第251話 地球の神様
それから体感にして十分ほどが経過して、やっとミシュリーヌ様は帰って来てくれた。ミシュリーヌ様の顔を見た時は安堵して、思わずソファーに深く沈み込んでしまったほどだ。
だってこのよくわからない空間、ただひたすらに静かでどこまでも広くて怖いんだ。ずっと一人でいたら気が狂いそうな気がする。
そう考えると、神様って大変なのかもしれないな。
「レオン、待たせたわね!」
ミシュリーヌ様はそう言って元気に戻って来て、またソファーに座った。連れて来たもう一人の方はそのまま放置だ。
それでいいんですか……? というか、この方ってやっぱり、地球の神様?
「ミシュリーヌ! 突然一緒に来なさいって連れて来たと思ったら説明もなしとはどういうことなの!? あなたはいつもそうなのよ。もっと事前に連絡をしなさい!」
もう一人の人物は、十代後半ぐらいに見える黒のロングヘアがとても綺麗な女の子だ。瞳も黒なので俺にとっては親しみやすい。服装はかなり懐かしい着物を着ている。黒を基調として、豪華な花柄が白や金であしらわれている感じだ。
うん、凄く大和撫子って言葉が似合う。今はかなり怒ってるけど……まあ、全てはミシュリーヌ様のせいだな。
「こ、これから説明する予定だったのよ。ちょっとその拳を緩めて! しょ、紹介するわね、レオンよ」
ミシュリーヌ様は俺を盾にするように引っ張って、自分は後ろに隠れた。ちょっとミシュリーヌ様、酷いです!
「ミシュリーヌ様、自分が前に出てくださいよ」
「シェリフィーは怖いのよ……」
「だからって俺を盾にしないでください!」
そうしてミシュリーヌ様と押し問答をしていると、地球の神様らしい人が近づいて来た。そして俺の顔をジロジロと見てくる。うぅ……怖いんだけど。俺まで怒られたりしないよね?
そう思って緊張して体を固くしていると、突然地球の神様に肩をぐいっと掴まれた。そして引き寄せられてぎゅっと抱きしめられる。
「……やっと会えたわ。大丈夫? 生活は辛くないかしら? ミシュリーヌの馬鹿のせいで平民に転生したんでしょう? ミシュリーヌの言葉を信じて安易に魂を渡した私が悪かったの。本当にごめんなさい。ここまで馬鹿だとは私も思ってなかったのよね……」
「ちょっとシェリフィー、私が馬鹿って言い過ぎよ!」
「その通りでしょう?」
「あれは、不可抗力のミスなのよ」
「それでもあなたの神力が潤沢ならば、こんなに長い間苦しませることもなかったでしょう!」
「……そ、それは、確かに、そうだけど…」
ミシュリーヌ様は反論の術を失ったらしい。この二人はシェリフィー様の方が強いのかもしれないな。ポンコツな妹としっかり者のお姉ちゃんって感じだろうか?
シェリフィー様の方が圧倒的に頼りになりそう。
「あなたの今の名前はレオンって言ったかしら? 私はシェリフィーよ。地球の神をしているわ」
「は、初めまして、レオンです」
「これからは私もあなたを助けるから、何かあったらいつでも言ってね。ミシュリーヌは役に立たないでしょう?」
「まぁ……」
俺はその言葉になんて返したら正解なのかわからず、かなり曖昧な返答になってしまった。確かに役に立たなそうな雰囲気しかないけど。
するとそのタイミングでちょうどミシュリーヌ様が口を開く。
「シェリフィー、レオンが日本での最期を知りたいって言うからあなたを呼んだのよ」
「そうなの? レオン、日本での最期を知りたいのかしら?」
「は、はい。もし知ることができるならば……」
「あなたの最期ははっきりと覚えているわ。あなたは工場の爆発に巻き込まれたのよ」
「工場の、爆発……?」
最後の記憶になんとなく爆発の記憶があったのはそういうことだったのか。それにしても、爆発に巻き込まれるなんて運がない死に方だな……
「ええ、あの爆発で死んだのは全部で三十七人だったわね。その中であなたが一番の即死だったから、死ぬ時の記憶がほとんどないだろうと思って転生させる魂に選んだの。多分何処かを歩いていたら気づかないうちに死んでたって感じじゃないかしら?」
「確かに、その程度のことしか覚えてません」
「良かったわ。死ぬ時の記憶があるとそれに一生苦しむ人もいるのよ」
もう日本でのことは過去の思い出になっている俺からしたら、苦しまずに死ねたのなら良かったのかなって感情しか湧いてこない。それだけこの世界に適応したんだな。
「教えてくださってありがとうございます。少し気になっていたので知ることができて良かったです。あの、俺を転生させる魂に選んでくださってありがとうございます。俺はこの世界に来れて良かったと思っています」
「そうなの? そう思ってくれてたのなら良かったわ。ミシュリーヌに失敗したって聞いた時は、本当に申し訳ないことをしたと思ったのよ」
「いえ、今の家族の一員になれて良かったです」
「それなら良かった。私も安心よ」
そうしてシェリフィー様が微笑んでくれたところで、皆でやっとソファーに座ることになった。
「じゃあ話の続きだけど、どこまで話したんだったかしら?」
「俺を転生させた目的の話です」
「そうだったわね。あなたに魔物の森への対処してもらうために転生させて、それが失敗したところまで話したのよね」
「はい。そのあとはどうして今まで連絡がなかったのですか?」
「それには深いわけがあるのよ……」
それからのミシュリーヌ様の説明をまとめると、神力という神様が力を振うのに必要なものが足りなくて連絡が取れなかったらしい。さらに神力を増やそうにも信仰もされていなくて、全然貯まらなかったんだとか。
そこで女神像を光らせてたんだそうだ。あの話にこんな裏話があったなんてね……
「レオン、あとミシュリーヌは少ない神力を使ってクレープを作り出してたから、より神力が貯まるのが遅くなったのよ」
シェリフィー様が口を挟んでそう教えてくれた。そういえば、最初にクレープとかスイーツの話をたくさんしてたよな。和菓子が食べたいとかチョコも欲しいとか色々言われた気がする。下界にあるものはミシュリーヌ様が神力で作り出せるってことなんだろうか。
それならこれ以上作らない方がいい気がしてきた……でも、俺も食べたいんだよね。
「シェ、シェリフィー、それは内緒でしょ!」
「全部話さなきゃダメに決まってるじゃない」
「で、でも最近は、ちゃんと我慢して神力を貯めて人間の王に神託したのよ! ずっと我慢してたんだから!」
「私が地球からスイーツをあげてたから我慢できたんでしょう?」
え、地球からスイーツとか持って来られるの!? それ俺も食べたい!
「それはそうだけど……」
「あら、もう必要ないのかしら。じゃあもう持ってきてあげないわよ」
「それはダメ! ……シェリフィーごめんなさい。これからもスイーツのお土産をお願いします」
ミシュリーヌ様はスイーツをもらえないと言われたら、途端に下手に出ている。現金な女神様だな……
「しょうがないわね」
「シェリフィーありがとう! やっぱり大好きよ!」
「はいはい。私もよ」
「レオン、私はちゃんと我慢したのよ!」
ミシュリーヌ様はシェリフィー様には褒めてもらえないと思ったのか、俺に話を振ってきた。
「それは……ありがとうございます?」
「もっと褒めてくれてもいいのよ!」
「……遠慮しておきます」
「なんでよ!」
いや、そもそもミシュリーヌ様が使いすぎた神力を回復させるために我慢してたんだから、自業自得というか……
「話が進まないので、続きをお願いします」
「……褒めてくれてもいいのに」
ミシュリーヌ様はそう呟いていじけたような顔を見せる。面倒くさい女神様だな!
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