝しているわ。クレープもケーキも最高!」
「それは良かったです」
「でもまだまだよ。最終目標は日本を超えることなんだから!」
「はぁ……」
何その意味わかんない最終目標。そもそも何を以て日本を超えることになるのかわからないし。
でもまあ、この世界が日本より文化的に発展していないっていうのは正しいだろう。それを発展させるのは俺もやりたかったことだし、協力するのもやぶさかではない。
でもそもそもなんだけど、何で今の世界はあんなに中途半端な感じなんだろうか? そんなに日本が好きなら最初からそういう国を作れば良かったんじゃないの?
「ミシュリーヌ様、何故今の国は日本みたいになっていないのですか? 途中から変えるよりも最初からの方が楽だと思うのですが」
「……それは、前の使徒だった子が中世ヨーロッパ風が好きなの! とか言って日本風にしてくれなかったからよ」
ミシュリーヌ様は少し遠いを目をしてそう教えてくれた。そうだ、前の使徒様のことも聞きたかったんだよね。
「前の使徒様って、俺と同じように日本からの転生者だったんですか?」
「そうよ。でもあの子は漫画やアニメが大好きで、中世ヨーロッパ風な世界で恋をするゲームだったかしら? そんなのにハマってて、この世界を日本みたいにしてくれなかったのよ。しかもあの子、食に一切興味がなかったし」
「あの、ちょっと待ってください。使徒様がいたのって何百年も前だって話ですけど、日本でも何百年も前ではないんですか……?」
日本で何百年も前って言ったら、江戸時代とかじゃないの? ゲームとか漫画とかないよね?
「違うわ。地球とこの世界では時間の流れが違うのよ。だからあの子がこっちに来たのは、日本時間ではレオンと数年しか変わらないはずよ」
「そうなんですね……」
世界間は時間の流れ方まで違うのか。俺ってさっきから凄い話聞いてるよな……なんか、色々と話を聞きすぎて訳分かんなくなってきた。
とりあえず、今まで聞いたことを整理しようかな。
まず俺は魔物の森をなんとかするために、それからこの世界に日本文化を広めるために使徒としてこの世界に転生した。しかし転生の際にミシュリーヌ様が失敗し、連絡を取るのが今になってしまった。
また、魔物の森はミシュリーヌ様が作ったもう一つの世界からやって来ている。
それから前の使徒様は日本からの転生者で、食に興味がなかったので食の発展はほとんどしてないし、中世ヨーロッパに憧れていたからこの世界は今のような状況になっている。
こんな感じかな……?
待って、今いるここがどこなのかとか、根本のところを説明してもらってないじゃん。まずはそこを聞こう。
「ミシュリーヌ様、色々と質問をしても良いですか?」
「もちろんよ」
「まず、ここはどこですか?」
俺がそう聞くと、ミシュリーヌ様より先にシェリフィー様が反応した。
「ミシュリーヌ、その説明もまだしてなかったの!?」
「わ、忘れてたわ。今からするところだったのよ。レオン、ここは神界よ。そうね、その世界の神がいるところって認識でいいわ」
「分かりました。では、俺はなぜここにいることができるのでしょうか?」
「あなたの意識だけを神界に呼び寄せてるからよ。私が神力で作った体にその意識を定着させているの」
……うん、ちょっとよくわからない。でもここを詳しく聞いてたらキリがないな。とりあえず次行こう。
「では、今俺の本来の体はどうなっているのですか?」
「下界のこと? それなら時を止めているから大丈夫よ」
「そんなことができるのですね……」
「神なんだから当然でしょ!」
残念でポンコツそうな女神様だけど、やっぱり神様は神様なんだよね。
「ミシュリーヌ、偉そうに言ってるけど最近まで神力がなくて何もできなかったでしょ?」
俺が少しだけミシュリーヌ様を見直していたら、シェリフィー様がそう突っ込んだ。
「そ、それは言わない約束でしょ!」
「大体レオンに感謝しないといけないんじゃなかったの? レオンのおかげで神力を貯める方法を見つけたんでしょう?」
「そうだったわ! レオン、アイテムボックスの魔法具を作ってその中身を時空間に放置したでしょう? あれをこれからももっとやりなさい!」
「どういうことですか……?」
「時空間に放置されたものは神力となって私の所に還って来るのよ! あれは凄いわ。あれがあればいくらでもスイーツが食べられる! この前は放置されたものが少なかったから少しの神力にしかならなかったけど、もっとたくさんのものを放置してくれれば凄いわよ!」
いや、それは凄いのかもしれないけど、使い道はスイーツなんかい!
はぁ、やっぱり残念だ。でもミシュリーヌ様の神力が増えればこの世界が助かる可能性も上がりそうだし、そこはちゃんと協力しようかな。ただスイーツに全て消費されないかが心配だ。そこは要監視かな。
「ではとりあえず、魔物を倒したら時空間に放置することにしますね」
「ええ、頼むわね! それでこれからの連絡方法なんだけど、あなたに本を渡したでしょう? あれは神物だからあれに触れば私といつでも話せるわ」
「今みたいに神界に来なくても話せるのですか?」
「そうよ。使徒のあなたなら、ほとんど神力も消費せずに話せるから」
「ではこれからはいつでも連絡していいのですか?」
「もちろんよ。私を頼りになさい!」
うん、めちゃくちゃ不安だけど神様は神様だからね。何かあったら助けてもらおう。
「よろしくお願いします」
「こちらこそよろしくね! レオン、色々と頼んだわよ。
この世界はあなたにかかってるの」
「もちろん全力を尽くします。自分が住む世界や大切な人達を守りたいですから。あっ、なので日本の文化については後回しにしますね」
「え、なんでよ!? 私の和菓子は!?」
「あの、そもそも和菓子の作り方なんて知らないですよ?」
「な、な、何ですってぇ!」
そんなに驚くことかな? 和菓子の作り方なんて知ってる人の方が少ないよ。日本の文化っていうのも、どういうものをイメージしてるのかによって変わるよね。
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